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その6

「ブフォッ!ブフォッ!」

ーザカッ!ザカッ!ザカッ!ー

外は一面の銀世界。

雪に覆われ真っ白な街道を、四頭のオウラ(巨大なヘラジカのような動物)が降り積もった雪をかき分け、

猛烈な吹雪の中、大きな乗り合いのソリ[ロール]が進む。

ソリと言っても馬車の車輪がソリになった乗り物で、ロールは雪深いこの地方のポピュラーな冬の移動手段だ。


ロールの車内には暖房設備が無い。そのため、乗客自身が温かい恰好をする必要がある。

分厚いコート、毛糸の上着、毛皮の襟巻、革の手袋…人それぞれだ。

だが、そんな乗客の中に一人だけ、明らかにコートの下が薄着だとわかる女性が。

女性は、コートの前をしっかり合わせ、縮こまっている。

他の乗客は皆ブーツだと言うのに、裾から見える足にはなんと、粗末な室内履き。靴下も履いてないようだ。

毛糸の帽子を目深にかぶり、コートの襟を立て、まるで顔を見られるのを拒んでいるような。

他の乗客もそんな彼女を訝しがって距離を取り、チラチラと見るだけ。

窓ガラスに映る女性の顔のアザに、隣の乗客がギョッとして視線を前に戻す。

女性はそんな好奇の視線に無視を決め込み、カタカタと寒さで小さく震えながら、車窓の外を眺めている。


女性は、凍えるように寒いロールの車内で冷たくなった指先を、顔のアザに当てて冷やす。

『…家に着く頃には、少しは腫れが引いてるといいけど…。』

女性は窓に映った浅黒い頬のアザから、外の風景に目を戻す。


街を出てから半日。北に位置するこの地方の、冬の陽は長い。

それでも日は落ち、夜の帳も下りたが、外の景色は一向に変わらず、ずっと真っ白だ。

外は一面の銀世界。視界を遮る吹雪は止む様子もない。

『あの娘…どうなったかしら…。無事に助けてもらえたかな…。』

目を閉じて、街での出来事を思い出す。

目を閉じたのに、焼き付いた雪景色のせいか、目の前は真っ白だ。

『あの娘…明るくて人懐っこくて…いい子だったな…。』

『いい子すぎて…まぶしかったかな…。』

『無事に助けてもらえたかな…。』

少女が自分の身代わりに攫われ、それを追う男の姿を思い出す。


『あの人、あの娘とどういう関係かしら…。カッコ良かったわね…。』

『…私だって、助けてもらいたかった…。』

『一生懸命…頑張ったんだけどな…。』

街で必死になって働いた、辛く不遇だった日々を思い出す。

『でも…誰も…。』

彼女は、絶望した日の事を思い出し、目を強くつむる。

目に焼き付いた純白の世界は、真っ黒になった。

『汚れちゃったな…。』

再び目を開いて、車窓の外を眺める。

『明日の昼までには故郷に、テウム村に帰れる…。』

外は一面の銀世界。吹雪は止む様子もなく、なお一層強くなっていたー。


つづく


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