その3
ブクマ登録ありがとうございます!
今回から造語がちょっと出てくるのでご容赦を……!
それと軽い流血描写があるので苦手な方はご注意くださいませ。
一目散にその場を駆け出した俺だったが、すぐにその行動を後悔した。
一瞬でも逃げ切れるかも…… なんて甘い考えを思い浮かべた自分を殴りたい、サソリっぽい奴はその巨体に似つかわしくないぐらいには俊敏で、動きが気持ち悪かった。
もぞもぞと6本の足を動かしながら、自転車よりも早い速度で獲物に迫ってきている
「……はぁ、はぁっ。 いや、その巨体して早すぎるわ! 無理無理!! あれは流石に反則だろ!」
広大な砂漠を踏破した事もなければ、突然足が早くなるなんてこともなく、おまけに呼吸のし辛いマスクに、脱水症になりかけている今の俺では逃走を試みた時点で駄目だったのだ。
獲物と認識された俺は必死になりながらも足だけは動かした、下半身の筋肉が悲鳴を上げている様だが、足を止めるとロクでもない未来しか想像できないので歯を食いしばりながらひたすら走って、走りまくった。
頭の中が逃げることでいっぱいになっていた俺は砂漠の中だということを忘れていた、ここは舗装のされたアスファルトではないのだ。
逃げた先には大きな砂丘があり、登っている途中で足を踏ん張るとどうなるか。
「…………あ」
――砂に足を取られ、俺は重力に引っ張られるようにして後ろにコケた
「うわああ!!」
静止をしようにも一度砂丘を転がり始めた身体は止まることはなく、砂丘を転げ落ちながら何度か天地がひっくり返った後に仰向けに倒れ静止した。
チカチカと目眩を覚えながら、朧気な視界にはサソリっぽいやつが俺を見下ろしていた。
「あぁ……。 死んだわこれ」
アドレナリンが切れたのか、それとも逃走をもうしなくても良い諦めからなのか、身体が鉛のように重たくなっていた。
「さようなら……、異世界に来て数時間の小さな命だったょ……」
こんな時でも涙は出るようで、マスクのレンズが貴重な俺の残りの水分で歪んでいく。 サソリっぽいやつが鋏を伸ばし、俺の腹を両の鋏ではさみながら持ち上げる。
腹部に鋭利なものが食い込む不快感と痛みを味わいながら、俺は心の中で神を恨んだ。
勝手に呼び出しておいて、こんなわけのわからない世界で放置とか鬼畜かよ! そりゃこうなるわ!
そんな考えをしている余裕は徐々に無くなってきつつもあった、鋏が俺の身体の皮膚を貫通し、筋肉にまで食い込みだしたからだ。
「痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!」
もがけばその分だけ鋏が入り込むのも構わず、再度アドレナリンが出た身体を使い、死ぬ気でに逃れようと試みる。
「あぁ、くっそ! やっぱり大人しく食われるなんて無理! 助けてくれぇ……!」
非常に情けない姿だったことは自分でもよくわかった、ローブは血と砂で汚れ、 貴重な水分を両目と鼻から垂れ流しているのだから。
しかし、祈りなど通じるわけもなく無慈悲にも鋏が更に深く食い込んでくる。
地面から足が浮いた状態の俺をサソリっぽいやつが楽しそうに顔を近づけて来る、弄んでいるのがなんとなく分かった。
「…………くっそが!」
苛立たしげに、腰ベルトの下部に取り付けられていた剣を抜き放つ。
なんでもない鉄製の剣であったが、剣術の心得なども無かったが、目の前にいる敵に剣を刺すぐらいなら素人だってできる、死ぬ気になればと追加補足が入るが……
「せめて、反撃ぐらい……させてから……食ってもらおうか!?」
火事場の馬鹿力なのか、握った剣を痛みで落とすことなく憎たらしい甲殻類の顔面らしき場所に剣を突き立てる。
ガキィンッ!と想像以上に硬い音がした。
「……うっそ」
見事なぐらいノーダメージだった、それどころか突き立てたこっちの剣の切っ先が欠けた。
もうダメだ……おしまいだ……俺の冒険はここで終わったのだ。
渾身の一撃をお見舞いしたはずが逆に心が折れた。
だが、その行動が意外だったのか、まさか反撃されるとも思っていなかったらしいサソリっぽいやつは驚いて鋏の力を抜いた。
ドサッと身体が砂漠に叩きつけられたが、まだ俺は生きていた。
「っしゃぁ……、まだ、まだ死んでやるかよ……!」
腹から、血がぼたぼたと垂れてきているのにも気にせず、俺はサソリっぽいやつと距離をとった。
俺を逃したのが気に食わなかったらしいサソリは、それはもう目に見えて怒っている。
ガチガチガチと鋏をより強く鳴らしながら、尻尾の針を振り抜いてきた。
「いや……流石に、二度目は無理だわ……」
ぎりぎり動きが見えた速度だったが、避けれるほど俺は機敏ではない。
鞭をしならせるように迫りくる針が俺の腹部を貫こうと襲いかかってくる。
「……くっ!」
どれぐらい痛いのだろうか、あまりの痛さに失神してしまうのではないだろうか、そもそも刺されて生きてるのか、想像すらしたくはない。
ぎゅっと目を閉じて、その痛みをこらえようとした時、俺の頬を高速で何かが通過した感覚があった、刹那。
……ッパァン!
