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仕事の準備

少し長いです。



「あ"あ"――――――つ、疲れたぁ…………」



 自室のベットに倒れ込んだ(れん)は疲れを吐き出すかのように、溜め息()じりに言葉を発した。


 アイスクリーム屋の後、蓮は美榛(みはる)と一緒に(半ば連行のようになっていたが)パフェやクレープなど、様々なデザートを食べ回ることになった。さすがにアイスクリーム以外は、美榛も自分の分の代金を払っていたため、蓮の懐は(元から寂しいが)これ以上寂しくなることはなかった。


 数分後、蓮はベットから上半身を起すと、パーカーを脱ぎ捨てる。窓の外を見ると、もうすっかり夜になっているのでお風呂を先に済ませた。


 夕飯は………美榛とのデザートめぐりで空腹ではないので、今日は無しにした。これ以上食べれば胃の中身をリバースしかねない。


 風呂上がりに、冷蔵庫に置いてある牛乳を飲む。風呂上がりでポカポカとした温かい身体に牛乳の冷たさが染み込んだ。


 ちなみに今の蓮は、シャツ一枚に半ズボン、頭には少し湿ったタオルが乗せられているというラフな格好をしている。



『―――――――!―――――――!――――――!』



 ベットに投げ捨てたパーカーから電話の着信音が鳴り響く。パーカーからスマホを取り出す。誰だろうかと思いながらスマホの画面を見ると、そこには不明と表示されていた。


 少し不審に思いながらも、蓮は通話ボタンを押した。



「もしもし―――――?」


『よぉ、久しぶりだなぁ……。オメーさん、元気にしてっかい?』


「――――――――ッ!!」



 やたらと渋い声が蓮の耳に届く。それを聞いた蓮は、少し目を見開いて驚いたような表情をする。


 それを知ってか知らずか、電話の向こうの相手は「くくく……」と声を漏らしている。子供のイタズラが成功した時のような、不適な笑みを浮かべているのが容易に想像できた。



「………何の用ですか?如月(きさらぎ)弦蔵(げんぞう)隊長?」



 蓮は電話相手の名前を呼ぶ。


 ―――――――如月弦蔵。日本の東京に位置する場所で、《対魔物殲滅(せんめつ)部隊》の隊長を務めている人物だ。見た目はただのおっさんだが、実力は確かだ。


 蓮はそこに所属している事になってはいるが、もう長い間連絡一つ取れない状況だったため、てっきりリストラされたのかと思っていた。



『ちょいと仕事が入ったんで、お前さんに伝えようと電話したんだよ』


「リストラした訳じゃないんですね…」


『馬鹿言え。オメーさんみたいな有能な人材をそう易々と手放す訳ねぇだろう?』


『てか、一年振りに再会したってんのになんか冷たくねぇか?』


「気のせいですよ」



 如月隊長がどこか不満そうに言うが、蓮はそれに付き合うつもりはないので、適当に流しておく。


 仕事か……。今日も平和な1日で終わると思っていたが、どうやらそうもいかないらしい。



「如月隊長、そういえばどうやって電話を?この学園都市は許可がない限り、外からの電波を受信出来ないはずですが?」



 蓮は至極真っ当な質問をすると、如月隊長が「あぁ、それのことか」という風に呟いた。



『なぁに、外からの電波が駄目なら内側から電波飛ばせばいいだろ?』


「学園都市内に侵入したんですか?」



 蓮は少し顔をしかめて問う。そんな事をしたらただでは済まないと如月隊長も知っている(はず)だ。しかし、あの男ならやりかねないという不安が蓮の心に押し寄せた。


 だが、返ってきたのは如月隊長の不機嫌そうな声だった。



『あぁ?さすがにそんな事はしねぇよ。してぇのはやまやまだが、《評議会》と《枢機卿(すうききょう)》の奴らに目をつけられるのは避けたいからな。ちゃんと()()()()()()()許可は貰ってあるから安心しろ』


