その9
今回はアレックスちゃんとデート回?
毎日更新頑張っていきます。
多少の誤差はごめんね……!
俺たちはズーガの町の門を抜け、日が昇り始めた砂漠を見ていた。
雲ひとつない、といっても砂漠だからなのだが、遠くまで見渡しても建造物もなにもない広大な大地。 つくづく自分がちっぽけな存在に感じてしまう。
大きな蟻塚から、小さな蟻地獄などや、砂漠の上空を優雅に飛ぶ大きな鳥の影が見えた。
雨が降る様子はなさそうだった。
「いい日じゃない。他に狙ってる人もいないなら今がねらい時ね」
隣でピッケルを背中に背負う、アレックスがそんなことをいう。
「なるほどな。 同業がいたら先を越されるかもしれないからな」
俺もアレックスに同意しながら、うなずく。
不思議なことに、見える範囲には魔物の姿はなく、天気もよく同業者の姿も見えない絶好の採掘日和なのだろう。
「でさ、遺跡ってどこにあるんだ? 見たところ蟻塚と蟻地獄しか無いけど」
アレックスはゆうに10メートルほど大きな蟻塚の方を指差す。
「あの蟻塚、普段は魔物の住処になってるんだけど、夜には私達と同じ様に眠る習性を持っている”バライト”の住処なのよ」
どうやら俺が言葉を理解できるのは単にアレックスが日本語を話しているのではなく、俺が異世界語を話していることになっているみたいだな。
ところどころ通じない単語も有るようだがそういうことなら随分と楽だ。
「そういうことか。 ただなんで蟻塚なんだ? 遺跡じゃないのか?」
遺跡といえば、石造りの神殿だったり、偉大な王が眠るピラミッドだったりあるはずだ。
俺の言っている意味がわからないのか、伝わっていないのか、アレックスは顔をしかめる。
「え? 遺跡って言えばお宝が眠っている所を指すものでしょ? それに、”バライト”は鉱物を巣に使うのよ」
そういいながらアレックスは背中に背負ったピッケルを指差す。
「そこで、このピッケルってわけ。 なんでも大都市の方では装備じゃない服に使うとかで、高値で売れるのよ」
まるで理解が出来ないと言った具合に肩を上げて首を振る。
口ぶりからするに大都市には行ったことはないのだろうが、大方予想はつくな。
よくある上流階級の連中が欲しがる宝石の類ってところか。
「廃品回収業者とはよく言ったものだな……」
こんな小さな女の子が、危険な環境に身をおいてやることが採掘とか、時代が時代なら炎上待ったなしだ。
俺はよそに、アレックスは大都市に憧れを抱いているのか1キロ先の蟻塚の方へ歩きながら妄想を語っている。
「それに大都市に行けば、お母さんが楽になるような、ふかふかのソファや大きなベッドだって買えるのよ?」
買った後、どうやって持って帰るんだそれは……。
心の中でツッコミを入れつつも、辺りの警戒は怠らない。
「ズーガじゃ買えないのか? 規模は小さいけど商店みたいなところはあったようだが」
少しだけアレックスの顔が下を向く。
「そんな場所があったら、今頃我が家はベッドぐらいあるわよ。 あの町じゃ、せいぜい食器や戸棚ぐらいがいいところよ」
まぁそうだよな、だが食器や小さな家具程度なら作ることはできるのか。
こういうときに前の世界での知識を使って、ソファの作り方なんかを知っていればなぁと。 つくづく自分が何もせず過ごしていたことを後悔する。
「なら、頑張ってみようぜ。 早くソファ買えるようにさ」
肩を軽く叩いて、アレックスを励ます。
「うん。 本当は仲間が増えたら、まだ誰も立ち入ったことがない本当の遺跡に行きたいんだけどね」
はぁ。 と溜息をこぼす。
俺はちょっぴり沈んだ空気を和ますため、眼前に迫っていた蟻塚を指差す。
「そろそろ近いけど、このまま進んでも大丈夫なのか?」
近くで見ればより威圧的な見た目をしており、一体この蟻塚を作り上げた蟻はどれほど大きいのだろうかと、考えたくもないことを考え、ゾッとする。
蟻塚は洞穴のような穴があり、大人が背を伸ばして歩けるほど大きく開いていた。
奥は光が漏れているのか、目を凝らせば若干見えるぐらいには明るく。 見たところはなんの影も見えない。
「そこで立ち止まって。 今、中を確認してくるから」
