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この崩壊した砂漠は残酷で美しい  作者: 桔梗ちゃん
崩壊砂漠 第一話 【出会い、別れ】
13/21

その13

一章もいよいよ佳境です!


 マスクを取ったアレックスを見て、皮肉マスクのそばで立っていた黄色ちゃんが物珍しそうに近づき、ジロジロと隈なく顔を見る。


 「あー! マスク取ったんだ! お姉さん美人だねー。 というか若いって方があってる?」


 年寄りみたいなことを言う黄色ちゃん。 待っていた他のよそ者達も興味深そうにアレックスを見ている。

 近未来さん化していたアレックスを男性だと思っていたのだろう、家の入口近くの外壁によりかかりながら、魔道士くんがポツリと言う。


 「女だったのか。 てっきり男だと思っていた」


 それだけ言うと、魔道士くんは、魔道士服に似たローブのポケットからダイスをふたつ取り出して遊びだす。

 貧乏さんと皮肉マスクは、アレックスのことよりも宿の方が気になっているのだろう。

 顔のことには触れず、アレックスの質問に答えている。


 「……泊めて欲しいとは言った」


 アレックスを見ながら言う貧乏さん。

 

 「ボロ宿級の安さで、天井付きのスイートルームはないものかね。 まあ、天井さえついていれば上出来だがね」


 からかうように冗談を言う皮肉マスク。


 「あー…… えっと、それだけど…… ごめん。 半分しか出せない。 残りは宿の人と相談して」


 気恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻きながら、アレックスはお金が借りられなかった事に対して申し訳無さそうな顔をしながら言う。

自分のお金なのだろう、数枚の硬貨を貧乏さんに手渡す。


 俺は経済がまだ、硬貨とした形で残っていることにも驚いたが、底なしのお人好しなアレックスを見て冷静になる。


 「ちょっと待った。 流石にアレックス、そこまでしてやるのは気を許し過ぎなんじゃないか?」

 

 少なくとも、金銭的な余裕があるとは思えないし、いくらなんでもお人好しがすぎる。

 そう注意をしたが、約束は守る主義なの。 と一蹴する。

 貧乏さんはアレックスから手渡された硬貨を受け取らず、諭すように言う。


 「話が違う。 これで泊まれないなら受け取る理由はない。 それに…… 貴方から受け取るのもなにか違う気がする。 縁はあっても義理はない」

 

 どうやら貧乏さんは義理を重んじる人のようだ。 でも流石にタダじゃ泊めてもらえないんじゃ……。

 そのやり取りを見ていた黄色ちゃんも話の中に入ってくる。


 「なら、もう半分は手伝いましょう! 折角の旅のご縁は大事にしておかないと」


 そう言って黄色ちゃんも協力したいのか、数枚の硬貨を取り出す。

 それを見ていた皮肉マスクが立ち上がり、自身の薄っぺらな巾着をヒラヒラさせながら言う。


 「そもそも、宿の値段からして知りたいものだがね。 なけなしの財産だが、硬貨10枚なら持ち合わせていてね」


 そういえば宿泊費用は一度も聞いてなかったな。

 未だに硬貨をぐいぐいと手渡そうとしているアレックスに、その事について聞いてみることにした。


 「なぁ、アレックス。 宿の値段ってどうなんだ? 硬貨10枚で足りるのか?」


 アレックスは一度、硬貨の押し付け合いの応酬を止め、思い出すようにしながら話す。


 「宿は丁度、硬貨10枚のはず。 サービスは期待しないでね」


 つまり、皮肉マスクは丁度足りるのか。 そうなると、後は貧乏さんが硬貨を受け取れば話は終わるのだが……。


 ところで、と皮肉マスクは俺にこんな事を聞いてきた。

 

 「その歳にもなって君は無所得なのかね? まさか、そこの少女のヒモ野郎ではあるまいね? 同じ金のない者同士のよしみだが、同じ男としてそれはどうかと思うのだがね。 あるいは、君が家族のために惜しみもなく金の振る舞える男と信じておくかね」


