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二人だけの……

次から少し投稿するのが遅くなります(予定)



「よし、この辺でいいかな…」



 (れん)は誰もいなさそうな場所を適当に選ぶと、校舎の上から飛び降りた。屋上の手すりには特殊ワイヤーを巻き付けているので落下することはなく、ゆっくりと降りていく。


 音もなく地面に着地すると、シュルシュルと特殊ワイヤーを手短に片付けた。


 この付近は手入れがされていないようで、辺り一面に雑草が生えている。夕陽も校舎で遮られているため、影が多く薄暗い。


 蓮は、ここから美榛(みはる)のいるであろう正面玄関へと向かう。しばらく歩いていると案の定、美榛が壁に背を預けているのを発見した。蓮はそれを確認すると、すぐに彼女の元へと向かって走った。美榛もこちらに気付いたようで、声を掛けてきた。



「あ、くろっちやっと来たんだ?ちょっと遅かったような気がするけど何かあったの?」


「遅くなってすみません。少し先生に掃除を頼まれたので…」


「あー、そゆことかー」



 もう何回ついたか分からない嘘をつく。美榛に……唯一の友人に気を使わせたくないし、何よりも知られたくない。彼女はランクAだから他の生徒とも仲がいいのだろう。魔力至上主義とはいえ、こんな醜い部分は見なくていいと心の中で密かに思った。



「あのさー、くろっち……。さっきから気になってたんだけどなんで上履き履いたまま外にいるの?」



 美榛がジト目で蓮を見る。蓮は自身の迂闊(うかつ)さを呪いながらも、必死に言い訳を考える。



「……一刻も早く美榛さんに会いたかったから…」


「えっ……ッ!……………ッッ!?」



(し、しまった…!)



 咄嗟に出た言い訳(半分は本心)であるが、それを聞いた美榛は一気に頬が朱色に染まり、口をパクパクと動かしている。よく見れば首や耳も真っ赤だ。


 蓮はその反応を見て、やらかしたと内心絶叫した。お陰で自身の頬も赤くなり、恥ずかしさで一杯になった。



(もう少しまともな言い訳を思い付かなかったのか!?俺の馬鹿ッ!)



「え、あと、いや、その………これはですね…………取り敢えず忘れてくれると助かります……」



 蓮はその言葉を必死に口から絞り出すと、黙り込んでしまう。恥ずかしいのはお互い様なので、二人ともしばらくは何も言えずに重い沈黙が続く。



「えと、靴に履き替えてきますね…」


「……う、うんっ……!」



 気まずい空気に耐えられず、蓮はそそくさと玄関の中へと入っていった。


 大量のロッカーが並ぶ中、蓮は自分の番号のついたロッカーを見つけてパスワードを入力した。すると、ピッ―――と音が鳴り、端にあるランプが緑色に変わるとロックが解除された。


 この学園都市には高度な機械技術が搭載されているが、その中でも特にこの学校は防犯システムが厳重だ。一般の防犯システムと比べると約10倍と言われている。やり過ぎのような気がしないでもないが、色々と助かっているので文句はない。



『――――で、――――――、――ッ!――――――』


「―――――ッ!」



 それぞれ雑談しながら帰宅していく生徒達の中で、蓮はガルドアの取り巻き達の声を、微かではあるが拾った。遠くにいるようだが、時間が経過するにつれ、声が大きくなっているのでこちらに近づいているのだろう。



(見つかる前に、ここから離れるべきか…)



 蓮は靴を履き終えると、上履きをロッカーの中に入れて再びロックする。端にあるランプは緑色から赤へと変わった。これはロックが完了したという合図で、それを確認した蓮は早々にここから離れた。



「あ、くろっちおか~♪」



 スマホを(いじ)りながら待っていた美榛は、先程の様子が嘘であるかのように平然としていた。いつも通りの様子なのは嬉しいことだが、その反面、なんだか釈然(しゃくぜん)としない気持ちになった。



