ガイア最高司令官
天使エルに誘われ、十はアダマンティウスのガイア本拠地にやってきた。
「ヴォーディー、連れてきたよ!」
原っぱを越え、大きな砦の中に入ると、私はエルちゃんに、なんだか高そうなカーペットが敷いてある部屋に通された。
身分の高い人なのだろう、くすんだ緋色の軍服を着たおじさまは白い髭を撫でながらふぉっふぉっと笑った。リアルでこうやって笑うおじさんいるんだね。10っちゃんびっくり。
「はじめまして異世界者よ。私はヴォーディー。ここガイアを取り仕切る者だ」
「はじめまして!!私は10っちゃんです!そしてごめんなさいヴォーディーさん!!状況がさっぱりわかりません!!」
あ、エルちゃんが苦笑いしてる。
ヴォーディーは「ほう?」と眉を上げるとエルちゃんに何か目配せをしていた。
「ごめんねヴォーディー。10っちゃん、話聞いてくれそうにないから何も説明してない
の」
「えっ、エルちゃんのスリーサイズと好きな食べ物と趣味は覚えたよ?」
「そういう割とどうでもいいことじゃなくて......ああもう!ヴォーディーよろしく!!」
「ははは!天使様でも手を焼くか!相分かった!」
逃げるようにエルちゃんは出て行ってしまった。わぁ!おじさんと2人きり!私も逃げたいな!!!どうせなら女の子がいい!!!
「さて、10っちゃんと言ったな」
「は、はい」
「大事な話をするからよく聞きなさい。君の今後に関わることだ」
ヴォーディーおじさまはマホガニー色の椅子に腰かけると、近くに来るよう手招きをした。なんだか学校で先生と2人、進路相談をしている感じだ。帰りたい......。
帰りたいが、ヴォーディーさんの話を聞く限り、すぐに元の世界に帰ることはできないらしかった。
幻想世界ラウレル。
1歩外に出れば魔物達が牙を向く広大な大地は、破滅へのカウントダウンをはじめていた。
原因は突如ラウレルに現れた巨大な白木だ。
ヴォーディーさん曰く、木の成長スピードは止まることを知らず、肥大化した大樹は僅か2年あまりで周りの小国を壊滅させた。
木々が、まるで国を飲み干すように根を伸ばしたそうだ。
切ったり燃やしたりはできないのか、10っちゃんは思ったが、ヴォーディーおじさんは首をよこに振った。
「燃えないし、切れないのだよ、お嬢さん。あの白木......忘却の大樹はラウレル中どの樹木にも該当しないまだ異世界者達がいない頃、我々ガイアは可能な限りの手を尽くしたが、手に入ったのは戦友の骸だけだ」
「......」
「おまけにあの大樹はラウレル全域における魔物の出所だ。国民は大樹に近づくだけでも命取りになる」
眉根に皺を寄せながら、ヴォーディーさんは落ち着いた口調で語る。まだ実感が湧かないが、どうやら私はいつ滅びるかわからないファンタジーランドに来てしまったようだ。
白い手袋をはめた指でトントンと机を叩きながら、ヴォーディーは続ける。
「そこで、私達はラウレルの破壊を食い止めるため、天界と話し合い異世界者を呼んだ。大樹を破壊できるのは、君達だけなんだ」
......へ?
「......へ?」
い、いやいや、ヴォーディーおじさん、私は剣士でも魔法使いでもない、セーラー服な女子高生だったのですが......!?
「やはり動揺しているな…...繰り返すが、大樹の性質上君達にしか破壊できない造りになっいる」
ヴォーディーさんが言うには、大樹の本体は木ではなく、大樹の真下、地下深くにある迷宮の中で琥珀色に輝くコアで、コアに続く道はこの世界の魔力を持たない人間でしか見つけることができないというのだ。
「ふぇ......」
頭の整理がつかないまま、話はどんどん進んでいく。
「君は今日からここガイアの一員として迷宮探索を行ってもらう。とはいえ、行く宛もないだろう。資料の中に寮の地図が入っている。君の部屋には記がついているから、そこを使いなさい」
「は、はい!」
ヴォーディーおじさん、ふって笑うとかっこいいな......慈悲深いというか、熟練の戦士の笑みというか......。
そんなわけで、いまいち実感できてないけど、私はライトノベルよろしくな異世界生活!!!を送ることになった。
......とりあえず、アダマンティス寮とやらに行ってみよう。