表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の大樹とラウレル  作者: 桂木イオ
8/10

観覧車の怪物と君

忘却の大樹上層 123F

観覧車の魔物



ぼくが独りになった日。


産まれてはじめての遊園地で、お父さんとお母さんは、観覧車に乗せてくれた。


お父さんとお母さんは、追加のチケットを買ってくるからと言ってから、帰ってこない。


着ぐるみが笑っている。


どこかの幸せそうな家族が、手を繋ぎあって帰路についている。


お父さんとお母さんは、帰ってこない。


ぼくは夕焼けに取り残された。



ずっと1人だ。ずっと、ずっと、ずっと.........!!








忘却の大樹 上層 123F


巨大な観覧車が、錆びたゴンドラを回転させながら鎮座している。


「な、なんで観覧車がこんな場所に......!!!」


この場に似つかわしくない軽快なメロディーと軋むゴンドラの音が混ざり合う。耳を塞ぎたくなるような雑音は、まるで叫び声のようだ。


十は剣の柄を握りながら、弌を見ると、彼女はただ呆然と立ち尽くしていた。


(弌くん......?)


何故だろう、様子がおかしい。


観覧車はギチギチと車輪を回すと、4人乗りのゴンドラを弌に向かって投げた。


脊髄反射で十は弌を掴んで放り投げると、自身はその白い剣でゴンドラを一閃し、2つに叩き割った。


「弌くん!」


必要に弌が狙われている。十は落とされるゴンドラを避けながら、どこか夢の中にいる弌の手を引いた。


「弌くん!ぼーっとしないで!!潰されちゃうよ!!」

「......だ」

「え?」

「仲間、だったんだ。あれは......!!」


絞り出すような弌の声に、十は足を止めた。


真上から落とされたゴンドラに身体を潰されそうになる。


(弌くんを守らなきゃ!!!)


だが遅い。十は身構えたが、ゴンドラが落ちてくることは無かった。


(......?)


おそるおそる両目を開くと、十と弌は大きなアンティーク調の鳥籠にいた。


「......これは......」


弌の青い鳥が、籠の中を旋回している。


「すまん、十......もう大丈夫だ」


リネンのローブを脱いだ弌が、鳥籠に手をかけ瞳を閉じている。


鳥籠は、落ちてきたゴンドラをものともしない。

強固なシェルターだが、十には息苦しい牢屋のように思えた。


「弌くん......」

「これは俺の力だ。やたら魔力を消費するが、数分は持つ」


ゴンドラを投げることをやめた観覧車が、悲鳴じみた音を立てて回っている。


「仲間だったって、どういう事......?」

「取り込まれたんだ。もう1人の自分『怪物』に。あいつは自分自身を討てなかった」

「......助けられないの?」


弌は首を横に振って「あいつは死んだ」と薄く青い瞳を開けた。


「あれは五祈(いつき)じゃない」

「......」

「十、いいか、ゴンドラの軸に貼り付けられている、石膏でできた男がいるだろう、あそこが怪物の心臓だ」


籠の外から車輪を見やると、軸に5mはあるだろう、石でできた巨大な男性が、十字架の様に貼り付けられていた。


「......倒さなきゃ、駄目なんだよね」


リネンの下に隠れていた、英国貴族の様な服の裾が、彼女の魔力により小さく揺れる。


男装の麗人は、淡々と続けた。


「聞こえるんだ。ゴンドラの軋む音に混ざって、あいつの声が。死んだ後も、あいつは怪物の中で苦しんでる。俺を必要に狙ったのも、助けて欲しかったからだ」


だが、俺にその力はない。檻を握りしめ言葉を吐く弌に、十はわかったよとゴーグルをかけ直した。


「弌くん、お願いがあります!!」


剣を抜きながら、十はピシッと手を挙げる。


「......なんだ」

「私を、××××って呼んで。それで、全部が終わったら、今度は本当の私の名前を、呼んで欲しいな」

「......」


白い剣が、十の魔力を纏い、光を増していく。弌は一瞬、彼女を××××と呼ぶことを躊躇った。


ヴォルフと戦った時の様に、言ってしまえば、十という人格が消えてしまう気がしたのだ。


しかし、今は彼女に頼るより他に道はない。


黄緑色の頭に、弌は低いアルトで、もう1つの名前を呼んだ。


「......行ってこい。アーサー」


2人を守っていた鳥籠が消える。聖剣を握った勇者は、もう弌の傍にはいなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