その8
じわりじわりとPV数が300を超えていました!
これもひとえに読者の皆様のおかげです、いつもありがとうございます!
アレックスちゃんとの遺跡デートは次回になりそうです、すみません。
アンジュさんに頼まれてからアレックスを起こそうとしたが、既に起きていたらしく、ムクりと起き上がり眠たげに目をこすりながら寝ぼけ眼で俺のことを見ていた。
「ん~…… シンヤおはよぉ」
だらしなくズボンはずり下がりかけており、まとめ上げていた髪も今は解け、ぼさぼさのひどい状態だった。
「あぁ、おはよう。 それと昨日はありがとうな」
言いそびれていたお礼はアンジュさんには言ったが、アレックスにはまだ言えてなかったしな。
まだ頭が動いていないのか、なんのこと? と言いたげに小首をかしげている。
「それよりも飯、出来てるぞ。 さっき湧き水から水汲んできたから、顔洗ってきなよ」
寝床からアレックスの手を掴み、介護をするように部屋から引っ張り出す。
抵抗する気力がないのか、俺に引っ張られるがままに料理の並ぶリビングの方へと二人して向かう。
アンジュさんは既にイスに座っており、眠たそうなアレックスを見て幸せそうに口元を緩めていた。
「ふふ、おはようアレックス。 みんな待っていたんだから、早く顔を洗っていらっしゃい」
はぁい。と気の抜けた返事をしてアレックスが顔を洗いに行く、その間に俺も今後の予定をどうするか考えておく必要があった。
まず第一に、食料と水の確保だ、水は湧き水が安全だと分かっているから問題はないのだが、問題は食料だ。
外にいる魔物を食べる可能性を一瞬考えたが、汚染されそうなので最終手段としておこう。
では、どうするか。
ここは町だ、そう。 お買い物だ!!
無いなら買えばいいじゃないか、天才かよ。 と考え、自分が貨幣を持ち歩いていないことに気がつく。
てか、物々交換の時代だったりしないよな? さすがに貨幣ぐらいあるよな?
そして、すっかり忘れていたが装備どこに行った。
こういう時は誰かに聞いてみるのが一番だろう、恐らく装備に関しては心当たりも有るしな。
「あの、アンジュさん。 そういえば俺の装備ってどこにあるんですか? たぶん着てたと思うんですけど」
それを聞いたアンジュさんはきちんと覚えていたようで、玄関に当たる部分を指さしながら答えてくれた。
「入り口に掛けておいてあるわよ、ちゃんと洗濯と欠けていた剣も直しておいたから、なんなら着替えておいてもいいのよ?」
昨日見たときには近未来さん、もといアレックスの装備しかなかったが、俺の装備まで綺麗にされ壁に掛けられていた。
なにからなにまで、出来た人だ……。
「すみません、助かります! 食後に着替えさせてもらいますね」
立ったままアンジュさんに頭を下げていると、アレックスの方も身支度が終わったようで、いつもの髪を後ろにまとめているスタイルになっていた。
「シンヤさ、感謝するのは良いことだと思うけど、いちいちオーバーじゃない?」
朝からテンションが高い俺についていけないのか、面倒くさい奴を見る目をしながらイスに座るアレックス。
俺も待たせては悪いと思い、とっとと座ることにした。
「今日の食材に心から感謝を。 私達の血と、肉となり生きるために。……地下に平和があらんことを」
「「地下に平和があらんこと」」
この家で世話になって、二度目のご飯をご馳走になったが、やっぱり美味しかった。
涙をながすことは流石になかったが、それでも痩せた野菜などで作った料理が、元の世界の調味料で舌のこえた俺が美味しいと感じるのは凄いことだろう。
「あぁ、食べた食べた」
お腹が満たされ幸せそうに笑うアレックスが唐突にある提案をしてくる。
「シンヤは廃品回収業者が仕事をしている所を見たことはないんだよね?」
聞くまでもないだろう、昨日の夜に俺が転移者だということは伝えているはずなのだから、といってもすべて信じてくれたのはアレックスだけだったが。
「あぁ、見たことはないかな」
俺も興味はあるので、見る機会があるのなら見てみたいものだ。
「じゃあこの後、私と一緒に遺跡に行ってみない?」
まるで、ランチでもどう? ぐらいの軽いノリで聞いてくるアレックスに俺は少し不安を覚えた。
こいつも中々危機管理能力が……。 いや、もしくはあの装備だ、実はかなり強かったりするんじゃないのか?