 「いやいや、別に好きで無職なわけでもないし? むしろこれから礼を返してくし? というか気にしてることをアンタに言われると無性に腹が立つわ!」


 「そうかね? ならば早々に礼を渡してくるがいいさ。 この世の中では、いつ家族と会えなくなるかも分からないのだからね。 もっとも、君の様子を見るに、一度の礼程度では返し切れる恩ではなさそうだがね。 死にものぐるいで頑張りたまえ」


 「ぐぬぬ……。 はぁ、まぁそうだよな……」


 俺も思わず熱くなってしまった。 うん、仕事探そ……。

 そんなやり取りをした後、アレックスと貧乏さんの方を見る。


 未だに受け取るつもりはないのか、貧乏さんがそっぽを向く。

 俺も夕飯を待たせるわけにはいかないのだ、どうしたら受け取ってくれるのかを聞くことにした。


 「じゃあ。 貧ぼ……、狙撃銃を担いだお姉さんはどうしたら受け取ってくれるんだ?」


 思わず変なあだ名が出そうになった、危ない危ない……。

 貧乏さんは一瞬眉をしかめた後、まっすぐに俺を見て答える。


 「タダで恵んで貰うつもりもない、足りないなら埋め合わせをする。 一晩泊まるだけの働きで良ければ何かをさせてほしい」


 そう言った貧乏さんに、アレックスは一つ頷いて返事をしてから歩き始める。


 「なるほどね…… まぁ結局は交渉次第ね。 とりあえず行きましょうか」


 アレックスの後ろを追うようにして、黄色ちゃんがついて行き、貧乏さんの肩を一度、皮肉マスクが叩いてから励ますように言う。


 「なに、最悪武器でもなんでも売ればなんとでもなるさ。 今後のことを何も考えなければの話だがね」


 皮肉マスクの言葉に、軽く返答をしながら二人はアレックスと黄色ちゃんの後を追う。

 俺のそばで、地面に手をついて辺りを探していた魔道士くんに俺は声をかける。


 「仲間の人達行っちゃったけど、アンタもいかなくていいのか?」


 俺の言葉が聞こえていないのか、独り言をブツブツ言う魔道士くん


 「あー。 どっかに硬貨10枚でも道端におちてねぇかな……」


 いや落ちてないだろ……。

 ホームレスみたいなことを言っている魔道士くんを横目に、俺も先に行ったアレックス達の後を追うことにした。


 「たぶん落ちてないと思うぞ。 俺は先に行くからな?」


 おい、待て。 と魔道士くんが焦ったように俺についてくる。

 


 宿は地上近くにあるようで、内壁沿いのゆるいカーブを描く、広めに作られた螺旋階段を登っていく。

 階段を登る途中、俺が最初に来た頃よりもかなりの町を行き交う人々とすれ違っていた。


 「こんなに人居たんだな……。 今日は祭り事でも合ったりするのか?」


 俺が何気なくこぼした感想に、アレックスも不思議そうに答えてくる。


 「いや、そんなはずはないと思うけど。 妙ね、普段なら皆、家で大人しくしてるはずなんだけど……。 あまり仲良くしたがらない人が多いのよ、だからこんなに人が家から出てくるのは珍しいわ」


 言われてみれば一様にしてマスクを着けているものは多かった。

 それでも一部の人はマスクを着けていない人もいるのか、素顔を確認できる。


 龍人と言えば良いのだろうか、二本の足で人間と同じ様に歩きながらも背中には大きな二枚の翼。

 腕や首元には服の合間から鱗のようなものが見え隠れしている。

 さらに、漫画の世界ではおなじみの背の低いドワーフや耳の長いエルフなど。


 最初に来た時は、そもそも町の人の姿を殆ど見なかったのと、皆マスクを着けていたから分からなかったが……。

 眼の前を行き交う人々が、俺が今いる場所は異世界なのだと、実感させてくれる。


 「すげぇ……。 龍にドワーフにエルフに、まだ居るな。 あれはゴブリンか!? おい、魔物じゃないか……!」


 思わず声を荒げそうになった俺を、アレックスが手で制してくる。


 「シンヤ。 あまり種族のことは大きな声で言わないほうが良いわよ。 さっき言った事の補足にもなるけど、昔大きな戦争が異種族同士であったの、そのせいで世界は滅んだし、なんならその遺恨が今でも残っているから…… 皆、町の中でマスクをつけてるの」