「《対魔物殲滅部隊》としての許可は降りてないって事じゃないですか…。全然安心出来ませんよ…」



 如月隊長の不安しかない言葉に蓮は思わずツッコミを入れてしまった。


 つまり如月隊長は《対魔物殲滅部隊》に所属している事を隠し、あくまで一般人としてこの学園都市に入って来たのだろう。


 もしバレたら東京を拠点にしている本部もかなり非難される事になる。《対魔物殲滅部隊》をよく思っていない《枢機卿》などは、ここぞとばかりに非難するのは目に見えている。最悪、解散という恐れもあるのだ。


 それなのにこの隊長ときたら――――蓮はこめかみを押さえ、盛大な溜め息を吐いた。



『ま、取り敢えず集合場所と時間だけ伝えとくわ。集合場所は、学園都市の東側にある第二繁華街(はんかがい)区画のスカイホテル。部屋番号は1107で、集合時間は11時。悪いが内容はそこで話す――――――以上だ』



 如月隊長はそれだけ伝えると『遅れるなよ?』と言って電話を切った。ツー、ツー、と電話が切れた時の音が鳴る。


 色々と()きたいことはあったが、どうせまた後で会うので、蓮は電話を掛け直すのをやめ、手に持っていたスマホを机に置いた。



(仕事ねぇ……。随分(ずいぶん)と懐かしいな…)



 蓮はベットに横たわり、少しだけ目を閉じた。


 蓮が《対魔物殲滅部隊》に入隊したのは、今から約五年前のことだ。


 《古代遺跡(ダンジョン)》は基本的に学園都市に出現することが多いが、ごく稀に例外もある。蓮が以前滞在していた日本に、その《古代遺跡》が出現したのだ。


 住民達が避難するなか、蓮は《古代遺跡》から溢れだした魔物を始末していたが、次々と出て来るのできりがないと思い、《古代遺跡》の内部に侵入して親玉を潰したのだ。


 その噂を聞き付けた《対魔物殲滅部隊》は、蓮をスカウト――――――お金に困っていた事もあり、蓮はその場で入隊することを決めた。


 それから四年後――――――――蓮は学園都市に通う事を決める。学園都市の存在を知った時、最初に決めてあったとある目的を果たすために。


 その頃は丁度、学園都市が魔力のある人々を集めている時期(いわゆる入学式みたいなもの)だったので、それに便乗する形で学園都市に通う事になったのだ。その際、時間がなかったので部隊の人達に書き置きすると、蓮はすぐに出ていった。


 そして今に至る訳だが――――――先の事を考えるとはぁ、と蓮は溜め息を吐いた。書き置きには確かクビにしても構わないって書いておいたと記憶しているが、どうやらそう簡単には辞めさせて貰えなさそうだ。


 取り敢えずテレビをつけて、今何時かを確認するために、部屋の壁に設置されてある時計を見る。



(8時57分か……。仕事あるし、深夜アニメの録画予約でもしておくか……)



 蓮はテレビのリモコンを操作して深夜アニメの録画予約を済ませる。時間が余ったので、番組を変えて暇潰しにニュースを観ることにした。


 ニュースは相変わらず侵入したテロリストの事ばかりで、テロップには夜は家から出ないよう注意書きされている。最近何かと物騒なので蓮は美榛がちゃんと自室に帰れたか心配になった。


 何度か番組を変えてみるが、どれもテロリストの事について話題は持ちきりだった。警察側も、大勢の捜査隊を派遣しているが、未だに見つからないようだ。


 それにしても―――――と、ニュースを観た蓮は微かな違和感を覚える。国に比べればかなり土地の範囲が狭いこの学園都市で、どうやって警察側から証拠一つ残さず隠れ続ける事が出来るのだろうかと疑問に思う。


