シェアハウスな弌くんちゃん
ガイア本拠地から十は、地図を頼りにアダマンティス寮へと向かった
ガイア本拠地から外にでると、ブラウン系の煉瓦を使用した家々が広がっていた。
商店街、というよりはバザーに近いのだろう。各々が路上で布を広げ、商いをしていた。
「すごー!家でかっ!」
見上げれば、向かいの家同士で広げた物干し紐に、たくさんの洗濯物がかかっている。なんだか運動会の万国旗みたいだ。
「アダマンティス寮は......うぅ、お腹すいたな…...」
いい匂いがする。10っちゃん何も食べてない。匂いに誘われるまま歩けば、大きな鼠色の蜥蜴が豚らしき動物を丸焼きにしていた。時たまタレを塗っているせいか、豚らしきものはいい照り具合である。
「......食べたい」
しかし、1文無し。ちくしょう。
周りをみれば、ここではきらきらとした石が通過になっているようだった。
「お、嬢ちゃん!どうだい食べてくかい!?」
「お金がないので食べられません!!!」
心の叫びを口にしながら、私はバザーの通りを駆け抜ける。とにかく寮に行かねば!!きっと何か食べ物があるから!!
「お腹空いたよ......ひー」
ヴォディーおじさまからいただいた地図を広げ、場所を確認する。間違いない。アダマンティス寮だ。
まるで集合アパートのような長方形の建物が、ずっと奥まで並んでいる。
すれ違う人達は、ドラゴンの尻尾を生やした人や、獣の耳を生やした人など、色々な人がいた。みなここで生活しているようだ。
「ほんとに、異世界なんだなぁ」
わからないことしかないが、上手くやっていけるだろうか。いや、上手くやっていかなければ死んでしまうのだろう。現状私は空腹で死にそうだ。
「若草の1001番......若草の1001番......」
階段を登り、若草の棟10階に到着する。10っちゃんだし、10階は覚えやすいけどさ?エレベーターないの?足ぱんぱんだよ?
「あー!ここがマイホーム!こんにちはお腹すいた何か食わせろ馬鹿っ!!!」
事前に渡されていた鍵で勢いよく扉を開けると、何かが豪速球で頬を掠めた。え?何事?
「......うっさいんだけど」
「......いやいや、誰?」
鳥かごを腰に巻いた男が、前髪で隠れてない方の青い目でこちらを睨んでいる。
「誰って?人の住処に勝手に入ってきて随分な物言いだね。そっちから名乗るべきでしょ」
「はー!?こっちはこの部屋割り当てられてんですー!!なんで人がいるのさ!!君の方が先に名乗れよ!!」
「なんだよこの短パン野郎!!」
「女の子だ馬鹿野郎!!せめてアマって言え!!」
後から思えば、空腹の苛立ちをこいつにぶつけてしまっていたのだと思う。ごめんね?
私は出会って数分も経たない青い目の青年と口論していたのだが、そういえば書類に注意事項が書いてあったことを思い出した。
「待て、もさ頭の鳥頭野郎」
「おい俺も野郎じゃないんだけど?」
「えっマジ?気づかなかった~」
「......腹立つなお前」
書類を確認すると、アダマンティス寮の案内パンフレットに「なお、収容の関係上、同期の異世界者様が同室になる場合があります」と裏に小さく書かれていた。見つかんないわこれは。○ォーリーかな?
「鳥人間さん、悲しいお知らせです」
「なんだよ」
「私と君は、シェアハウスみたいです」
「......は?俺と、お前が」
露骨に嫌な顔されたー。失礼なやつだ。
「......お世話になります」
「やだ」
「うるせぇお世話しやがれ」
「先輩にその口の聞き方はないだろ」
何か言おうとした瞬間、タイミング悪くお腹が鳴った。
「......」
「......」
睨み合いが続く。この人つり目だから怖いが、勇者たるもの負けてはいけない。
「......弌」
「いち?」
「八乙女 弌 だよ。俺の名前。名前も知らねぇ奴と住むなんてごめんだ」
「......十。至 十」
「ふぅん......」
な、なんだよふぅんって......!
弌は私を上から下までじろじろと見てから「こいよ」と階段を降りていく。
「どこいくの?」
「飯食い。何も食ってないんだろ。おまけに金もないと見た」
大正解!!すごいぞ弌くん!!10っちゃんお腹空いて死にそうです!!
「奢ってくれるんすか!?」
「貸し。後で返せ」
「ひん......」
借金は嫌だが、弌くんに助けて貰わなければどうしようもない。
それにこの人、口は悪いけど根はいい人そうだし、なんとかなる気もする。
再び階段を降りていく絶望感を感じながら、私は弌くんの後ろについていった。