その4
お待たせしましたー!
戦闘描写が申し訳ない程度にあります!
「やばいやばいやばい! 誰か! 誰か引っ張ってくれ!」
コケた俺は必死に起き上がろうとするが、砂の上では踏ん張ることが難しく、ましてや命の危機だ。
落ち着いて対処できる方がどうかしている、腰が抜けたように砂の上でもたつく。
近くの仲間を見ると、同じ様にシクソンとアレックスも尻餅をついていた。
「……! 急いで、早く態勢を立て直すの」
この強い振動が続く中、ウィルマは踏ん張れたようで、俺を引き上げてくれる。
「すまん。 助かった! 他の皆は大丈夫か!?」
見ればシクソンは尻餅をつきながら独り言を言っている。
「ははっ。 どうしたイエス? やばそうだな?」
普段の無口なシクソンからは余り想像の出来ないテンションの高さで楽しむように言う。
「うるさい」
その独り言を別の誰かに吐き捨てるように言って、シクソンを引き上げようとしていたロネンの手を掴んだ。
「全く、こんな場面でスッ転ぶとは、君は随分と自信過剰なようだね。 なに、自信を持つのはいいことだが、無謀に付き合うつもりはないのだがね?」
そう言いながら、掴んだ手ではなく。 空いた片方の手でシクソンの首根っこを掴み、無理やり立たせる。
シクソンはなんとかなったが、アレックスは大丈夫なのか……!
アレックスの元へと駆け寄ろうと、俺は走った。
だが、心配は要らなかった。
「わわわっ! 早く早く! ほら早くつかんで!」
懸命にウィンダがその手をアレックスに伸ばしていた。
「ありがとう! 助かったよウィンダちゃん」
その手をしっかりと掴み立ち上がる。
全員無事に態勢を立て直したが、前門には超大型ワーム。 後門には食事を済ませたマンティスが既に俺達に向かって飛び立っていた。
「あわわわわ! ロネン、早く後ろに放り投げてあげて!」
ウィンダが取り乱した犬の様にわたわたと慌てふためく。
アレックスもその慌てふためき様に感化されて、焦りにも似た声で不安げに言う。
「こ、これどうにかなるの?」
「後ろで投げたところで、向こうのマンティスが襲ってくるがね? なんにせよ、絶体絶命なのは変わらないさ。 どうする? 先ほどと同じように、化け物同士ぶつけてみるかね?」
「できるならそうしたいけど、それじゃあ、わたしらも巻き込まれちゃうよ!」
あわわわと、黄色いマスク越しにウィンダが大きな声を上げて抗議する。
誰しもが、大丈夫だ。 と言い切ることはなかった。
絶体絶命、迫り来る死というリアリティ。
それが形を成して、俺達の命を刈り取らんと挟撃してきている。
「……完全に挟まれた。 旗色は非常に悪い……。 突破口を開くしかなさそう。 あのワームは相手にするべきじゃない。 攻撃を集中させるならマンティスの方が良さそう……」
額に汗を滲ませながら、ウィルマが狙撃銃をコッキングして膝撃ちの姿勢になる。
「でも流石に相手の格が違うだろ! 上手くぶつけられたとしても、あのワームの圧勝じゃないのか!?」
どうする、どうする!?
知識の乏しい頭を懸命に回転させながら活路が無いかを血眼で探す。
まったく嫌になるほど絶望的に活路が見出だせなかった。
「そもそもあいつら俺たちに気づいているのか?」
そう言いながらも、シクソンの持つスタッフの先端から真っ赤な炎が立ち昇りだす。
「ワームよりマンティスというのは同意するがね。 もう、すぐ目の前まで迫ってきているぞ?」
一歩、二歩後退しつつ、腰に携えた剣を抜き放つロネン。
「嘘だろ……。 くっそ……! やってやらぁ!」
俺も腰ベルトの剣を改めてマンティスの方へと構え直した。
すぐ後ろからは、耳を塞ぎたくなるほどの轟音を響かせ、大地を捲りあげながら真っ直ぐに俺達の方へと来ているワーム。
そして対峙するマンティスは、カマキリの様な目を細め、左右の鎌を交差して、隙きのない構えを取っていた。
攻めあぐねている俺の肩を押しのけ、シクソンが前に出てくる。
「少し下がってろ。 燃えるぞ」
そう言ってシクソンはスタッフの先端をマンティスへと向ける。
その瞬間、マンティスとスタッフの間に線が引かれるように高熱を放つ真っ赤な炎が吹き荒れる。
それは生き物のようにマンティスの身体に纏わりつき爆発した。
「うぉぉ。 すげぇ」
熱風の余波を受けながら、目の前に立つ魔道士の姿に思わず見惚れた。
「……無理か」
だが、燃え上がる炎をマンティスはその鎌で切ったのだ。 並の生物なら確実に仕留められたであろう爆発を受けて、なおもマンティスは健在だった。
