その3
お待たせしました!
またしてもピンチの連続です。
俺達は太陽が完全に昇りきったうだるような暑さの砂漠の中、ひたすら走っていた。
後ろからは、地鳴りを響かせながら捕食しようと追いかけてくるバークス達。
そのバークス達の後方から更に大きな魔物、 面倒なのでカニカマにしよう。
カニカマが鋭い鋏をガチガチと鳴らしながら迫りきている。
絵面としては完全に食物連鎖の図が出来上がっていた。
「なぁ!? こういう時ってどうするんだ!?」
何か逃げる術はないものかと、ロネンに担がれながら。
一番逃げ足の早いシクソンが後方を一度振り返ってから俺に言う。
「逃げる…… 走る…… それだけ。 あとは相手を観察して逃げ道を考える、とかかな」
全速力で走っているとは思うが、シクソンの声からは疲労が感じられない。
むしろ冷静に状況を考えてる辺り相当な場数は踏んでいるのだろう。
「いやでも、どんどん距離が縮まってきてるよね!? いや、絶対縮まってる! ロネンもなにか策はないのか!」
距離にして60mは離れていたが、どう見ても逃げる速度よりも魔物の追いかける速度が圧倒的に早い。
焦る俺を担ぎながら、こちらも息一つ乱さずに淡々と走っていた。
「何がいたかは知らないが、これがこの旅の歓迎かね。 なに、とにかく走ってやり過ごせそうな場所を探すか、奴らを撃退しようと無謀に走ってひき肉になるか、かね。 あぁ、もし他の旅人がいれば、押し付けるのもいい手かもしれないね」
何が可笑しいのか笑えない冗談を言いながらケラケラと笑うロネン。
だが、状況はかなり厳しい上に辺りには隠れられそうな場所も見当たらない。
あるのは砂丘程度のもので、砂丘を影に隠れたとしても隠れるところが見えている以上それも無駄だろう。
「あんなのが3匹相手は流石に無理! あと黒マスクのお兄さん最後冗談でも冗談じゃないよおお!」
ウィンダもロネンの冗談に突っ込めている辺り体力的には余裕があるのだろうか、アレックスの手を引きながら必死に走っている。
そんな手を引かれているアレックスは、後ろはあまり見ようとはせずに足の早いウィンダに頑張って付いて走っていた。
「とにかく、どこか逃げ込めそうな場所がないか探しながら走ってるってことね!」
死に物狂いで逃げながらも、ウィルマは何度も後ろを振り返りながら魔物の行動を分析しているように見えた。
「……安全距離まで退避。 ただ意見具申するなら、後方接近の蟲は2種。 別種同士を当てて時間稼ぎができる可能性はある」
「まあ、外の化け物と言えど十人十色…… 十獣十色かね? 物によっては倒せるものもいるが…… どれ、どんな化け物かね」
といって、その提案を聞いたロネンが走りながら後方を振り返る。
アレックスも気になっていたのだろう、恐る恐る振り返っているのが見えた。
カニカマとバークス達をばっちりとそのマスク越しに見たアレックスは一呼吸置いてから叫ぶ。
「バークスとマンティスだー!!」
いや、マンティスってまんまかよ! 蟹要素どこいった!
周りが余裕そうな会話をしていて、俺も突っ込む気力が戻ってきていた。
そんな俺の心中は知らず、ロネンは腰に携えたサーベルのような剣を手に掛ける。
「おや、あれはまだマシな奴かね。 とはいえ、倒したところで得られるのは食べられない屑肉と、無駄に硬い甲殻だけだがね。 やるなら一息に片付けるべきかね」
「……距離60m、敵速の方が速い。 接敵まで数分。 このまま逃げ切るのは困難と判断」
そう言って、ウィルマも走りながら肩に担いだ狙撃銃を手に持ち、リロードを済ませていた。
「あれ、これ、もしかしてやるしかない? やるしかないの?! ねぇ!」
「そうみたい。 もう自分で走れるから大丈夫」
やや遅れて来ていたアレックスとウィンダも状況が分かってきたのだろう。
抗議するように言いながらも、自分の武器を取り出していた。
アレックスが二挺拳銃を取り出した後、俺達より前方を走っていたシクソンが申し訳なさそうに言う。
「悪い。 魔法は走ってると集中出来なくて、具現化出来ない」
いや、訂正する。 別に申し訳なさそうにしてなかった。
声では申し訳なさそうに言っていたが、本人は木製のスタッフを取り出しながら魔法を使うつもりしかなかった。
「でも、試してみるよ」
そう言って、シクソンは足を止め、迫り来る魔物たちに対峙した。
流石は連れ添った仲間だと思う。
シクソンが足を止めたと同時に、アレックスと俺を除いた全員が歩みを止め、向き直る。
僅かばかり遅れてアレックスも迫りつつ有る魔物に銃を構えた。
そんな中、俺だけ抱えられているのは申し訳なく思い、ロネンの腕を逃れようともがいた。
「俺は戦闘だと足手まといなのは自覚してるけど。 俺も戦わせてくれ!」
「ふむ、君は餌になりたいのかね? どうみてもシンヤ君が適う相手ではないのだがね。 もっとも、捕食される性癖があるのなら止めはしないかね」
そう言ってロネンは肩に担いでいた俺を以外にも丁寧に降ろしてくれる。
「いや、そんな性癖はないけどさ。 守られてばっかりは男として恥ずかしくてな」
仲間というのはこんなにも心の支えになるのか。
俺は一人の時に対峙したバークスの群れをその目で捉えていたが、震えて怯えることは無かった。
慣れない手付きで腰ベルトの下部に着けた小さな剣を抜刀する。
「絶対、皆で生き残ろう!」
そうは言ったが、飢えた魔物の群れに追われる経験をした人はまずいないだろう。
言葉では威勢は良かったが、本音を言えば今すぐ逃げ出したい。
いや、普通に無理でしょ! こんな小さな剣であんな大きい魔物を倒せる気が沸かないんだけど!
