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この崩壊した砂漠は残酷で美しい  作者: 桔梗ちゃん
崩壊砂漠 第一話 【出会い、別れ】
6/21

その6

明けましておめでとう御座います!

今年も作品の方をよろしくおねがいします~!

 「ここは……」


  次に気がついたときは、気絶をする前にいた湧き水のある場所ではなく、見知らぬ民家の一室だった。

 といっても民家と呼んでいいのかも怪しいものではあるが。

 壁や床は、つるりとした磨かれた砂岩で出来ており、部屋の中央に動物の毛皮を敷いただけの簡素な作りだった。

 俺はその毛皮の上に寝かされるように、こちらの世界に来てから身につけていた服装とは違う小奇麗な服を着て、仰向けになっていた。


 「服も汚れていない、それに身体についていた砂や汗の不快感もなくなってる」


 自分の状況を確認しながら上半身だけを起こし、辺りを見回してみるが、奥の部屋に繋がっている砂岩でできた、ドアの無いアーチ状のドア枠しかなく、奥からは美味しそうな匂いが漂ってくる。

 まだ疲れが身体に残ってはいたが、寝たことで少しは体調も良くなったのだろう、重い体を起こしながら、匂いにつられるように美味しそうな香りがする方へと向かう。

 


 小さな洞穴に最低限の家具が置かれた貧しい家・・とも呼べないもので、石を切り出して作られた冷たい印象の、背の低い丸テーブルと3人分の石のイス。

 テーブルを囲むように置かれたイスに、見覚えのない小柄な金髪の少女とキッチンだろうか、これも石で切り出された簡易的なかまどのような見た目をしたものの前に、俺に背を向けるようにして調理をしている長い茶髪の成人女性がいる。


 先程から鼻腔を刺激していたのはこの料理の匂いなのだろう、不思議な匂いだが香草のようなどこか食欲を刺激する匂いを放っていた。

 思わず、口の中からよだれが溢れてくる。

 立ち尽くす俺に気がついたのか、小柄な金髪少女が声をかけてくる。

 

 「あ! 気がついたみたい。 体調の方は大丈夫?」

 

 先程から体調は、問題はないどころか元気なほどで、ぐぅ~。 という音をしきりに鳴らしながら空腹を訴えかけている。

 返事の代わりと受け取ったのか、少女は少しだけ口角を上げながら続ける。


 「そっか、その様子ならご飯も食べれそうだね。 ママ、もうできそう?」


 そう言って少女は調理をしていた茶髪の女性へと声をかけながらも席を立ち、調理をしている隣に行く。


 「あとは盛り付ければ完成だから、アレックスも手伝って頂戴」


 慣れた手付きでテキパキと料理をする女性に、小さな棚から取り出した石の皿を渡していく少女、女性からアレックスと呼ばれていたので恐らく名前なのだろう。

 アレックスが不意に俺を見たかと思うと、ホワイトシチューのように白く、トロリとしたスープを石の器に盛り手渡してくる。


 「ほら、あんたも手伝ってよね。 無知な旅人さん」


 ニカッと白い歯を見せながら笑顔をみせてくるアレックス。

 はて、俺はなぜ見ず知らずの親子にご飯をごちそうになっているのだろうか……

 答えはすぐに分かった、玄関に位置するであろう場所の壁には、倒れる前に見た全身が金属質のパワースーツっぽいやつが綺麗な状態で掛けられていた。


 「近未来さんか!? そして、口ぶりからするに近未来さんにママが居ただと……!」


 思わず俺の中での呼称をうっかり口に出してしまう。


 「しかも、それがこんな可愛い少女だったなんて……。 てっきり歴戦の廃品回収業者スカベンジャーとばかり……」


 おまけに本音も出てしまう、俺の悪い口め……。


 それを聞いた少女は困惑した表情を浮かべながらも、嫌な気持ちにはならなかったらしく冗談めかして言う。


 「褒めてるのか貶してるのか分かりにくい感想をどーも。 それに、私が歴戦の廃品回収業者スカベンジャーだったらママはどうなっちゃうのよ」


 少し想像してみたが、やめておこう。 野菜を切っていたのかトントンと小気味よい音から荒々しい音に少し変わってきているし。


 「二人とも~? 手が止まっているようだけれど?」


 チラリとこちらを振り返った女性は、間違いなく顔つきだけで言えば歴戦の戦士……否。

 歴戦の廃品回収業者スカベンジャーと呼んでも差し支えはなかった。


 「はぁ~い。 ほら、ボサっとしてたらママが怒っちゃったじゃない」 


 早くしろと言わんばかりに石皿に盛り付けられたサラダを手渡してくるアレックスに苦笑いを浮かべてしまう。


 「今のは完全におまえが悪かっただろ……。 あぁ、分かった分かった! 分かったから俺の料理を置く速度より早く出すとかいう陰湿な事やめろって!」


 多少のふざけあいもあったが、あっという間にテーブルの上には暖かな料理が並んだ。

 そして、全員がイスに座ったのを確認したアレックスのママさんは胸の前に手を組みながら目をつむりお祈りをする。


 「今日の食材に心から感謝を。 私達の血と、肉となり生きるために。 ……地下に平和があらんことを」


 それに習うようにして、アレックス、俺と目をつぶり祈る。


 「「地下に平和があらんことを」」


 こうして、家族のように誰かと食卓を囲むのは何年ぶりだろうか、こうやって感傷に浸ると急に恋しくなってしまうものだなと心の中でひとりごちる。


 「さぁ、いただきましょう。」


 アレックスのママさんが手を一度叩いて切り替える。

 待ちきれなかったのか、鉄製のフォークとスプーンを器用に使いながらどんどん食べていくアレックス。


 こうして親子を見ているが、全然似てないなと失礼なことを思ってしまう。

 ママさんは腰下まで伸ばした艶のあるまっすぐな茶髪、少し肌が焼けているのか薄着の合間から見える健康的な四肢。

 そして母とは、母性とはどこか、そう胸である。 その豊かな双丘がこの娘を育て…… げふんげふん。

 人の親になんて考えをしていたんだ俺は。


 対象的にアレックスの方は肩にかからない程度の、軽いウェーブのかかった金髪を後ろで縛りまとめ、動きやすさ重視なのかママさんより薄着のハーフパンツで、ぺったんこで悲しくなるほど貧相な身体をしている。