 それにテロリストの規模もはっきりしていないし、何よりも本当にテロリストが紛れ込んだのかどうかですら、怪しいのである。


 もし、テロリストがいないのなら警察側はいったい何が目的でこんな事をしているのか――――――また、テロリストが紛れ込んでいたとしても少数精鋭である可能性が高い。


 蓮はしばらくニュースを観続けていたが、やがてテレビのリモコンを操作して電源を落とした。時計を見ると、9時32分と表示されている。



(――――――そろそろ行くか…)



 時間を確認し終えた蓮は、立ち上がってクローゼットの方に向かう。そしてその中に掛けられてある黒服を取り出して着替える。ズボンにはいくつものポケットが付いており、見た目よりも実用性が求められている物だと判断出来る。


 更に上から黒色のコートを羽織る。内ポケット3つに外側のポケットが4つ。合計7つのポケットが付いており、そこには色々な小道具や隠しナイフも入っている。


 蓮はベットの下から棺桶(かんおけ)のように巨大な箱を引きずり出す。誰かの死体が入っていそうな不気味なデザインのそれは、蓮の着ている服装で背負うとさぞかし似合うだろう。


 ギィ―――――、と物音を立てて重い(ふた)を開ける。するとそこには、部屋の照明を当てられて黒光りする狙撃銃―――――――――スナイパーライフルがあった。


 しかし、平均的なものよりも明らかに異なる点がある。そう――――――それはスナイパーライフルの構造にあった。このスナイパーライフルは、とある人物に作って貰った特注品(オーダーメイド)で、通常のものと比べて数倍大きく、なんとその大きさは蓮の身長より少しだけ小さいといったものなのだ。


 しかも、これは《聖遺物》を素材にしたものであり、(いく)つもの特殊な魔術が付与された世界に一つだけの代物だ。実弾だけでなく、魔力弾や超電磁砲(レールガン)も撃ち出す事も可能だ。


 しかしこれにも欠点があり、超電磁砲を一発撃てば1日程再び撃つ事が出来ない。撃つのには莫大なエネルギーを必要とし、それを一気に消費すれば必ずショートする。だが威力は折り紙つきで、大型の《古代遺跡(ダンジョン)》を貫いて大穴を開ける事が出来るのだ。


 (あらかじ)め魔術が付与された弾―――――通称、魔力弾の場合は100発が限界だ。魔力弾は、弾に付与された魔術によって様々な効果を発揮する。負担は超電磁砲よりもかなり軽いが、ない訳ではないので連続で使用すると、その分だけ負担が大きくなる。


 通常の弾の場合は使用しても負担はなく、弾がある限り撃つ事が可能だ。しかし、通常の弾だと防御系の魔術が付与された物を貫く事が出来ない。それでも強力な事には変わらないが、防がれた場合、こちらの位置を特定されかねないので連発は慎重に行うべきだ。


 不気味なデザインの箱からスナイパーライフルを取り出す。定期的にメンテナンスを行っているが、念のために不具合がないか確認しておく。確認し終えた蓮は、箱に入ってある実弾と魔力弾をポーチに入れる。


 ポーチにも色々な小道具などが入っており、様々な場面で役立つものしかない。数量や種類を確認し、問題がないのでポーチのチャックを閉じた。


 懐に予備用の拳銃を二つ仕込み、最終確認を行う。準備が終わり、部屋に設置されている大きめの鏡の前に立つ。


 そこには冴えない顔をした蓮が写っていた。まだ疲れは残るものの、久々の仕事なので、気合いを入れるためにパンッと両手で自身の頬を叩いた。



「よし、……行くか」



 蓮はそう呟くと、楽器でも入れるような黒い箱の中に、スナイパーライフルを入れる。その箱には革製の肩掛けがあり、黒光りする箱を背負う。


 部屋の照明を消し、扉には鍵を掛ける。どこか懐かしく感じる雰囲気に包まれながらも、蓮はこの場から姿を消した。



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