俺が弱音を心の中で漏らす中、追いかけていた魔物達の状況が変わってきていた。
バークス達よりも足の早かったカニカマ、もといマンティスがギラつく鎌を光らせながら自分よりも小さなバークス達に襲いかかったのだ。
警戒するようにバークスの群れの一匹がマンティスの方に振り返り、その鋭い棘のついた尻尾を立ち上がらせている。
しかし、警戒されていることはお構いなしにマンティスが蟹に似た足を曲げ姿勢を低くして、一気に跳躍をし、距離を詰めている。
その瞬間、逃げ出そうとしたバークスの一匹にマンティスが目では追えない速度で鎌を振るう。
哀れ、バークス一号はその鋭利な鎌で一刀両断された。
仲間が倒されたことに流石に危機を感じたのだろう、残りの二匹も俺達を追いかけることを諦めて、後ろの脅威から懸命に逃げ回りだした。
「……目標A、目標Bが接敵、戦闘状態。 退却するなら好機」
ウィルマはサイトを覗いていた顔を上げて、全員に聞こえる声で言う。
「おや、これは非常に好都合かね。 あの化け物どもが乳繰り合っているうちに、私達は避難するとしよう」
その様子を好機と見たロネンが一足先に駆け出した。
「いや、同感だけど! 変に意気込んだ俺がバカみたいじゃねえか! って待って待って!」
状況の判断力はさすがとしか言えないな。 というか前々から感じてはいたが。
ロネン…… 足遅くね?
下手をすれば運動も全然していない俺と同じぐらいだぞ。
そんな事を思いながら俺も負けじと踵を返して走り出す。
「え、ええ?! ちょっ、置いてかないでよぉ!!」
ウィンダも置いていかれている事に気が付き、泣きそうに声を震わせながら駆け出す。
「ちょっと! おいてかないでよー!」
その横でアレックスも自分が置いていかれてることに文句を言いながら逃げていく。
「……撤退、安全距離へ後退する」
構えていた銃を肩に担ぎ直し、ウィルマもやや遅れて走り出した。
よし、全員なんとか走り出せたな。
「皆、ちゃんと着いてきてるか!?」
念の為、後方を振り返って確認をする。
全員から付いてきている旨の返事があり、ひとまずは安心する。
「はやい…… あの鎌は一体どんな材質で出来ているんだ……?」
いや、なんでだよ! なんで変なところで逃げないんだよ! シクソン!
「シクソン! そんなどうでも良いことは置いておいて、早く走れ!!」
若干キレ気味に言う俺に対して、シクソンは片手を上げて謝罪のポーズとしてから走り出し、一瞬で俺達に追いついてくる。
「……はぁ、……はぁッ。 いや、魔道士なのに運動もできるって反則だろ!」
息を切らしながら走る俺を一瞥してから、なんでもないように不穏なことを言う。
「出来る魔道士は運動も怠らないんだ。 それよりもあの魔物が後に、こちらに来なければいいのだが」
しかし、その不安とは無縁だった。
マンティスの方はバークス達に夢中なのか、追いかけてくる様子はないように見えた。
思わず窮地を脱したことで、全員がホッと胸をなでおろしそうになった時。
地面が揺れた。
だんだんと地面が地震のように強く揺れ始めてくる。
前方の遥か遠くの方から、周囲の砂を巻き上げ巨大な砂煙を纏いながら何かが這いずり回って来ていた。
目を細めてよく見てみると、山ひとつ分はゆうにありそうな巨大なワームだった。
遠くにいるはずなのにも関わらず、その大きさからか距離感覚はかなり近くに感じていた。
「やばい! あれは絶対やばいって!! あっ」
俺は揺れている事と、全速力で走っていたせいか、その場で盛大にコケた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
最近は更新が遅れがちで申し訳ありません……
気長にゆるく待っていただけると幸いです!