隣にいるアレックスがそういうと、慣れた仕草でホルスターから拳銃を二丁抜き出し、慎重に蟻塚の中へと入っていく。
俺も辺りを警戒しながら待っていると、アレックスが蟻塚の入り口から顔を覗かせ手招きをしてくる。
「大丈夫。 今は留守のようだから、早いところ始めましょう」
言うが早いか、アレックスは拳銃をホルスターに戻し、背中のピッケルを手に持つ。
俺もアレックスのそばまで来る、蟻塚に入るという体験は人生で初めてだったが、思っていたよりは広かった。
外から見る限り10mほどあったが、中もかなり広くなっており、ところどころ岩肌が露出していた。
岩肌からはキラキラとした鉱物が混じっているものや、水晶のようなものまで様々な種類の鉱石が隙間なく埋まっており、蟻塚の天井からわずかに漏れる日光で美しく反射している。
「おぉ、すごいな。 見る人が見たら手を上げて喜びそうだ」
それこそ、この鉱石達を前の世界に持ち帰ったらどれほど価値があるのか、考えるだけでニヤニヤしてしまう。
「ちょっとシンヤ。 見るのは構わないけど、そのそわそわしてるの気持ち悪いから普通にしててよ」
そういいながらアレックスは何の変哲もない、岩肌にピッケルを振り下ろしだした。
黙々と振り下ろしだしたアレックスの背中を見ながら、気になっていたことを言う。
「なぁ、見えてる鉱石を掘れば早いんじゃないか?」
俺の言葉に採掘を止めてアレックスが俺の方に顔だけ向ける。
「あー。 説明してなかったよね、その目に見える鉱石にはあまり価値がないのよ。 大都市の人は希少性がどうとかで、持っていっても二束三文にもならないわ」
アレックスの言っている事は本当のようで、別の場所にも有る何の変哲もない岩肌を見てみると、ところどころに抉られたあとがあった。
「でもさ、もし何もなかったらどうすんのよ」
採掘をして生計を立てているにしては、少々博打なところが多い気がするが。
「その時は運が悪かっただけ。 ズーガの町は名産品もなにもないから。 みんなで協力して助け合ってるの」
つまり、最低限の生活はなんとかなっているが、それ以上の暮らしを求める場合、こういった採掘などで収入を得ているわけか……。
「廃品回収業者っていってもやってることは地味なんだな」
俺のぼやきにアレックスは一言、そうね。とだけ言った後、再び採掘の作業を続ける。
無心にひたすら壁を削っていくアレックスの背中を見ながら、俺は外を警戒しながら待った。
カンカンカン……。
何度もピッケルを奮っているというのに、アレックスは疲れた様子もなく。 ひたすら夢中でピッケルを振り続けている。
素直に感心した。 まだ中高生ぐらいなのにもかかわらず、俺が学生のときよりも明らかに力と体力がある。
この環境がここまでアレックスを強くしたのだろう。 迷いのない動作に見惚れるように俺はその背中を見続けていた。
カンカンカン……。
………………
…………
……
…ガンッ
どれほど時間がたっていただろうか、突然硬いなにかに当たったような音でハッとする。
「!!!!」
アレックスが何かを見つけたのか、ピッケルを降る手を止め、かなり抉られた岩肌を食い入るように見ていた。
「今、変な音がしたが……」
何があったのかを確認しようと俺もアレックスの横から覗き込む。
アレックスの手には、淀んだ淡い青色の琥珀のようなものが握られていた。
「うそ……! これ本当にブルームーン!?」
反応を見るに、当たりなのだろう。
興奮したように、ブルームーンを持つアレックスの手が震えている。
「なんだなんだ。 それ当たり?」
俺の言葉が聞こえていないのか、ブルームンを食い入るように見つめながらアレックスが黙り込む。
………………
…………
……
「………………いやったぁぁぁあああああ!!!」
現実味がないのか、受け入れるのに時間を要してから、高らかにガッツポーズを披露してくれた。
間近で見ていたこともあり、驚いてしまう。
「おわっ!? え? そんなに貴重なものだったのか!?」
アレックスの熱に俺までついつい熱くなってくる。
「当たりも当たりよ! この鉱石だけのコレクターがいるほどなのよ!?」