 「そうだったのか…… すまん、思わず先入観で言っちまって……」


 そうだよな、こんな過酷な状況なんだ。 争ってる暇はないよな……。

 反省してる俺に、アレックスはそんなに落ち込まないでと、笑顔を見せる。


 「いいのよ。 分からないことはしょうがないから」


 俺たちの会話を聞いていたのだろう。 黄色ちゃんも話に混ざってくる。


 「お兄さん、いくらなんでも常識がなさすぎるんじゃない?」


 俺の前を歩いていた黄色ちゃんが振り返りながら言う。

 貧乏さんも、気になったのか、チラりと俺を一瞥する。


 「同感。 おまけに養ってもらってるなんて、最悪」


 う、うるせえやい! 噛み付いたところでロクな未来が見えないので、心の中で反発する。


 「大体、俺は気がついたら砂漠の中に飛ばされてたんだよ。 俺が居たのは別の世界。 ここでの常識なんてわからないんだよ」


 それを見ていた皮肉マスクが信じられないようにアレックスに言う。


 「君、この男はイかれているのかね? 非常識という言葉は便利だが、気狂いに対してそれは理由として弱いのではないかね?」


 アレックスは信じてくれるよな……。 そうこぼす俺に対して、アレックスは俺の味方だった。


 「うーん、でも本当の事っぽいから。 私は信じることにしたの、だって演技や嘘にしては徹底しすぎよ」


 お互い狂人だな。 と言いたげな驚き方をする皮肉マスクさん。

 そんなやり取りをしながらも、目的の宿屋に着いたのか、アレックスを先頭に立ち止まる。


 「着いたわよ。 ここがこの町で唯一の宿屋」


 閑古鳥が鳴くほどに誰もおらず、外からは店主の姿が見えなかった。

 ドアの着いていない入口の横に、トタン板にスプレーだろうか、塗料で荒々しく文字が書かれている。

 

 「なんて読むんだ……」


 文字と言うよりかは記号の羅列に近いものに、頭が痛くなる。

 俺の隣で歩いていた魔道士くんが、丁寧に解説をしてくれた。


 「こんな低レベルな言葉もわからないのか。 フッ、まぁ教えてやるか。 これは”ズーガ1番の人気宿”って書いてあるんだ」

 

 バカにしながらも、ちゃんと教えてくれる辺り案外いいやつなのかもしれないなこいつ。


 「”ズーガ1番の人気宿”ってか、ここにしか宿屋がねえからだろ! ……? どうした皆」


  きっとここの店主はアホに違いない……。 それよりも宿屋に入る様子がないけど、どうしたのだろうか。


 俺がアレックス達の方を見ると、宿屋ではなく。 宿屋から見える町の入口を見ていた。

 線の先を追うように、俺も町の入口を見る。 そこにはこの町のほとんどの人間が集まっているのだろう。

 町の玄関でもある、大きな扉の前に設けられた広い広場には入り口を取り囲むように半円の人だかりが出来ていた。



 ざわざわとした中で聞こえてきたのは、こんな会話だった。


 「え……? まさか……」 「いや…… なんでここに……」 「ホントウニ イタノカ……」


 そのどれもが困惑を隠せない様子だった。


 「何かあったのかな?」


 アレックスがそんな事を言う、よそ者達も気になるのだろう、一様に口を開く。


 「なーんか嫌な雰囲気だね。 ちょっと見ていこうよ」


 そういいながら人混みをかき分けていく黄色ちゃん。

 その後を追うように、俺達も町の入り口近くまで、黄色ちゃんに先導されながらついて行く。


 町の門の前、俺が入ってきた小さな扉が開けられており。 その先には異質な雰囲気の三人が居た。


 一人目は鹿頭の男。 町の入口に片膝を立てて座り、街の外をジッと見ている。 その傍らで壁によりかかりながら、外を見ている、何か動物の顔を模した奇妙なお面をつけた長身の筋肉質な男。