「美榛さん、約束通りアイスクリームでも食べに行きましょうか…」


「それはいいけど……食堂はあっちだよ?」



 蓮が歩く方向を見て、美榛は不思議そうにしながら反対方向へと指を差した。



「今日は食堂の方じゃなくて、ちゃんとお店で販売してるものを奢りますよ」


「おぉ?くろっちいいの?」


「ええ。一刻も早く行きましょう」



(じゃないと、あいつらに見つかる可能性が上がる。しかも、見つかったら見つかったで面倒事になるのは目に見えている…)


(く、くろっち……!なんだか今日はやけに積極的になってる……ッ!?も、ももももしかして、そ、そんなにわ、私のことが、―――――す、――――す、好、き――――――なの………かなっ……?)



 美榛はそんな事を考えながら顔を赤らめた。先程の蓮の言葉が頭からずっと離れないのだ。平然を装うのもかなりギリギリで、またあんな事を言われたら確実に、幸せオーラ全開のへにゃへにゃ顔になってしまう。


 蓮に口説かれる妄想をしてしまい、自然と頬が弛緩(しかん)し、口から(よだれ)が垂れそうになるのを必死で我慢する。



「どうしました?」



 蓮が美榛の様子に違和感を覚え、不思議そうにした。



「え、い、いやー、なんでもないよー?」


「……?そうですか…」



 少し不自然だが、なんとか誤魔化せた美榛はホッ―――と、安堵した。もしこんな事を考えているなんてバレたら嫌われるかもしれない――――そんな不安とネガティブな思考が脳裏をよぎる。


 しかし、その考えを振り払うように、美榛は軽く頭を振った。そんな事を考えていても雰囲気は暗くなるだけだと自分に言い聞かせ、気を取り直して蓮と共に学園都市南側商業区画へと向かった。




   ――――――――――――――――――――――――




 学園都市の中央都市駅からモノレールに揺られて約30分。蓮と美榛は今、南側商業区画に到着したモノレールから降りた。


 南側の商業区画は主に飲食店が多く、学校帰りの生徒達がよく利用している。お店とお店の間にある中央通りを見上げれば、そこには天井があり、太陽の代わりに照明が辺りを明るく照らしていた。



「や~っと着いたっ!」



 そう言うなり、美榛は両腕を挙げて「んーっ」と背伸びをしていた。実際ここへは何度か来たことがあり、いつも活気がよく、誰もが楽しそうに食事や会話に華を咲かせている。



「アイスクリームはいつものお店で買うんですか?」


「んー、そだね。あそこのアイスクリームが私にとって一番美味しいから!」


「分かりました。では、行きましょうか」



 そう言って歩くこと10分。蓮と美榛はアイスクリーム屋の前で注文を済ませ、近くのベンチで座って待っていた。何度か裏道を進み、少し寂れた所にあるお店だ。人が寄り付かなさそうな場所にあるのに、学園都市内で一位のアイスクリーム屋だとネットで紹介されていた。


 実際まばらではあるが、ちゃんと蓮達以外の客もいる。アイスクリームの種類はかなり豊富で、追加料金を払えばクリームの段を増やしてもらうこともできるのだ。



「お待たせしましたー!トリプルベリー七段一つと、ラベンダー五段一つのお客様ー!」


「あっ、はーいっ!」



 注文して5分もしないうちに出来上がったようだ。活気のある店員さんが呼ぶと、美榛も元気良く返事をしてアイスクリームを取りに行った。



「はいっ、これ…!」


「あ、わざわざありがとうございます美榛さん」


「にししー。いやー、お礼なんていいよー?」



 アイスクリームを二つ手に持って帰ってきた美榛は、恥ずかしそう(?)に謙遜(けんそん)する。だが、蓮はある事に気が付いてしまった。



「美榛さん…」


「んー?なにー?」


「何故僕の注文したラベンダーのアイスクリームが四段になっているんですか?注文した時は確か五段にしておいたはずですが…?」


「ギ、ギクーッ!!」



 なにやら美榛があからさまな反応をする。蓮のアイスクリームは、一番上の段が誰かに食べられたかのように一段まるごと消滅している。その様子からすると、一口で食べられた可能性が高い。



