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忘却の大樹とラウレル  作者: 桂木イオ
6/10

大樹まで歩くってキツいね!!

早朝、2人は忘却の大樹を目指し草原を歩いていた。

誰も抜くことのできなかった剣を手にした勇者の、性格ってなんだろう?


勇者、勇者はリーダー!


仲間を励まし、みんなを纏める、明るいムードメーカー!うん!きっとそんな感じ!


だからこの舞台で私は、元気で明るい剣士を演じよう。


魔王を倒して平和を手に入れよう!辛くて険しい道かもしれないけど、みんながいるから大丈夫!



......あれ?

.........どうしてこんなに、こんなに、苦しんだろう?










早朝、2人は大樹へ続く草原を歩いていた。


「ねむー......弌くん、もっと優しく起こしてよ。レディなんだよー?」

「知るか。俺もレディだ」

「弌くんレディというよりゴリラのゴリィ......」


欠伸しながら失礼なことを言う十に拳を落とすと、弌はここから先はいつ魔獣が来てもおかしくないことを十に説明した。


「いてて......わかったよ弌くん!!あ!あのでっかい鹿みたいな生き物は何!?」


先頭を歩く十の視界の先で、鹿の様な顔に、馬の様な体躯の不思議な生き物が、足元に生えている背の低い草を食んでいた。


「あー、あれは野生のナバだな」

「ナバ!かわいい......乗れるのかな?」

「移動用の乗り物として飼育されてる奴もいる。まあ、俺達ルーキーの所持金じゃ、高嶺の花だけどな」


くれぐれも近づくなよ、と弌が言う頃には、既に十は野生のナバに駆け寄っていた。


「こーんにーちはー!!」

「......おい」


十に驚いたのだろう。ナバは、2本の太い木の枝が生えた頭を降ろすと、駆け寄る彼女に突進する。


「うわっ!こわっ!追いかけてくるんだけど!?!?」

「......自業自得だな。追われてろ。それか剣抜いて戦え」

「冷たい!弌くんのコキュートス!!!」

「コキュ......なんだって?」


巻き込まれない様に気をつけながら、弌は十を見守っていた。迂闊な十だ。これで少しは懲りるだろう。


(今更だが、なんで俺はこいつの面倒見てるんだ......?)

「弌くーん!助けてー!」

「.....は?」


もしかして俺はお人好しなのか.....?と考えていた弌は唖然とした。


ちょっと目を離した隙に、十の追われているものがナバからヴァイル(狼の様な生き物)に変わっているではないか。


「馬鹿剣士!!何があった!?」

「ナバとフレンズになろうとしたらナバちゃん狼さんに食べられちゃった!!弱肉強食だ!!」

「次は俺らが食われる側ってわけか馬鹿野郎!!」

「馬鹿馬鹿言ってないで助けてよ!!」

「こっちの台詞だ巻き込みやがって!!」

「弌くんが怒ったーー!!」


死にものぐるいで草原を駆けるが、とうとう囲まれてしまった。


「十......お前覚えてろよ......」

「ひぃ......ごめん弌くん!」


弌が腰につけた鳥籠から青い鳥を弌は放つと、鳥は空中に青い軌跡を描きながら、1匹のヴァイルの目を貫く。

仲間が攻撃を食らい転倒すると、リーダーなのだろう1匹ヴァイルが咆哮をあげた。


「剣を抜け十!撹乱させて逃げるぞ!」

「ひゃ、ひゃい!」


十はゴーグルをかけ、剣を抜く。長剣は太陽の光を浴び、白い一筋の光を纏っていた。


(.....)




......剣の使い方は心得ている。

ここが幻想(ゆめ)の世界なら、偽りの舞台(フェイク・ステージ)なら、(いたり) (じゅう)は勇敢でなければならない。



主人公とは、臆病であってはならないのだから――






踊るように戦う十が、瞳に映っている。


そこに、先程までの彼女はいない。


冷酷に、無慈悲に敵を穿つ少女がいる。


敵は4体、内1体は目が潰されている。


正面から襲い掛かった1匹は、飛びかかってきた一瞬で腹を切り裂かれ、悶えながら地面に落ちる。


少女は落ちてきた狼を避け、横に剣を薙ぎ、隣にいたヴァイルの頭を切断する。初心者だと舐めていたのだろう狼達は狼狽し、1匹は逃げていった。


「十!」


背後から1匹、仲間の報復と言わんばかりに牙を突き立てようとする狼を、十は振り向くことなく後ろから刺し殺した。背中に目がついているのかと、弌は錯覚した。


(......化物か?あいつ?)


剣についた血を払い、十はふとこちらを振り向いた。


「......!?」


身体が警鐘を鳴らしている。


彼女の正体がわからない。剣をしまい、こちらに歩いてくる彼女は、果たして本当(、、)に至 十なのか。


「じ、十?」

「終わったよ!弌くん!」


血で汚れたゴーグルを外しながら、十は屈託のない笑顔を弌に向けた。


ヴァイルと戦っている少女の姿はもうない。


眼前にいるのは、頼りない、いつもの十であった。



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