プロローグ
「ハイポーション1000本、確かに受け取りました。
本当に助かりました、ソーヤさん!」
ココは冒険者ギルドの応接室、そのギルドの受付嬢[フルーネ]が大きな胸を撫で下ろす。
「ま、お得意様だしね。
じゃ、この受領書のココに判子お願いね。」
「ハイ。」
俺は机に受領書を出すと、フルーネがそれに判子を押す。
「で、こっちが請求書。ココにも判子お願いね。」
次に差し出した請求書を見て、フルーネの顔が曇る。
「…特別特急料金…。」
「うん、特別特急料金。」
「何とかなりませんかっ、ソーヤさんっ!」
フルーネの声が部屋に響く。
「なんとかって…。」
「だって!特別特急だからって、高すぎですよっ!」
確かに、請求書には0が大量に並ぶ。
「この額はいくらなんでも法外ですよっ!」
「お嬢さん…。在庫チェックをミスったから、大急ぎでって依頼してきたのは誰だっけ?」
「ワタシです…。」
「このままじゃギルド長に大目玉喰らって、冒険者達からは白い目で見られて石投げられるぅって、通信魔道具が壊れそうな大声で泣きついてきたのは誰だっけ?」
「ワタシです…。」
「アールオートからココまで、普通なら何日?」
「15日…。」
「30日!1ヶ月だよ!どんだけサバ読むんだよ!」
「す、すいません!」
フルーネは大きな瞳に涙を一杯溜めて縮こまって謝る。
「で、俺はそれを、5日で配達したワケだよね?」
「はい、非常に助かりました…。」
「じゃあこれ位請求してもおかしくないよねっ!
それをボッタクリかインチキみたいにさっ?!」
「す、すいませんっすいません!」
ペコペコ頭を下げて謝ってばかりのフルーネの顔に、俺は請求書を押し付ける。
「もうさ、ギルド長に素直に報告して、ちゃんと謝れば?」
俺は解決策を提案するが、
「このギルドも経費削減で、ミスは自腹になったんですよぉ。」
「それはまた…随分ブラックな話だなぁ。」
「こんな額払ったら、今月のお給料がなくなっちゃいますぅ。」
俺は前世のブラック企業での社畜生活を思い出し、涙目のフルーネに同情する。
「お得意様だしな…しょうがないか。」
「ほ、本当ですかっ?!」
「その代わり…。」
俺は受付嬢を手招きし、
「また夜のオツキアイ、お願いね♡」
「////」
俺が耳元で囁くと、耳まで真っ赤にしたフルーネはソッポを向いて、
「だ、ダメですよもうっ!あの時はお互いちょっとお酒が入ってー。」
「え~?だってノリノリだったじゃ~ん!や~ん♡ソーヤさんスゴ~い♡もっとぉ~♡って。」
「ちょっ!?ちょっとヤメてください!」
ギルド中に響きそうな俺の大声に、フルーネが慌てて口をふさぐ。
「ま、支払いは月末だからさ、まだ時間あるでしょ?
それまで考えといて、ね?」
羞恥で震えるフルーネの肩を叩くと、俺は応接室の扉に向かう。
「いい返事待ってるよ~♡」
「エッチ!変態っ!すけべっ!バカァっ!」
フルーネの罵声を背に、俺は応接室を出る。
「ソーヤ、終わったの?」
応接室の外の椅子に座っていた少女が駆け寄ってくる。
この娘は[フィン]。竜人族の少女だ。
希少種だそうだが、詳しくは知らない。
「ああ。いい子にしてたか?」
「うん!フィンね、いい子にしてた!だから!」
そう言うと、フィンが俺の股間に手を伸ばす。
「ソレは、部屋に帰ってからだ。」
「え~、いい子にしてたのにぃ~。」
不満そうなフィンをなだる。
「我慢した方が、濃ぃ~のが出るぞぉ~?」
「ほんとっ?!じゃあ我慢するっ!楽しみだなぁ~♡」
フィンのご機嫌が直った所で、
股間に伸びていたフィンの手を握ると、手を繋いでギルドを後にする。
ギルドを出て大通りを歩く。
街は活気に溢れ、店先には商品が所狭しと並べられている。
とても街の外、街道や森の中には魔物が跋扈し、
各地で魔王軍との戦いが続いているとは思えない。
俺は馴染みの露店で好物の串焼きを買い、フィンと二人で頬張る。
「次はどこに行くの?」
「次の予定は…。」
俺は胸ポケットからメモ帳を取り出し、次の依頼主を調べる。
「フィンはね、あったかいトコがいいなぁ。」
「あ~残念、北の都[ホルク]だな。」
「え~。寒いのはイヤだなぁ。」
「ハハ、我慢我慢。」
「ぶ~。」
俺は串焼きのタレで汚れたフィンの口元を拭ってやる。
「さ、楽しい楽しいお仕事だ。」
「お~。」
俺と相棒は、街の北門目指して歩いた。
ソーヤとフィンの物語、はじまり、はじまりー