 「ねぇ、あんたさっきからママを見る目がいやらしいんですけど」


 どうやら女性は視線というものに敏感らしいというのは本当のようだった。

 それにしても、貧相だよなぁ……。


 「というか、なにその私を見る目は! どうせ貧相とか思ってたんでしょうけど残念ね。 私は成長期なのよ! 分かる? 成 長 期!!」


 バンッと、本来ならテーブルを叩くと音がするが、悲しいかなこれは石のテーブルだ、ペチッと小さな音がするだけだった。


 「いやまだ、何も言ってないからな? それに美人のママさんが作ってくれた料理が冷めちゃうから早く食べようぜ」


 そういいながらまだ湯気を上げるシチューのようなものを口に入れる。


 今まで食べたことのない味だったが、とても懐かしさのあるものだった。

 料理評論家でもない俺はこのシチューのようなものを論ずる知識も食べてきた料理の質も大したことはなかったが、人生で二番目に美味しかった。


 一番は何だって? ……言わせんなよ恥ずかしい。


 「……美味い。 本当に美味しいですこれ」


 懐かしさと暖かさを久しく感じていなかったせいか、それとも死にかけた緊張感から開放されたことでなのか、頬から熱い体液が流れ落ちているのがわかった。


 「ふふっ。 まだたくさんあるから遠慮せずに食べてくださいね。 旅人さん?」


 アレックスとは対象的に落ち着いた大人の笑顔を向けてくるアレックスママに思わず童心に帰ってしまいそうになった。


 「はい! それと俺のことは一条真也。 シンヤと呼んでほしい」


 それを聞いて自分も自己紹介がまだだったことを思い出したのだろう。


 「ご丁寧にどうも、私はグローザ・アンジュ。 こっちは娘のアレックスです。」


 座ったままぺこりとお辞儀するアンジュさんに、アレックスが割って入る。


 「ママ、それ愛称だから……。 えっと改めて、でいいかな。 グローザ・アレクサンドラ。 よろしくねシンヤ」


 そういって元気な笑顔をみせてくるアレックスに俺も思わず笑顔を返す。



 しばらく食事を楽しみながら談笑をしていると、俺のことについて話題の先が向いた。


 「それで、シンヤさんはどこから来たの? 装備を見る限り、旅慣れているとは思えないのだけれど」

 「あ! そう気になってた。 いきなりボロボロの人が来たかと思ってたら水飲んですぐ倒れちゃうんだもん」


 ぐいぐいと二人の顔が近くに来る。 そして重大なことに今更ながら気がついた。


 「あぁ、あれは……。 なぁ? その前にひとついいか」


 手で二人を一度制してから忘れていたことに触れる。


 「なんで俺含め全員、マスクつけてないんだ?」


 町に入ったときには行き交う住民はマスクを着けているものがほとんどだった。

 俺の質問に対して、逆に心配そうな顔をされる。

 意味がわからん……


 「本当に何も知らないのね、あんた……。前も言ったと思うけど、よく生きていたわね」


 アレックスが呆れたように肩をすくめる、アンジュさんも同じことを思っていたのか同じ様に肩をすくめていた。


 「無知なシンヤに簡単に説明すると、他の町はどうかしらないけど少なくともズーガは町全体が巨大なマスクみたいなものなのよ。 でも、基本的には不用意な接触を避けるためにお互い町中ではマスクを着けましょうねっていう暗黙の了解があるわけ」


 なるほど、それで無事なわけか。 砂岩や石を使う理由も砂埃がおきないように工夫をした結果なのか。

 

 「でもさ。 俺には不用意な接触をしているが、そこんとこは大丈夫なのか?」


 「まぁ、最初は警戒してたけど、見るからに弱そうだし、こうして話してみても感謝のできる”まとも”な男ってわかったから問題はなし」


 判断基準そこかよ……


 「それで、無知で貧相なシンヤはどうして生きてこれたの?」


 そんなことよりも俺がどうしていたかの方が気になるようで、早く早くと急かされる。


 「たぶん信じちゃもらえないと思うけど、急かされちゃしょうがないよな、あと貧相はお前だぞアレックス」


 「いちいち拾わないと気がすまないの!? ほら、早く早く」


 「分かったって……。 あれは……」 


 俺は今まで別の世界にいたこと、そこでどんな生活をしていたのかと言ったことから始まり、転移してきてから死にかけたこと。

 見ず知らずの廃品回収業者スカベンジャー リーシュさんに危ないところを助けてもらったことなどを話した。

 

 もちろん、話題のメインは元の世界での話を執拗に聞かれたが、俺にとっては元の世界にあまり思い入れはなかった。

 少しばかり気にかかっているといえば家族のことだが、帰る術もない今は、元気で生きていると信じておいたほうが賢いだろう。



 そうやって何時間も久しぶりに人と会話をして、温かい家族というものを久しぶりに味わえた俺は、この世界に来て初めて心の底から安心して眠ることが出来た。

読んでくださりありがとうございました。

しばらくはズーガの街が続きますので気軽に見てくださいね!

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