よく見てみろといわんばかりに目の前にずいっと見せてくる。
鉱石の知識などないが、半透明の青白い鉱物は、磨けば美しい艶が出そうに感じるほどに幻想的な輝きを鈍く光らせていた。
「き、金銭にするといかほどに……」
アレックスに圧倒されつつも、ごくりとツバを飲み込む。
「磨いて装飾もすれば、ソファにベッド。 おまけに家に扉だって付けられるほど! それぐらい価値があるの。 その原石でこの大きさ、少なくともしばらくは遊んで暮らせるぐらいよ!」
ビー玉が一回り大きくなったほどの大きさで、そんなにか……。
ダイアモンドと同等だと置き換えれば納得が出来た。
「……って。 相当掘ってたけど、今何時だ!?」
「……やばっ」
気がつけばお弁当のこともすっかり忘れて、蟻塚の中に差し込んでいた日光は、光量がかなり少なくなっていた。
アレックスもその事に気が付き、手早く鉱石を仕舞いつつ、撤収の準備を始める。
幸いなことに家主は帰ってきていないようで、俺たちは意気揚々と、蟻塚の外へと逃げるように飛び出した。
外に出てみると、日差しは既に日没寸前であり、夕焼けが足元の影を引き伸ばしていた。
「もう日があんなに傾いてる・・・! 浮かれてる場合じゃない、命合っての物種だものね」
アレックスが気を引き締めるようにピッケルを背負いなおす。
「あぁ、そうだな。 俺も夢中で作業を見てたから、アンジュさんのご飯を食べそこねちゃったよ」
町に戻りながら食べようかと思っていると、数メートルほど離れた距離に4人の集団が目に入ってくる。
蟻塚の影で見えなかったのだろう、格好から見ても同業に見える。
男が二人に、女性らしき背丈が二人。
遠目でも身にまとう装備の異常さに目が行く。
全身を日光が吸収しやすそうな、真っ黒なコートと濃いスモークがかかった、真っ黒なマスクで身を固め、腰に剣を携えた長身の男。
その横を、頭一つぶん小さい背丈の男。 紺色のマスクと真っ黒な魔道士のような服を着て、手にスタッフを持っている。
前を歩く男二人の斜め後ろには、マフラーとゴーグルを着けた小柄な女性。 背中には女性の身長よりも大きいスナイパーライフルのような武器を担いでいる。
極めつけは、真っ黄色の塗料をマスクにぶちまけたような、砂漠の中でも目立つ黄色のマスクを着けた、四人の中では一番背丈の小さい女性。
「なぁ、知り合いか何かか?」
隣りにいるアレックスに冗談を言ってみたが、返事はなく。 真剣な面持ちで4人の集団を見ていた。
「よそ者だ。 ズーガに用があるのかな…… 物取りじゃないといいけど。 シンヤ、すこし蟻塚の影に隠れて」
かばうように、アレックスが俺の前に立ちながら蟻塚の影になっている場所を指差す。
よそ者ということはテリトリーなどもあるのだろう。 戦闘になれば俺にはどうしようもない。
「……分かった。 様子は見ておくから、ヤバそうだったら呼んでくれ」
自分の無力さを嘆くのは何度目だろうか。 握りこぶしを強く作りながら、蟻塚の影に走り、アレックスを見守る。
アレックスは警戒しながらも、徐々に近づいてくる人物たちをくまなく観察していた。
いつでも銃を抜けるよう、両手は腰のホルスターに置かれている。
次第に4人の集団が何かを話しているのだろう、会話が聞き取れるほど距離が近くなってきていた。
「おっ! ここ採掘場じゃない? ってことはもしかして村が近くに!?」
集団の中で、背丈の一番小さい女性が手をかざしながら遠くを眺めてる。
「……町への入口ではなく、遺跡への入口が見えてきたのだが。 どこかで道を間違えたかね? それとも、遺跡漁りにのめり込み過ぎて、遺跡の中に街でも建てたのかね。」
その女性をからかうように、長身の男が話している。
どうやら、敵意はないように感じた。 アレックスも同じことを感じたのだろう、片手はそのままに、変声機の機能をオンにした。
お読みいただきありがとうございました。
誤字、脱字などや、おかしなところがあれば教えてくださると助かります。
ブクマ登録などしていただけるよう、これからも描写など頑張っていきますので、また、御時間が会いましたら是非見てください~