はじまり
嫌だ。
何十、何百といる観衆が、私を捉えている。
本当は逃げ出したい。逃げだして、家で耳を塞いでいたい。
「我が名は━━正しき王の宝なり」
朗々とした声が、かの有名な台詞を吐く。
ハリボテで作られた世界で、私は剣を握らなければならない。
逃げられない。
私がいなければ、舞台は進まないのだから━━
暖かな風が、頬に微かに触れる。
すごく眠い。どうしようもなく眠い。
私はすぐに起き上がれないタイプだ。お母さんが「ごはーん」と起こしに来ても1時間は布団から抜け出せない。やがてブチギレたお母さんが階段を駆け上がりながら「オラァ十飯だっつってんだろ!!!」とでも言われない限りは起きられないのだ。
つまり、今の状況は寝てもいいということ。そう風が囁いている。10っちゃんにはわかる。
「おやすみ......」
「ダメですよー!おっはよーございます!!」
「ぐふっ」
明るい声の子に腹を蹴り飛ばされた。酷い!痛い!でも10っちゃんアイはパッチリのシャッキリだ!!
「グッドモーニン人間!」
金髪の女の子が私の前で手を振っている。おお、なんとファンタジーな女の子だ。
「君かわいいね?名前は?」
「第一声がナンパ!?ほら、もっと他にないの? ここはどこ?とか、私はだれ?みたいな」
「ハロー!アイム10っちゃん!ここはあったかい気持ちいい!君かわいい!」
私の自己紹介に、女の子は「なんかあなた馬鹿っぽいね!」と笑って返してくれた。いい子だ。
「人間、とりあえず着いてきて?」
「私は10っちゃん!」
「......Hey10っちゃん!カモン!!!私はエル!!!」
「おっけーエルちゃん!!!」
2つ返事で、私こと10っちゃんは金髪をあみあみしたセイント系女の子、エルちゃんについて行った。
......そういえば、ここどこだろ?