「まさか、あの鎌で爆発を斬り飛ばしたのか!? 滅茶苦茶じゃねーか……」
「鎌が厄介ね。 了解、狙撃する。 アレックス、初めてだけど上手く合わせて」
そう言って、ウィルマはスコープを除きながらアレックスに声だけかける。
「分かったわ。 ……喰らいなさいッ!」
アレックスの二挺拳銃から放たれた弾丸は真っ直ぐにマンティスの顔めがけて発射された。
しかし、その弾丸はあっけなく。 紙切れでも斬るかのように顔を鎌で防ぎ、一刀両断された。
だが、僅かな隙きが出来たのは言うまでもないだろう。
「今だ、ウィルマ!」
俺の声と同時に、ウィルマの構えた狙撃銃がマズルフラッシュを発生させながら、ジャイロ回転をして飛び立った。
マンティスの僅かな隙きを突くように、鎌に吸い込まれるようにして命中する。
鋼鉄の鉄板が無理やり引きちぎれたかのような金属質な音を立てて、マンティスの両鎌が粉砕された。
「では行くとしようかね」
「おー! 早くやっつけて逃げちゃおう!」
剣を持つロネンと、ガントレットを両手に装備したウィンダが駆け出す。
走るのとはまた違う、踏み込む瞬間速度に重きを置いた動きで一気に詰め寄る。
「シンヤ君。 その目でしっかりと見ておくといい。 これが命の奪い合いというものだ」
そう言って、ロネンは剣を下に構えながら、懐に潜り込む。
バチバチと空気を引き裂くような音を出しながら、斬り上げる。
その振り抜いた剣は、紫雷を纏いながら、マンティスの甲羅を斜めに大きく焼き斬っていた。
甲羅の中から、真緑の体液を出しながら、マンティスが逃げようと羽を広げる。
「逃さないよ? 甲羅で守ってるってことはぁ、ここ。 弱いんだよね!」
ロネンの影に隠れるようにして潜り込んでいたウィンダが一歩だけ体重を乗せて踏み進んだ。
弓を引き絞るように右手を引き、目一杯の力を込めて繰り出す突き。
銃弾よりも重たい破壊音がマンティスの内部から響き、噴出するように緑色の体液が吹き出す。
間違いなく致命傷だった。 マンティスが攻撃を受けて、ヨロヨロとふらついた後、その身を砂漠の上に伏せた。
「これが探求者の戦闘なのかよ…… 強すぎだろ」
恐怖なんてものは、目の前で行われた美しい連携に塗りつぶされていた。
俺が少し頑張れば足手まといじゃなくなる? 冗談じゃねえ。
平和な世界で育った俺が死ぬ気で努力してその領域に行けるかどうか。
同じ人間のように見えて、動きが俺の知る人間の域を超えていた。
ここが異世界なのだと、痛感させられる。
「ほら、シンヤ! ぼーっとしてないで走って!!」
アレックスが俺の肩をひとつ叩いて走り出す。
「お、おう!」
俺達は後ろから迫りくるワームから必死に逃げるべく、走ろうとした。
だが、様子が変だった。
「なぁ。 ワームどこにいった!? さっきまで後ろから迫ってたのに見る影もねえぞ!!」
轟音を響かせながら迫りきていた死が、気がつけば幻だったかのように姿を消していた。
本当に錯覚だったのか? それにしてはリアルすぎる。 じゃあ何処に?
静まり返る砂漠の中、俺達は逃げることもせず。 緊張を最大限に張り詰めさせた。
突如。 俺達の立っていた地面の周囲50m前後の砂が吸い込まれだした。
大きすぎて気がつくのが遅れたが、俺達を柵で囲むようにワームの巨大な円形の口が大きく広げられていた。
「…………!? 下だ!! あのワームが飲み込もうとしてるぞ!」
ズズズ…… と、辺りの砂がジュースを吸うかのようにどんどんと吸い込まれだす。
「―――――!!!!!」
アレックスの動きが固まった。
「え? ま、まさか…… まっさかぁああああああ」
先程までのかっこいいウィンダちゃんは姿を消し、悲鳴にも似た叫びを上げる。
「ワームの胃袋で砂浴は勘弁したいのだがね……」
その場でロネンが紫雷を剣に纏わせ、吸い込まんとしているワームに剣を突き立てている。
「絶体絶命。 せめて、抵抗はしてみせる」
ウィルマは狙撃銃の銃口を真下に向けて、何度も発砲を繰り出す。
「っくくく。 あはっ。 これはピンチだな。 イエス」
「黙れ、ノー」
シクソンもあまりの絶望的な状況でおかしくなったのか、自分と会話を始めだしている。
「あぁ、神様! なんでもいい。 この絶望的なピンチを変える何かをくれ!」
俺は飲み込まれながら、ただただ無事を祈ることしか出来なかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
主人公にはそろそろ良い所を見せてあげたい……




