第015話『仮面の笑顔は崩れ掛ける』
よろしくお願いします。
二度目の人助けであって、慣れてきたレナだったが、今レナ達は助けた行商人達の馬車に乗って『ファースト』に向かっている途中だが、此処で一つの問題に直面する。
めっちゃ尻が痛い。
LV300のステータスに加えて、十分バランスブレイカーといえる装備は、並大抵の攻撃は意味をなさない。しかし痛いと感じるのは、精神的なものだろう。宛ら、昔に怪我をして発生した幻痛のような感じだ。
そしてレナ達は初めて馬車に乗った際に起こる試練に耐えていたところに、片方の行商人が話掛けてきた。
「さっきはありがとう、改めて自己紹介をします。俺の名前は、ルークスだ。短い間だが、よろしく頼む」
「……レナじゃ」
「……レティシアです」
色々雑談を交えつつ、一応この世界の事を聞いてみた。
まずこの世界は、六つの国があるらしい。
一つ目は、『王国』で今現在居る国。二つ目は、『帝国』で西にある。三つ目は、『共和国』で東にある。四つ目は、『獣人国』で北にある。五つ目は、『魔王国』で獣人国の西にある。六つ目は、『連合国』で南西にある。因みに『ファースト』という町は、王国の北東に位置するらしい。
次に『ファースト』の領主の話だ。
この領主はここ最近任命されたらしい。数年前に共和国との戦争があり、そこから急激にのし上がったようだ。
その領主が治める町は次々と新しい物が開発され、とても活気に満ちているようだ。
「う~ん。鬼人族と吸血鬼は珍しいね」
「珍しいのか?」
「うん。どちらの種族も、態々自分達の領域を出るという事自体が珍しいからね」
「なるほどのぅ」
「なるほどです」
さっきの話から数刻が経った頃、レナは自分の種族が居るのか聞いてみたところ、共和国に多いらしい。そしてレティシアも気になったのか、自分の種族の事を聞いてみると魔王国に多いらしい。
因みにこの世界では魔王は倒す敵ではなく、魔族をまとめるから魔王だそうだ。
そんなこんなで馬車に揺られていると、馬車の速度が落ちてきた。
レナ達と話していたルークスは、何事かと馬車を操っているもう一人の行商人の元へと向かった。話を聞く限り、旅の冒険者と会った様だ。
如何やら冒険者が歩いていると、この馬車を見つけた様だ。そこから護衛無しに馬車を走らせているのを不審に思い、こうして話し掛けたようだ。
冒険者と話していた行商人は、こちらの事を話しているらしい。
「なるほどのぅ」
今までの話を聞く限り、このままだとこの冒険者の情報が得られないらしい。別に装備や立ち振る舞いから見て強そうと思わないが、それでもただで勝手に情報を与えられるのを見ているのは、レナにとって不愉快だ。
そこでレナは、『鑑定』を使う事にした。
しかし『鑑定』を相手に使う際は、相手によってはバレる可能性がある事に加え、相手の了承を得るのがマナーである。
そこでレナは、『隠密行動』のスキルも使う事にした。こうする事で余程差がない限り、バレないというわけだ。
しかしその前にレティシアにハンドサインでこれからの事を伝える事にした。
(これから『鑑定』を使うぞよ)
(了解です)
そしてレナは、『鑑定』と『隠密行動』を使った。
名称;ロビソン
種族;人族
職業;剣士
スキル;剣術2 気配感知1 光魔法1
エクストラスキル;万能の者
装備;鉄の剣 レザーアーマ
調べても得をしないと思っていたレナは、少し面白そうなものを見つけた。
・万能の者…スキルの熟練度の上昇が上がりやすくなる。
(のじゃ~~!)