強烈な破裂音と衝撃、熱風が襲いかかってきた、思わず何が起きたのかを確認しようと目を開ける。
眼の前には、先程俺を喰らおうとしていたデカいサソリの頭部が消し飛んでいた。
「な……なにが起きて……」
ズシャリとサソリっぽいやつが崩れ落ち、緑色の体液をドバドバと乾いた大地に注いでいく。
思わずその場でへたり込む、どう考えてもやりすぎだった、呆気にとられている俺の耳に誰かの呼ぶ声が聞こえてくる。
「おい……少年。 生きているか?」
その声の主は、へたり込んだ俺の上に影を落とすように覗き込んでいた。
どうやら声からするに男性のようで、顔の見えないスモークがかったマスクを装着しており、全身を砂の色に近い服装にしている。
両手には、先程の破裂音の発生源であろう、1mはある大きなライフルを持っている、まだ銃身が熱いのか、小さな陽炎が立っている。
いかにもハードボイルドな感じでイカしてるぜ……
「あ……あぁ。 生きている、生きてるぞ俺……」
半分、自分に言い聞かせるように、こくこくと頷きながら返事をする。
「そうか……。どうやら、廃品回収業者のようだな、獲物を横取りしてすまない」
チラリと俺の格好を見てから、なぜか命を救ってもらったのに謝られた。
「い、いや。 こちらこそ危ないところをありがとうございます」
本当におかげさまで命拾いしましたよ…… はて、今聞き慣れない単語が出てきたな。
「命を救ってもらって、なんなのですが。 僕が廃品回収業者とは?」
思わず、血が出続けている腹部のことよりも聞き慣れない言葉が気になってしまった。
「ふむ……。 君は同業ではなかったのか、こんな砂漠の中を一人で…… それも、廃品回収業者でもないのに大したものだな。」
そういいながら、マスクを着けた謎の男は腰のポーチから水色がかった液体の入った小瓶を取り出す。
「素性はどうあれ、まずは治療だ、飲め」
「これは一体?」
見慣れない液体に思わず、聞いてしまう。
呆れたようにこちらを見る謎の男、いや見えないんだけどさ。
「正気か少年、まさか傷を癒やすヒールポーションを知らないっていうんじゃないだろうな?」
「え? いやだなぁ、知ってますよ! 飲むと傷口がまたたく間に治るって言うアレでしょ?」
まさかのマジックアイテムとは驚きだ。 こうだよ、こういうのでいいんだよ!
俺はマスクを少しだけ上に持ち上げ、一気に飲み干した。
「あぁ……。 しかし、一気に飲むものでは……」
「っかぁ~! うめえ……! ちょっと苦いけど水がうめぇ……!」
からからの喉に、ポーションが全身に染み渡る、ものすごい激痛とともに。
「あれ? なんだか身体が……痛い!?」
痛みのレベルで言えばサソリほどではないにしろ、傷口が更にえぐられているような感覚があった。
「ぎゃああああ! 助けてくれ! 死ぬ……!」
たまらずのたうち回る俺を、肩をすくめてため息をつく謎の男が続ける。
「……そのポーションは、細胞を活性化させ、治癒を早めるものだ。本来であれば数滴飲めば十分に止血にはなる、飲みすぎると急激な再生で身体に激痛が走るのでな」
それ飲む前に言ってくれよ……! 激痛で未だ悶しながらもそんな恨み言が心の中でつぶやく。
「まぁ、飲みすぎて死ぬことはないから安心すると良い。 激痛もじきに収まるだろうからな。 それよりも君、廃品回収業者でもないならなぜ一人で”バークス”に追われていたのだ? それなりの対策をしておくのは常識だろう? それとも君は馬鹿なのか?」
呆れを通り越して物珍しいものを見るような声で尋ねてくる男に、思わず握りこぶしをつくる。
「いや、全く反論できないのが悔しいわ……」
あぁ、そうだ、もっと慎重になるべきだったのだ。
見ず知らずの異世界に来たことで舞い上がっていた自分を殴ってやりたい気分だ、俺の生きていた世界ではこんなデンジャラスな事はまずなかったのだ、危機管理もなっちゃいなかったのだろう。
というかあのサソリっぽいやつ”バークス”って言うのかよ、いやそれ以前におかしな事に気がついた。
…………なんで言葉が通じてるんだ?
読んでいただきありがとうございました!
描写等未熟な部分がたくさんあったかと思いますが、今後内容が濃くできるよう精進していきたいです。
それではまた、お時間が合えば見てください~!!