 そのすぐ近くには、外に向かって膝立ちになりながら、自身の二倍はあると思われる巨大なライフルを構えスコープを覗き込む、口元だけのマスクを着けたフードの女。


 一様に外を見つめていた。



 「なんなんだ一体……」


 その三人からは、他者を寄せ付けないほどの威圧感が漂っている。

 有名人が放つオーラとはまた違う、絶対的な力を持つものが放つオーラ。

 子供でも分かるだろう。 ただ座っているだけなのにもかかわらず、一切隙きがなく、剣を向けようものなら何の抵抗もなく斬り伏せられる。 そんな空気だった。


 皆、同じことを思っているのか、近付こうとするものはおらず。

 遠巻きに見ているだけだった。


 「…………強そうな人たちだけど。 有名人なの?」


 貧乏さんも三人組を警戒するように見ている。 


 「何やら騒がしいね。 どうやら、あそこの3人が騒ぎの元凶のようだ。 君、あの3人はここいらの有名人か何かかね?」


 遅れてやって来た皮肉マスクもその様子を見て、アレックスに尋ねる。

 背の低いアレックスはあまり見えなかったのだろうか、皮肉マスクに言われ、三人組を注視する。


 「あっ……! そんな…… あの人達は……!」


 驚きと困惑、アレックスもこの街の人と同じような反応だった。


 「……揃いも揃って外を眺めているようだが、ワームの大群でも近づいてきているのかね」


 皮肉マスクも同じ様に、外に視線を向ける。 先頭の黄色ちゃんは三人を一度見てから、外へと顔を向けた。


 「マスクのレンズに汚れがついてみえねぇ……」


 俺の横でレンズをごしごしとしながらぼやく魔道士くん。

 いやお前、さっき地面に顔近づけてたせいだろ……。

 ある程度見えるようになったのか、魔道士くんも三人組を見る。


 アレックスが震える様な声で、すこし怯えながら言う。


 「アンチフラッド……! 伝説のレッドスコール殺し! 生きてたなんて!!」


 アンチフラッド……?

 俺以外も、疑問に思ったのだろう。 よそ者達もいまいちピンとこない返答をする。


 「伝説のレッドスコール殺し…… 凄いヒトなの? 私には分からない」


 レッドスコールもよく分かっていないわ。 と言う貧乏さんに、アレックスが信じられないように驚きながら話す。


 「あの人達はともかく、レッドスコールも知らないの? 他の地域にもいると思ってたのに」


 「えぇ。 平和な穴蔵ばかり移動してきたから。 良ければ詳しく教えて」

 

 なんだろうな、俺が置いてけぼりで少しジェラシー感じちゃう。

 俺が嫉妬を抱いていると、黄色ちゃんもあまり知らないのか、頭をかきながら言う。


 「……噂として名前は聞いたことないねー。 けど、これだけの人がどよめくってことは相当なひとたち?」


 皮肉マスクも聞いたことがないのだろう。 腕を組みながら顎を触って言う。


 「少なくとも、私のいた地域ではレッドスコールもアンチフラッドも、名前も話も聞いたことがないがね。 名前だけ聞けば、洪水なんて殺せるものかと思うがね」


 俺も当然知らないが、知名度からするとあまり知られていない人たちなのか……。

 

 「俺にも分かるよう簡単に説明してくれ」


 アレックスは難しそうに考えながら、しばらく唸った後、説明するように手振りを踏まえて言う。


 「レッドスコールまで知らないなんて…… どう説明したらいいかな」

最後までお読みいただきありがとうございました。

いよいよ物語が動き出します。 この先はこの世界がいかに残酷なのか描くつもりです。

楽しんでもらえるよう、がんばりますね!


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