レナは今までレベルの上限が来て、熟練度を上げれなくなっていた。しかし上限が開放されている今なら、そのスキルは欲しいものだ。
元々スキルを奪えるスキルが存在している事を知っていたのだが、必要ないと無視していた。だから今レナは、とても後悔している。
(しかし、エクストラスキルのぅ)
エクストラと聞く限り、スキルの中では特別な物だろうかと当たりをつけたレナだったが冒険者達の話を聞いたところ、此方の事に話が移りそうだった。
話に拗れが出ては面倒だと思ったレナは、元居た場所へと戻った。
少しして冒険者達が、此方へと来たようだった。
覗いた顔は金髪碧眼の美青年だった。普通の女子が見たら、十人中十人はイケメン勇者だと答える容姿だった。
しかし此処にには、普通の女子は一人も居ない。居るのは、レナとレティシアだけである。これなら、ハニートラップでさえも回避出来るだろう。
そうこうしていると冒険者が此方へと話し掛けてきた。
「こんにちわ」
「……こんにちわじゃ」
「僕の名前はロビンソンというのだけれど、君達の名前は?」
「……レナじゃ」
「レティシアです」
「そうか、可愛い名前だね」
レティシアは営業スマイルで答えれたのだが、肝心のレナはぎこちない笑顔の裏に苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
実はレナはイケメン勇者系が嫌いだ。
VR時代などで、そんな人に散々迷惑を掛けられた事が何度かあったからだ。それからレナは、イケメン勇者系が嫌いになった。
ふと、レナは思いついた様にハンドサインでレティシアに伝えた。
(ソイツの相手は、任せたぞよ)
(そんな~)
建前と本音が逆だろうと気にしない。それがレナにとって幸せなことだから。
そんなやり取りをしつつレナは馬車を出して貰うように頼み、再び馬車は『ファースト』へと進み始めたのだった。
冒険者と会ってから、数刻が経った。
因みに先ほどの冒険者は、付いてきたりする。何でもこの一行の事がとても心配らしい。別にレナ達にしてみれば、肉盾が一枚出現した程度の認識だ。しかしルークスにとっては、金がなる木だろう。話題性が高く、このまま懇意にしてもらえば、将来は安定するだろう。
そんなこんなでまた馬車の速度が遅くなってきた。レナが確認したところ、如何やら数人組の人らしい。
そして「またか」とルークスは馬車を操っている行商人の方へ向かった。しかし聞こえてくる話声は、あまりよろしくはないようだった。そんな話声を聞いたロビンソンは、いち早く行商人達の元へと向かった。
レナ達も少ししてから三人の元へと向かった訳だが、如何やら口論になっていた。
「どうかしたのじゃ?」
「あぁ、レナさん。これは弟に確認してもらったのですが、あの人達はさっきまで護衛をしてもらっていた冒険者なのです」
何とルークスの弟は『鷹の目』というスキルを持っているらしく、それで確認していたようだ。
そして行商人の兄弟が今からレナに伝えようと馬車の中に行こうとしたら、そこでロビソンと鉢合わせたらしい。彼も何事かと気になっていたところだったので、話したところ……………。
「迂回すべきだ。態々危険なところへ行く必要はない!」
「あの人達は、君達を危険な目に合わせたんだぞ。このまま向かって正義の鉄槌を食らわせるべきだ」
と今のように争っているらしい。
別にレナとしてはどっちでも良いのだが、ルークスは不安そうに聞いてきた。
「レナさん達は、どう思いますか」
「そうじゃのぅ」
レナが得と損を秤に掛けていたところ、今度はレティシアが話掛けてきた。
「主。少し良いでしょうか」
「構わないぞよ」
「如何やら彼方も気付いたらしく、此方に来るようです」
その言葉にルークスは、諦めた表情をしていた。ただ諦めた表情といっても、生きるのを諦めるのではなく、「戦うしかない」といった表情をしていた。
しかしそんな決意も虚しく、事態は動いている。
向こうが近づいたのを知ったロビソンは、いきなり元護衛達の元へと行って話をしているらしい。
最初は面倒くさいと思っていた元護衛達だったが、ロビソンが此方に指を指したところ、途端に顔色を悪くした。それから何やら覚悟を決めたように腰の武器へと手を伸ばした。
如何やら、戦うしかないようだった。
ありがとうございました。
さて、彼の運命は!