恐らく、お荷物の俺が居ても問題はないのだろうと結論づけ俺はついて行くことにした。
「いいね。 俺も一度見てみたかったんだ、頼むよ」
がっしりと握手を交わす俺とアレックスを、心配そうにイスに座り見ていたアンジュさんが口を開く。
「ねぇ、アレックス。 今日も遺物を掘りにくの? 気をつけてね、最近は地殻変動も頻繁に起こっているそうだから、お母さんは心配です」
本当にアレックスの事を大事に思っているのか心配性のアンジュさんはアレックスが遺跡に行くのをやめてほしいのだろう。
「うん。 はやく大物を掘り当ててママにいいソファを買ってあげるためにも休んじゃいられない」
「ならいいのよ。 いつかは私にシンヤさん以外にも素敵なお友達を見せに来て頂戴。 あなたがどんなお友達を呼ぶのか楽しみだわ」
アンジュさんは妄想が止まらないのか こういう友達はダメ。こういう友達は良い。 などなど口が止まらなくなる。
二人のやり取りを見ていた俺が抱いた率直な感想をアレックスに耳打ちして聞いてみる。
「なぁ、アレックス。 アンジュさんって親バカだったりする?」
「そうなるのかなぁ……。 はいはい、わかったから。そのうちね。お宝セットで友達も出てきたら楽なのになぁ」
未だ妄想が止まらないアンジュさんを横目に作業着を取りに玄関口の方へと向かうアレックス。
「もう! そうやっていつもごまかして……。 アレックスには初めてのお友達ができたんだもの、きっとあの人も喜ぶわ」
そう言いながらアンジュさんがチラリと見た先は、戸棚の上にアンジュさんと肩を組んで笑う人間の男の人が写った写真立てだった。
恐らく父親なのだろう、二人の仲が良かったのは写真からも伝わってくる。
「アンジュさんの旦那さん…… ですか?」
思わず言った後に後悔する、こういった話は少し踏み入りすぎたかもしれない。
心配する俺とは別にアンジュさんは気を悪くしたりなどせず、ひとつ頷いてくれた。
アレックスは写真を見て、少しだけ切なげな顔をしながら作業着に袖を通す。
アンジュさんはイスを立ち、水などで擦れた手で優しくアレックスの頭を撫でる。 俺はこの二人の会話を横で見ていたが、入ることは出来なかった。
「向こうでもアレックスをちゃーんと見守っててくれてるわよ」
そういいながらアンジュさんは暗い顔をするアレックスのほっぺを持ち上げながら笑顔を見せる。
「ほら、あなたは笑顔が似合う子なんだから。 暗い顔をしちゃダメだぞ~」
母親には全てお見通しなようだった。
「もう……。 作業着着られないからまたあとでね。 ……うん、向こうでもパパ見てくれてるといいね」
そういいながら、アレックスはマスクを深くかぶる、俺も借りている服の上から装備を身に着けていく。
俺はそっとアレックスの背中を優しく手の甲で叩く。
「よしっ。 それじゃ二人とも、お弁当はもっていきなさい」
アンジュさんに小さなバスケットを手渡される。 金属で出来ているのか密閉されており、食べるときにだけ開くのであれば汚染も問題ないのだろう。
「ありがとうございます」
「うん、ありがとう。 大好きだよママ」
お弁当をしまい、腰ポーチと剣が入った鞘を留め具で止め、外套を上から羽織る。 アレックスは最後の頭部のパーツを作業着につけて準備完了なようだ。
「それじゃ、いってらっしゃい二人とも」
「「いってきます!」」
元気よく返事をして、俺とアレックスは家の外へと出た。
どうやらアレックスの家は町の中間にあるようで、最下層と地上まではどちらもアクセスがしやすい立地だった。
隣でアレックスから近未来さんになった仲間を見ながら、俺達は目的の遺跡の場所を目指すべく向かうのであった……。
「待って、少し様子がおかしい……」
アレックスが意気揚々と町の地上部へと向かう俺の袖を掴む。
「ん? どうかしたか?」
振り返ってアレックスの顔を見ると、町の最下層の方へと向いていた。
視線の先につられるように、俺もアレックスの見る場所に顔を向ける、そこでは数人の廃品回収業者 《スカベンジャー》達が深刻そうに何かを話し合っていた。
「ちょっと事情を聞いてくるから、シンヤは少し待ってて」
そう言うやいなや、アレックスは町の最下層に降りていき、何度か廃品回収業者達と会話をした後、戻ってくる。
「どうだった? なにか不味いことでも起きてた?」
表情の読めないマスク越しだが、少しだけ困惑しているようにも見えた。
「ウーン……。 あ、ごめん変声機つけたままだった。 最近、レッドスコールが活発化してきているらしくてね、それに夜には局地的な崩壊液の雨も降るみたいで、今日は遺物探しは止めておけってさ」
あぁ、あの声はマスクの変声機か…… ってやけに高性能だなおい。
しかし、アンジュさんから聞いただけだが、それってかなりやばいんじゃないだろうか。
「じゃ、今日は無理なのか、なら明日にでも改めて行くとか?」
俺としては無理なく、危険なく安全に行きたいからな。
しかし、アレックスは違ったようでこんなことをいってきた。
「数ある遺跡の中から自分のところにレッドスコールが現れるとも限らないし、夜までに戻ればそれ以上リスクも高まらないなら……」
何やら悩んではいるが、どちらかといえば遺物探しに行きたいらしい。
「それって結構楽観的だけど、大丈夫なのか?」
まさかこいつ、自分が不運をかぶることはないだろうとか思ってるんじゃないだろうな……。
そんな考えも浮かんだが、見せてもらう立場な以上、判断するのはアレックスに任せることにしよう。
「とりあえず外に出てから考えてみよう」
それもそうだな、と俺も納得し二人仲良く町の外へと出ていった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ブクマ、評価等々 励みになりますので作品が気に入って頂けたら是非お願いします。
今後はカツカレーハンバーグ定食のようなベビーな展開が多めになってくると思いますので、ご注意をぉ……。
また御時間が合いましたら読んでくださいね~