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01 うちの姉に縁談が来たらしい



「フレイ、すぐに準備をしろ」


 今朝は、目覚まし時計よりも前に父さんの声に起こされた。

 半分眠ったまま着替えを終えたとたん、僕は朝食もそこそこに馬車へと詰め込まれてしまった。


「ど、どこに行くの……?」

「家に帰る」


 父さんは真顔で短く答えた。

 かくして、僕は唐突に王都へ帰ることになった。


 僕と父さんを乗せた馬車は、早朝の野百合の谷(リリエンタール)を駆け抜けていく。

 窓の外には、まだ雪の残る峰を遠景に柔らかな草原が広がっている。

 今日はリーリエたちとピクニックに行く約束だったんだけどな。――まあ、小鳥の丸焼きを食べずに済む点に関しては良しとしよう。




 突然の帰郷のきっかけは、昨夜遅くに父さんの元に届いたという一通の手紙だ。

 差出人は「シュミッツ・ローゼンフェルト」。

 僕の、一番上の兄さんだ。


「僕も手紙、読んでいい?」

「ああ」


 父さんが封筒を手渡してくれる。

 開いてみるとウンザリするほどの長文だったので、ざっと要件だけを流し読みしてみる。



『先日、妹ユディエッタとバークレイ家の子息が、顔を合わせる機会がありました。

 ……本人たちは互いに意気投合し、その後も何度か歓談の場を設けています。

 ……つきましては、婚約を前向きに考えていきたい所存です』



「……ええっ!?」


 僕は思わず声を上げてしまった。


「えっと……つまりユディ姉さんが誰か男の人と知り合って、もう婚約がどうとかこうとかの話になってるってこと⁉」


 父さんは長い溜め息をつき、同意とも独り言ともつかない呟きを発した。


「ああ。意味が分からん」



 僕は四人きょうだいの末っ子で、二人の兄と一人の姉がいる。

 上からシュミッツ兄さん、アーマイズ兄さん、そしてユディエッタことユディ姉さんだ。

 姉さんは十八歳だから、縁談が持ち上がるのも不自然ではない。

 だけど今回の知らせはあまりにも急すぎた。父さんにしても、全くもって寝耳に水の話だったのだ。


(ユディ姉さんが、婚約だって……?)


 僕にも、にわかには信じがたい話だ。

 自分の姉に対してこんなことを言うのも何だけど、ユディ姉さんはなんというか、ちょっと浮世離れした人なのだ。

 人並みに恋だとか愛だとかという話が、ちょっと想像できない。

 それはそうと、姉さんに会うこと自体は楽しみでもある。僕は三人の兄姉の中で、ユディ姉さんが一番好きなのだ。



 こうして僕と父さんは、翌日の夕方、自宅へと到着した。

 野百合の谷から王都まで、普通ならば馬車で丸二日かかるところを考えると、ずいぶん飛ばしてもらったことになる。


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