教室での日常
今回は少し短いです。
校内に入った蓮は、フードを脱ぐと、そそくさと教室へと向かう。廊下を歩いていると、周囲からの視線は多少感じるものの、特に害はないので気にせず教室に入った。
教室にいるクラスメイト達は、何人かのグループに別れて楽しげに談話していた。いつも通り、蓮の事は眼中にないのだろう。ふと、教室を見渡すと、いつも絡んでくる連中の姿が見当たらない。どうやら今日はいないようだ。ほっ…と少しだけ安堵した。
蓮は、自分の席がある場所へと移動すると、そこには傷付いた机と椅子があった。所々に落書きを消した跡も残っている。
(昨日は落書きで、今日は切り傷か……。全く、何故こうもくだらない事をするのか理解出来んな…)
毎日何かしら傷付けられたり、落書きされたり、捨てられたりと色々されている。こんな事をする人達に呆れていると、一部からクスクスと小声で嘲笑しているのが聞こえた。
聞こえた方へと視線を向けると、数人の女子生徒が蓮と目線を合わせないように別の方へと向いた。どうやら今回の犯人は教室の隅にいる女子生徒数人のようだ。
蓮は構う気も失せたので着席すると、校内全体にチャイムが鳴り響く。それと同時に教師が扉を少し乱暴に開け、教壇へとのぼる。
彼の名はアルネス。少し痩せぎみの神経質な教師だ。多少傲慢な性格ではあるが、授業自体は評判がいいのでアルネス教師の授業に、わざわざ参加しに来る生徒もいる。
「…………何人か生徒の姿が見当たらないがまぁいい、早速ホームルームを始める」
少し不機嫌そうな様子で、アルネス教師はホームルームを始めた。主な内容は、近々実技テストが開始されるというものだ。それを聞いたクラスメイト達は、ざわざわと騒ぐ。自信ありげな生徒、憂鬱そうな様子の生徒など、様々な反応をしている。
それから特に何もなく、授業が淡々と行われていき、もう放課後になった。蓮は誰にも気付かれないようにさっさと帰りの準備を済ませた。
「おやおやぁ?何かと思えばFランク魔術師の落ちこぼれじゃねぇかぁ?」
教室から出て行こうとした蓮に野太い声が掛かった。その声には聞き覚えがあるので、思わず顔をしかめてしまう。
「ま~だこの学園都市にいたのか?俺様はてっきりこの学園から出て行ったと思ってたんだがなぁ?」
だったら絡んでくるなよ……と、内心愚痴りながら声のした方へと視線を向ける。そこには体格のいい男子生徒と、その後ろに取り巻き達がついていた。
蓮の目の前にいる筋骨隆々とした男子生徒の名はガルドア。魔力至上主義の塊と言っても過言ではない、実に嫌な性格をした生徒だ。ついでにその醜悪な顔もな。
「…………今日はもう会う事はないと思っていたのですが…」
蓮は感情の無い事務的な言葉で問い掛けた。
「あぁ?んなもん、てめぇの安心した顔から絶望した顔になる瞬間を見るために欠席したんだよ」
(自分の成績に余程自信があるのか、それともただの馬鹿なのか……。どっちにしろ、そんな事やってる時点で暇人には変わりないか…)
呆れて言葉も出ないとは、まさにこのことだろう。
「そうですか。では、僕は用事があるので帰りますね」
「おい、ちょっと待てよ」
教室の扉から出て行こうとすると、ガルドアに肩を掴まれ、強引にひき止められた。そして周りの取り巻き達は、蓮を逃がすまいと教室の扉を塞いでいる。
周囲のクラスメイト達は、様子を見てクスクスと嘲笑しているか、無関心のどちらかで助ける気はないようだ。はなから期待などしてもいないが。
「なんでしょうか?」
「てめぇさ、何か最近調子乗ってねぇか?あ?」
「そんなつもりは毛頭ありません」
「それだよ、それぇ!なんだその舐めたような態度は?俺様を馬鹿にしてんのか?」
なんかとんでもない事を言い出したガルドアに心底嫌気が差す。舐めたような態度を取っているのはお前だろうに……と、内心で愚痴った。
「お前!Sランク魔術師であるガルドア様に逆らったらどうなるか分かってんのか!?」
「そうだ!そうだ!お前みたいな落ちこぼれがここにいる時点でおかしいんだよ!」
「お前みたいな何の役にも立たない落ちこぼれ魔術師がいても邪魔なだけだ!」
取り巻き達も騒ぎ立つのを見て、今日は厄日か何かだろうかと考えてしまう。
「まぁまぁお前ら、そんな役立たずにもちゃんと役に立てるように俺様が直々に仕事をくれてやるよぉ!」
「ひゅーっ!さっすがガルドア様!!優しいっすねー!」
「ま、その仕事っつっても俺様のサンドバッグになるくらいだがな!がはははははははっ!!」
「確かに落ちこぼれ魔術師にはお似合いでさぁ!」
ガルドアとその取り巻き達がこぞって笑う。そして、一笑いし終えた頃、取り巻きの一人が何かに気付くと、焦ったようにガルドアに報告した。
「ガ、ガルドア様!あの落ちこぼれ魔術師の姿が見えませんっ!?」
「あ?んだと?」
取り巻きに言われてガルドアは周囲を見渡す。しかし、そこには蓮の姿はなく、変わりに教室の窓が開けられていた。教室内に風が入り込み、カーテンがゆらゆらと揺れている。
「あの野郎っ!?逃げやがったなぁぁぁあああああッ!!」
ガルドアは顔を怒りに染めて叫んだ。蓮に届く事のないその怒声が、教室中に響いた。
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一方その頃、蓮は校舎の屋上にいた。窓から飛び降りたと見せかけて、実はワイヤーを使って屋上へと登ったのだ。
取り出した極細の特殊ワイヤーを袖口にある隠し場所へと戻す。これでワイヤーが入っているなど、見ただけではなかなか判断出来ないだろう。
「さて、あいつらに見つからないように早く美榛にでも会いに行くか…」
今頃、ガルドア達は蓮を探し回っているのだろう。エンカウントしないように細心の注意を払わなければならない。
まだ眩しい夕陽が空を朱色に染め上げている。蓮はフードを目深に被ると、屋上にある階段は使わずに、隣の建物へと飛び移って行った。
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