大変上手にできました✿
探索準備を終えた2人は、アダマンティス寮に帰ってきた。
「探索行かないの!?」
「行かない。今行けば日が落ちた草原を歩くはめになる......お前が行って野垂れ死ぬなら止めないけど?」
「......大人しくしまーす」
皮袋を部屋にどさりとおろし、十は中身を漁った。
「にんじん......?じゃがいも......?」
「似たようなもんだ」
野菜を渡しながら、十はアダマンティスでの売り買いを思い出していた。
この世界の通貨は「ディア」と呼ばれる鉱石で、純度によって値段が変わるのだと、支払いをしながら弌は言っていた。はっきりとはわからないが日本円に換算すると、きっと1ディア100円くらいだろう。
「......」
買い物の仕方も日本とは違う。商品は必ず店の人に声をかけなければ買うことができないし、値段が書かれていないものもある。
話をするのが苦手な人には過酷かもしれないが、売り手と直に交渉ができるため、上手くいけば売価よりも遥かに安い値段で商品を手に入れることができるのだ。
「ほんとにRPGみたいだなあ…!弌くん私にはあんなに口悪いのにさ、買い物してる時はまるで別人!誰君って感じだったよ!?」
「......」
やけに静かだ。十はちらりと弌を見やると、弌は土のついた芋を右に持ち、小振りのナイフを左に持ち、カチリと固まっていた。
(な、なにをするんだ......!!)
小さなキッチンに並んでいる材料を見る。木製瓶に入っているのは牛乳......のようなものだろうし、多分シチュー系の煮込み料理を作る......のだと十は推理した。
「......」
固まっていた彼女が顔色一つ変えずに土がついた芋を鍋に放り込んだので、キッチンの柱でこっそり観察していた十は心の中でホイッスルを鳴らした。
「弌くん待って!それは皮剥かなきゃだめなやつだと思う!」
「......皮」
「というかまず洗って!!」
「洗うのか」
「洗うよ!?」
何を作るの?と十が手袋を外すと、弌は蚊の鳴くような声でシチュー、と呟いた。
「シチューだね!弌くん一緒に作ろう!」
「お、お前の力借りなくてもでき――」
「料理したことないでしょ!!!」
「うっ」
口の悪い弌が静かになってしまった。野菜を切りながら、落ち込んでしまったのかと十が弌を一瞥すると、彼女は熱心にメモを取っていた。
「弌くん、やってみる?」
「......おう」
「そうそう。猫の手で、うん。最初はゆっくりで大丈夫!」
「十、料理できるんだな」
「ちょっとだけだよ。10っちゃんハウスは弟と当番制でご飯を作っていたのだ!」
意外だったのだろう、弌は青い瞳をすっと見開いた。
「そこそこできるじゃないか」
「んへへー。弌くんは?お母さんが作ってくれてたの?」
「俺は......姉さんが」
「お姉ちゃん!いいなあ...」
姉がいない十が羨ましそうに言うと、弌は苦しそうに目を伏せた。
(喧嘩でもしてたのかな......)
なら、触れない方がよかったのかもしれない。誰もが望んでラウレルの地に訪れた訳ではないのだ。片目を隠したこの少女もきっと、元の世界に帰りたいのだ。
(......元の、世界......か)
「......十?」
いけない。十は首を小さく横に振るとやや強引に話題を変えた。
「そういえばさ弌くん、料理できないのにどうして挑戦しようとしたの?この感じだと、普段出来合いのもの食べてるでしょ」
「お前頭いいの?悪いの?」
「勘はいいよ!!」
「......勘がいいなら俺が考えてたこともわかんねーかな」
「それはわかんない!!」
木の椀に出来たシチューを盛る。ふわりとした湯気を吸い込めば、お腹が情けない音を出す。
弌は唇を尖らせ、なんとも面白い顔をしていた。
「その、あー......」
「なあに?弌くん」
「ほら、お前来たばかりだろ。この世界の食い物よりかは、あっちに近い方が落ち着くかなって......」
頭をがりがり掻きながら、弌はそっぽを向いた。真正面から素直に話すことは、彼女にとって不得手なのだろう。
「弌くんありがとう!!」
「あーっ!こうなると思った!抱きつくな馬鹿っ!」
「んーふふふ。やーだー!」
口が悪く悪態ばかりつくが、不器用ながらも自分を気遣ってくれた彼女はやっぱりかわいいと、頭を弌の胸に擦りつけながら十は無邪気に笑った。
十「そういえば弌くん、なんで冷蔵庫とかレンジがラウレルにあるの?」
弌「ショールの技術だ」
十「ショールすごい!!!」