その7
ブクマ、評価大変有り難うございます!
今回は説明多めです!
翌日、この世界に来て初めての朝を迎えた。
窓もなければ陽の光も差し込まない、そんな時間感覚も曖昧な鬱々とした朝、背中に感じるぬくもりで俺はゆっくりと目を覚ます。
昨日は少し俺自身も興奮していたのだろう。 見ず知らずの地で、素性もしれない俺を暖かく迎え入れてくれた時は思わず涙が溢れてしまったのだから。
こうして隣で寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ているアレックスと、今もなお俺の背中を抱きしめるように寝ているアンジュさんには感謝しきれない。
幸運に恵まれたのだと、こうして目の前で眠っているアレックスを見ていると、皆この世界で生きているのだと痛感させられる。
ふと、背中に感じるぬくもりが消えたかと思うと後ろから声をかけられる。
「おはよう、シンヤさん よく眠れた?」
上体を起こしながら俺に話しかけてくるアンジュさんは優しく頭をなでてくれる。
とても暖かで、心の奥から安らいでしまいそうになる。
「おかげさまで、ぐっすりと。 ……言うのが遅れたんですけど、ご飯から寝床まで貸していただいて、本当に助かりました」
それこそ昨日にでも言うべきことだったのだろうが、色々とあって言うタイミングを逃してしまっていたのだ。
思わず上体を起こし、頭を下げる俺に対して、アンジュさんは頭を撫でることは止めずに続ける。
「気にしなくていいよ。 こんな世界だもの、一人ぐらいお節介なおばさんが居てもいいでしょ?」
「あはは……。 まるで俺の母親みたいなことをいいますね」
目頭が熱くなるのを誤魔化すようにアレックスの方へと顔をそらす、まだ眠っているアレックスを見ながら俺は、この世界に飛ばされた理由は何なのだろうと考えてしまう。
俺はいったい何がしたいのだろうと自問自答してしまう。
答えはまだ出なかった。
だが、目の前にいるこの少女とその母親には、受けた恩は返さなくてはいけないだろうな。
物思いにふけっている俺を不思議に思ったのか、アンジュさんがこんな事を聞いてくる。
「シンヤさんにも家族は居たのよね」
「そうですね、母親と父親に、弟がいました。 といっても俺なんかより才能にあふれて、両親は弟ばかりに構っていましたけどね」
なんとなしに言ったが、感情豊かなアンジュさんは思うところがあったのだろう。
ぎゅっと頭を抱きしめてくれた。
「大変な……思いもしたんでしょうね。 シンヤさんの今の顔はとっても辛そうでしたよ」
「そう……見えますかね」
帰りたいか、と聞かれれば正直な所、微妙なところだった。
どうせ帰ったところで、半ば家族から逃げるように一人暮らしをしていたのだ。 待っていてくれる友人や家族も、居場所もそこには無かった。
「同情とはいかないかもしれないけど、この娘もね。 本当のお母さんとお父さんを知らないのよ、似てないでしょ? 私達」
確かに言われてみれば似ていないとは思う。
「でもね、血の繋がった家族じゃなくても本当の家族にはなれるのよ」
ぽんぽんと優しく頭を叩かれ、アンジュさんは起き上がる。
「シンヤさんが良ければ、しばらくは泊まってもいいのよ。 一緒に食卓を囲んだらもう家族みたいなものだから」
そうだけいって、朝食の準備に向かったのだろう、アンジュさんは寝室を出てリビングの方へと歩いていく。
隣でまだ眠っているアレックスの頬をつっつきながら、俺は誰に言うでもなくポツりと心情をこぼす
「愛されてんだな、お前」
寝苦しそうにしながら俺の手を払おうともがくアレックスを見て、ついつい可笑しくて笑ってしまう。
「さってと。 俺も手伝ってこようかな!」
少しだけ涙が浮かんだ目を拭き、アンジュさんの手伝いに俺も向かった。
手伝いの最中に、アンジュさんは色々なことを教えてくれた。
この世界には夜になると現れるという怪物”レッドスコール” 恐ろしく強く、戦闘なれした廃品回収業者ですら手も足も出ないという文字通りの怪物。
それを狩ることが専門の”アンチスコール”という三人の伝説の小隊、お伽噺の勇者のような存在らしい。
そして俺が遭遇した巨大なサソリ”バークス”を始め、この砂漠を闊歩する生物の総称を魔物と呼ぶらしい。
廃品回収業者がどういったものかを聞いた時は、かつての高度文明の遺物を見つけ出す者たちの総称だそうで、その功績は大きく。 強力な遺物を所有しているものは一目置かれるそうだ。
廃品回収業者と同様に外に出て、いまだかつて人類が探し出せていない生存区域を見つけ出すために動いているとされる、観測者と呼ばれる者たち。
そんな命知らずな者たちを総じて探求者と呼ばれている。
では町の住人が全員、探求者なのかと言われればそうではないらしく、大体の人間は町の外には出ず、時折町に来る探求者が持ち込む物資などを交換して、なんとかその日暮らしをしているそうだ。
さらには、この汚染された世界では瘴気感染を引き起こす崩壊液というものがあり。
マスクをしていたとしても長期間、外に身をおいていると徐々に身体が汚染されていくそうで、症状としては極度の鬱病に近いそうだ。
「とまぁ、色々と話しちゃったけど、この世界は結構大変なのよ」
教えながらも、調理する手は一切止めずにあっという間に食卓に料理が並ぶ。
「なんでもないように言ってますけど、それってこの町はもう……」
料理を運び終えた俺は、この町は既に破綻しているのではないかと思わざるをえなかった。
「そうね、きっと長くは持たないでしょうね。 だけど、アレックスが一人で外に出られるまで、私はこの町であの娘を見守っていくって約束したから」
そういいながらアンジュさんは胸元にある龍の装飾が施されたペンダントを愛おしそうになでる。
「これは、私の夫が残した形見なの、いつでもお前のそばにいるって言いながら渡してくれてね」
だからイスが3つあったのか、でもパパさんの姿は少なくとも俺がいる間には見ていないし、形見というのもそういうことなのだろう。
「……ごめんなさいね、しんみりさせちゃって。 まったく、あの娘はいつまで寝てるのかしら、シンヤさん悪いんだけど起こしてきてもらえる?」
雰囲気を変えようとしてくれてるのだろう、俺もそれに便乗することにした。
あまり、他者の俺が深入りするものでもないだろう。
「えぇ、それぐらい任せてください。 ほっぺたつねりあげてくるんで!」
そう言って俺は、まだぐっすりと眠っているであろうアレックスを起こすべく、寝室のほうへと歩き出す。
その背中をほっとしたように見つめるアンジュには気がつくことはなかった。
「アナタ……。 アレックスにも良い友だちが、いえ。 お兄さんが出来たんですよ」
懐かしいものを見るように、戸棚の上部に置かれた写真をアンジュは見ていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次回はアレックスちゃんとの遺跡デートになります!