唯一無二の友人
このくらいの量で書いていくつもりです。
学生寮を出た蓮はパーカーについているフードを深く被ると、太陽の眩しい日差しを遮断する。それを確認した蓮は、近場にある駅へと向かった。
街中は学生だけでなく作業員や販売員などの大人も働いているので、東京並みに人口密度が高い。ちなみに魔力がなくともここでは大人も働けるので、学園都市への就職希望者が多い。
駅に着くとスムーズに改札口を通る。周りには学生達が多く、魔力のある子供なら小学生くらいの子までいる。
学園都市は人工島の中心にあり、その周辺は市街地や商業区画などが広がっている。学園に行くにはモノレールを使って登校しなければならない。それほどこの学園都市は広いのだ。
蓮は時間通りにモノレールへと乗り込むと、空いている席を見つけて座った。嫌いな日差しがモノレールに差し込むことはなかったのでフードを脱いだ。
「あ、ちーっす、くろっち~♪元気してる~?」
そんな言葉が聞こえたのと同時に、蓮の隣に美少女が座り込んできた。
腰まで伸ばした青黒い髪に、サファイアのような瞳。スタイルも良く、整った顔立ちは大人しくしていれば儚げな雰囲気の美少女だが、そんな見た目とは裏腹に、軽い口調の今時の女子高生だ。
「その声は……美榛さんですか?」
窓の外にある景色を眺めていた蓮は、隣に座る美榛へと視線を向けた。
「そだよ~!ってか、なんでくろっちそんな元気ないわけ?」
「たった今、美榛さんの顔を見たからですよ」
「ひどっ!?」
「ふっ……冗談ですよ」
「もうっ!くろっち最近、私に対して冷たい~!」
そんないつものやり取りをしている相手は東雲美榛。魔力ランクAの魔術師だ。最高ランクはSまであるらしいが、それはもう勇者やその仲間達などの候補生くらいしかいない希少なランクだ。
そして美榛とはここ一年近くの付き合いで、入学した当時、道に迷っていた蓮を助けて今のような軽口を叩ける仲に発展した。
この学園都市での唯一無二の友人と言っても過言ではない。第一、この学園都市は魔力至上主義なので、こうして落ちこぼれのFランク魔術師の蓮に友達感覚で接してくれる人は少ない……というか美榛以外いない。
魔力量の低い者は差別される中、こういう友人がいるのはとても助かる。今もこうして心の支えになっている美榛を思うと感謝してもしきれないくらいだ。
「―――ね―――っと――――ちょっとくろっち!私の話聞いてるっ?」
蓮が思考に耽っていると、美榛が不機嫌そうにして彼の意識を自身へと向けさせる。
「あ、すみません……。少し考え事をしていて…」
「えぇ~?くろっちほんとに冷たいよ?」
「あはは……なら帰りにアイスクリーム奢りますね」
「おっ?じゃあ、遠慮なくごちになりまーすっ!」
「学食のアイスクリームですけどね」
「ちょ、学食のやつは全部タダじゃんっ!?」
美榛の期待していた眼差しから一転、今はジトーっとした目で蓮を見ている。あまりお金を持ってないのでそんな目で見られても困る。
そんなこんなで話していると、モノレールが目的地に到着したので、蓮と美榛は席を立ち上がってモノレールから降りた。蓮は再びフードを被ると人混みをくぐり抜けてなんとか駅から出ることができた。
一応、後ろに視線を向けてみる。するとそこにはちゃんと蓮の後ろについて来た美榛がいた。美榛は「勝手に先に行くな」と言うように、軽く蓮を睨んでいるが、当の本人は相変わらず飄々としていて言っても無駄かと美榛は思い、諦めることにした。
「あ~、まーったフード被ってる!」
「僕の肌はデリケートなんで仕方ないですよ」
「そんな事言ってこの季節に厚着のパーカー着てるのくろっちだけだよ?見てるだけでこっちも暑くなっちゃうし…」
美榛の言葉に同意はするが、やめるつもりは毛頭ない。だいたい今は春が過ぎてもうすぐ夏になるといった時期なのだ。美榛の言っている事は正しいし、なにより彼女自身も涼しそうな夏用の服を着用している。
「あ、そうそう。くろっちってさー、今朝のニュース観たー?」
「テロリストの事ですか?」
「おぉ、流石だねぇ……話が早い」
「テレビでやっていたのをたまたま見ていただけですよ」
「それでさー、そのテロリストなんだけど、どうもここらの地域に潜伏してるーってネットで噂されてんだよねー」
その情報を聞いた蓮は少し驚く。美榛はこういうネタを探してくるのが得意だと知っていたが、まさかもうそんな情報を持ってくるとは思っていなかったのだ。
「それってデマとかじゃないんですか?」
「さーね、確証のない噂だかんねー。でも、警察側は警戒してこの区域とその周辺の警備体制を強化してるってのは本当だよ…………ほら、あそことか」
そうやって美榛が指を差した方向の先には、警察官やパトカーなどがあり、言われてみれば確かに少し増えているなと蓮は思った。
「もしかしたらテロリストではなく、テロリストに見せかけた他国の構成員かもしれないですよ?」
蓮の突然の言葉に美榛は少し驚いたような表情を浮かべた。
「ん?それってどーゆー意味?」
「この学園都市には、大人達の陰謀が影で渦巻いているって事ですよ」
「なんか、くろっちってばたまーに難しいこと言うねー」
「知らない方が幸せなことだって、世の中にはあるんですよ」
「くろっちほんとに私と同い年なの?」
美榛が怪訝そうに蓮を見る。どこからどう見ても同じ歳の高校生だ。
「失礼な。これでも僕は落ちこぼれの魔術師なんですよ」
「くろっち……それ自分で言ってて悲しくならないの?」
「………………同情されるのが一番キツかったです…」
こういう自虐ネタは同情されるのが一番辛いとこの時、蓮は学習した。二度と使う事はないだろう。
「そんじゃ、そろそろ学園に着くし私はもう行くね?」
美榛と話し込んでいたらもう学園が見えてきた。相変わらず時が経つのは早いなと感じてしまう。それだけ美榛との軽いやり取りが楽しいのだろうなと考えると、思わず口角が少し上がって微笑してしまう。
「ええ、わかりました」
「また後でねー!あ、それと放課後一緒にアイスクリーム食べに行くの忘れないでねー!!」
そう言いながら美榛は手を振って走り去る。返事する間もなく、他の女子生徒達の輪へと入っていったので、蓮は返事をするのを諦めた。あとさらっと予定を追加された件については、目を瞑っておくことにした。
「全く……朝っぱらから元気な奴だな…」
美榛の元気さに、素直に感心していると思わず元の口調に戻ってしまった。
(おっと、危ない……。次から気を付けないとな…)
この学園都市では自分一人の時以外、口調と一人称は変えている。元の口調だとFランク魔術師の癖にと文句を言ってくる輩が少数だがいるのだ。こういった面倒事は嫌いなので、徹底的に下手に出ておけば回避することが可能だ。
「……さて、早く行きましょうか…」
誰にも聞こえぬ音量で独り呟くと、もう少しだけフードを深く被り、校舎へと向かった。
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