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プロローグ

「…あ。お姉ちゃん」

「……おかえり?」

「う、うん。……あ!今日の夕飯だけど」

「うん」

「今日も部屋で食べるから。そんだけ」

「うん。わかった」


小さい頃、私は足を失った。

勿論それを悔やんだってどうしようもない。子供用の義足はなくて、両親は泣きながら私に謝った。

そして、9歳の時に私に妹が出来た。

その頃は頑張って車椅子の使い方を覚えてた頃だっただろうか?あんまり覚えてないが、とても苦しい時期だったのを記憶している。

……だからだろうか。


「今まで妹と話せた事がない」

「いやそれを私に言われても」

「だよね」

「いや本当に。なんで私に電話してるのさ」

「最近妹が部屋に籠りっきり。そして全部屋防音の所為で何してるのかわかんない。ご飯は食べてくれるんだけど…」

「学校には行ってるんでしょ?まだマシじゃない」

「話したい」


駄目だこりゃと電話越しで呟くのは、私の親友の茉菜(まな)

足が失ってからもずっと一緒にいてくれた親友でもあり、私の背中を任せられる大事な“相棒(片足)”でもある。

何故か私の足が無くなった時に私よりも泣いてたりした記憶があるが、其処を突っつくと怒られ…それが心地良くて偶に突っついたりする。


「はぁ…こっそり何してるか聞いてみたら?」

「別にって答えられた」

「……じゃあ、お風呂に行ってる時に監視カメラとか?」

「…それは犯罪」

「え?」


何そのえっって言葉、怖いんだけど。

まさか私の大事な親友が犯罪行為に手を染めてたとかないよね……ないよね?


「…まぁそれは置いておくとして……そろそろ時間じゃない?」

「時間…あ、そっか」

「まぁ今は辛い事忘れて楽しみなさいな。後今日遅くまで起きちゃ駄目だからね!」

「はいはい」


そういいながら茉菜との電話を切ってから、私は大画面のモニターにウィンドウを開き…其処に映し出されている待機中と書かれた文字列を見て小さく息を吐いた。

…そう。私の最近の趣味はVtuber漁りである。個人でやってる人から企業勢まで幅広く見ていたのだが…最近ようやく推しという奴が出来た。

それが彼女、“緋雪(あかゆき)|リリア”というVtuberだ。

声、声がいい。妹の声に似ているというのもあり私は速攻でメンバーにも入ったしボイスも買ったし限定グッズも買った。企業勢最高。

後設定もそうだ。現実だと思ったことを言えないけどこの世界だと沢山本心を言えるという設定に忠実なのか、よく“お姉ちゃん”の事を沢山語っている。

私の妹もそうだったらなーとか考えている内にどんどんはまり、今ではこうなった。マジ沼。


『みんなー!こんゆきー!』


あっ、因みに私はROM専。つまりコメントせずに見る人だ。

正直コメントが読まれたらという感情は持つが普通にスルーされてネットのゴミになるだけだし、後は作業BGM代わりとしても聞いているからというのもある。


「…さて、練習だ」


とりあえず待機画面を見ながら私はヴァイオリンの調弦を行う。

足が無くなった時に何が出来るかと考えた時、最初に思いついたのがこれだったのだ。

親も何も言わずにレンタルさせてくれて、そのお陰で私は特技が新しくできた。


「……んー」


というかなんか音が悪いという事で調弦。やっぱり室温一定に保たないと…でも電気代がなぁ…。

そんなことを考えながらも私はヴァイオリンを弾き始める。とりあえずクラシック。

色んなものを弾き続けながら画面からの音を聞き続けていると……一つのコメントが私の目に入った。


【あれ、後ろでなんか曲鳴ってる?】

『え?いや入ってないと思うけど…ちょっと確認してみるね』

【なんかクラシックっぽい曲だた】

【ね。聞いたまんま始めてたのかな?】

【でも聞こえたのはさっきからだったぞ?】


どうやら不慮の事故が発生したらしい。まぁ生放送あるあるだ。

そんなことを考えながら曲を弾き続けると、コメ欄が再び騒ぎ出した。


【わかった。これ幸さんのヴァイオリンだ】

「うぇ!?」


思ったよりびっくりした。まさか推しの放送で私の名前が出てくるとは思わなかった。

というかなんで知ってんだよ怖いな。というか本当か?

唯…もし推しが私のヴァイオリンを聞いてくれるとあればそれは本当にうれしい事だ。そういえば趣味に音楽鑑賞とか言ってたっけ。


【誰か曲名当てクイズしようぜ】

【1曲:魔王、2曲:Pues que me tienes, Miguel, por esposa、3曲:ロシア民謡のカチューシャ】

【バケモンいて草】

【よくわかったな】


本当だよ。よく私が弾いたのを当てられたな全く。

……ん?私が弾いたのを?当てた?推しのコメント欄で何故か?

…今度は早い曲を更に早く弾いてみる。指慣らしでいつも弾いてる曲だから寝ながらでも間違わないという自信を持つ曲だ。


【はっえ。というかうっめ】

【4曲:Zigeunerweisen第三楽章。俺の持ってるCDを参照してもこの速さで引いてる人いないんだけど】

【リリアちゃんが本当に幸さんの妹の可能性も?】


あっこれ私のヴァイオリンの音が入ってるわ。

流石に自分の演奏した音を、例え機械越しだったとしても聞き間違える程愚かではない。

という事は私のヴァイオリンの音が何処かに漏れてる可能性があるが……窓はちゃんと閉めているし、扉だってちゃんと……ちゃんと?


「あっ、二つ目の鍵開けたままだった」


確か二つ目の鍵は外側からでも開けられるようになってはいるが、今の家に私の部屋の鍵を開ける人は誰もいない筈だ。

両親は働き詰めでいないし妹は普通に部屋に引きこもっている筈だ。

……一応、ちょっとだけ確認するだけだ。扉をこっそりと開けて、私は妹の部屋の方を見つめる。

普段厳重に閉まってる筈の扉が、初任給を貰った財布の様に開いていた。

そして、なるべく音を立てない様に車椅子を動かしながら妹の部屋の中を見つめると……


「ごめーん!わからなかったけど音消えたかなー?」

【OK】

【むしろずっと聞いててほしいまであった】

【リリアいる?】

「いるに決まってるでしょ?!それじゃあ早速始めるよー?」


其処には私が先程まで見ていた画面よりも更に詳細な画面が写り、更には顔を見ずとも笑顔とわかる声を出しながら喋る。


「…今日のお姉ちゃんはねー」


私の愛しの推しの姿があった。

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