「美榛さん、左の口角にアイスクリームが少し付いてますよ」



 蓮は、ごく自然に「ほら、ここですよ」というように自分の口角に人差し指を差した。



「えっ!?う、嘘っ!?マジっ!?」



 そう言いながら美榛はポケットからハンカチを取り出し、慌てて口元を(ぬぐ)った。



「…………………………………………………美榛さん、嘘ですよ」



 蓮が軽い気持ちでかまをかけてみると、美榛は見事に引っ掛かった。店員のミスである可能性もなくはないが、やはり犯人は美榛のようだ。彼女の清々しいほどの焦りっぷりは、見ていて面白かった。


「…………………………………」


「僕のアイスクリーム食べたんですね、美榛さん」


「………………oh」



 蓮はジトーっとした眼で美榛へと視線を向けた。



「あ、あははー……つい美味しそうで……てへ♪」


「はぁ、まぁいいですけど…」



 美榛は謝りながら漫画で見たことあるような仕草をする。もともと愛嬌(あいきょう)のある彼女がやると実に可愛らしい。蓮は小さく溜め息を吐くと、美榛から自分のアイスクリームを受け取った。



「お詫びに私のトリプルベリーを一口あげるから♪」



(…………なん……………だと……ッ!)




 美榛の何気ない提案に蓮は目を見開き、驚愕(きょうがく)した。つまり、美榛と間接キスをすることになるのだろうか―――――そんな思考が脳裏をよぎる。蓮は急いでその思考を振り払うと美榛の様子を(うかが)った。


 彼女は特に気にしているようには見えない。いや、学校の正面玄関前であった出来事を思い返すと、ただ単に気付いていない可能性が高い。どうする――――?気付かせてあげるべきか――――?それとも黙ったまま食べるか――――?と、脳内で必死に葛藤(かっとう)する。



「ん~?くろっち食べないのー?」


「え、あ、いや、その……」



 蓮の様子を不審に思った美榛が心配そうにしながら問い掛けてきた。



「か、間接キスになるんじゃないかなーって…」


「は、はぁッ!?」



 小声で呟くと、それを聞いた美榛は顔をボンッ…!っと一気に真っ赤にして叫ぶ。



「そ、そそそんなつもりなかったしッ!!てゆーかくろっちそんな事考えてたのっ!?」


「え!?い、いや違いますから!もし美榛さんが後で気付いたら気にするかなーって思ってただけですからねっ!?」


「今ここで言われても気にするよっ!?」



 蓮は美榛を気遣って言ったのだが、どうやら逆効果だったらしい。美榛は恥ずかしそうにしながらも怒ったようで、蓮のアイスクリームを素早く奪うと食べてしまった。



「あっ……」



 蓮が少し残念そうな顔をした。アイスクリームを持っていた手が寂しさを覚えた。続いて自分のアイスクリームを食べた美榛は、一気に冷たいものを食べたせいか、頭を押さえて(うずくま)った。



「だ、大丈夫ですか…?美榛さん…」


「あいたたー、やっぱ冷たいものはゆっくり食べた方がいいね…」


「アイスクリーム頭痛というやつですね」


「なに?その何の捻りもない名称は?」



 美榛が頭を押さえながらも、上目遣いで問い掛けた。症状の名称に捻りを求めてどうするのだろうかと気になったが、それよりも蓮はその症状について美榛に軽く説明した。



「アイスクリーム頭痛というのはですね、簡単に言うと(のど)にある神経が冷たさを痛みと勘違いして起こる現象なんです」


「へぇ~、くろっちって意外と物知りなんだね」


「実はこれでも昔は雑学王と呼ば――――――」


「あー、はいはい、わかった、わかった。くろっちが物知りだってことは充分分かったから次行こー」


「なんだか対応が雑じゃないですかっ!?」



 美榛は手をひらひらと軽く振って、次の場所を目指して歩き出す。ツッコミを入れた蓮はまだ付き合わされるのかぁ…と思いながらも、微かではあるが、楽しそうな表情をして美榛の後を追った。



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