69話 土木学研究室兼建設技術開発室兼機械工学研究所についたのじゃ!!
「おや、そこにいるのは……まさかオドレイ様!!?」
状況を一変させる言葉が、廊下に響く。
「誰なのじゃ」
すぐに尋ねる。自己紹介は大事である。名前も名乗れない怪しい人物に、返答する価値なし である。
「ああ、申し遅れました。セバスティアン・フォーシェレ・デ・プレストル=ヴォーバンと申します。以後お見知りおきを」
うむ、しっかり名乗れてえらい。まぁ当たり前であるが年上である。セバスティアンは学生服が大学生のものでしかも3年生らしかった。つまり18歳程である。ちなみに人間である。
「ヴォーバン? 聞かぬ名じゃな」
これでもそれなりに現世の貴族の家名を覚えている方であるが、ノーマークであった。
クラリエルにも尋ねるがやはり無名であると言える。
「まぁそうでしょうな。特に何もない村を保有している貧乏貴族ですから」
セバスティアンはそのように自虐する笑顔をみせる。
「して、そのヴォーバン家の者が何用か……と言いたいが、助かった。道を尋ねたいのじゃが」
セバスティアンは場違いな低学年の私達に声を掛けたのである。理由は明白。何か理由あってここに居るのだから手助けしようと言うのである。ありがたい。
「先ほど小耳に聞こえましたが、建設技術開発室をお探しでしょうか? あるいは土木学研究室? ひょっとしてやっぱり機械工学研究所を? いずれにせよ案内しましょう。こちらです」
事もなげにセバスティアンは私達が個別に聞いた場所を全て言ってのける。
「丁度そこを目指していたのじゃ。 しかし何故3つとも覚えているのじゃ?」
これ幸いとばかりにセバスティアンについていくが、疑問を口にしてみる。
「その3つは全部同じ部屋にあるからです」
さらりと凄い事を言うセバスティアン。
なる程。私達三人が別々の場所を覚えていたのはそういう事であったのか。
「なにぶん、あまり有名ではない分野でしてね。おかげで狭いのなんのって!」
セバスティアンはそう言って苦笑して見せる。
「それより、何故オドレイ様がこのような場所に? ああ、やはりトマスの発明品を見に? そうなるとジョスは悔しがる事だろう」
先ほどからこの男。小言がよく入る。やはりこのような場所に部屋を持つ者は何かしらあるのだろうか。
等と考えていたらすぐについた。
「さ、着きました。オドレイ様」
「うむ、礼を言うのじゃセバスティアン」
「セバスとお呼びください。オドレイ様。御付きの方もそうお呼び頂いても構いません」
さらりと言う奴である。胡麻磨りではあるが悪い男ではない。研究次第で名を覚えていても損はなかろう。
そして、肝心の室内だが、予想に反して小綺麗な部屋であった。
もっとこう、このような魑魅魍魎なエリアなので、魑魅魍魎な部屋だと思っていたが。在りし日のヨハン・ベットリヒの研究室よりも綺麗かも知れない。
「いやぁ部屋を綺麗にしてよかった。ちょうど今ゴミを捨てに行ったばかりで、その帰り道にお会いできてよかった」
セバスは言う。やはり掃除していたらしい。
「セバス? 帰ってきたのか」
奥より出てきた男がセバスの名を言う。これがトマスだかジョスなのだろう。
「ああ。ってジョス!なんだその恰好は!?」
「は? いつもと同じというかさっきと同じ格好だぞ?」
ジョスと呼ばれた男は、工房用の前掛けをしており、泥弄りでもしてきたかのような汚れ具合である。
「今オドレイ様が見えているのだぞ!」
セバスは怒る。
「オドレイって誰だ」
ジョスと言われる男は事も無げに答える。
うむ、現世に生まれてこのかた、否、前世でも、名前を聞いて誰と言われたことがなかった。
「いや、聞いた事あるぞ。確か意識高い低学年の連中を正論でぶん投げた側室皇女様だっけか? そいつがどうしたって?」
「……今ここに来ている」
はあとため息をつくセバス。
「あーなるほど。この方が……あー……なるほど。やっちまったな俺」
「状況を理解してくれて礼を言うのじゃ。ジョスとやら」
ふむ、粗暴な男ではあるが、それでもこの状況を不味いと思うほどには礼儀を知る男らしい。
分かったからクラリエルとオレイユ、敵意を向けるのはよさぬか。
この男の名はジョス・スミータン。生家は弁護士らしい。
ここで土木工学というものを研究している。つまり土木学研究室はこやつであるらしい。
ちなみにセバスが建設技術開発室。
「それにしても、建設技術? に土木工学とは聞かぬ学問じゃの」
「そりゃそうでしょう。土木工学者はこの世に俺、じゃない。私しかいませんから」
茶を出してくれたジョスがそう得意げに言う。
この者、中々の変人である。聞くところによると橋や道路や人工洞窟、港湾、河川はおろか、ゴミ捨て場や建築に使う資材全般を土木工学として研究をしているそうである。
……それは、ただの普請(工事)学か何かでは……?
そう思わないでもない。今は建築に使う新しい石か何かを作っていて、だから泥をいじっていたそうである。
「しかし、まいったぞ。トマスのあの通信器を見に来たってのに、肝心のトマスが居ねぇなんて……」
敬語が苦手なジョス。残念ながら通信器の作者はいないようである。
ちなみに敬語に関しては既に私から無理に敬語は使わなくてよいと言っている。
「まぁいいか。勝手に使っちまおう」
「いいのじゃか!?」
「いいんですか!?」
事もなげに言うジョスに、クラリエルと私が思わず被る。クラリエルは本当に可愛いな。
「使い方は分かってるから大丈夫だ。なぁに壊れませんよ」
そう言って何か準備をし始めるジョス。とセバス。
しばらく経ち、準備ができたとジャラジャラと鎖を持ちだしてくるジョス。
「これが通信器?」
クラリエルが不思議そうに言う。
「ああ。こっちの装置と、向こうの装置で会話できるって寸法だ」
「向こう?」
「隣の部屋だ。セバスが待ってる」
そんな訳でオレイユを行かせる。いや、メイドに行かせるかい!とジョスが突っ込むが気にしない。
それにしても珍妙な道具である。
見た目は鎖に繋がれた長さ10cm、横10cm、厚さ5cmの箱である。そこに魔法石がはめ込まれている、しかも2つ。
1つは相手の声が聞こえる用、もう1つが相手に声を届ける用。らしい。
これらは鎖に繋がれていて、それは隣の小部屋(大部屋に部屋がいくつかついてる間取り)に続いており、その先にもこれらがあるらしい。
きわめて珍妙である。
しかし通信魔法はさらに奇怪で、なんでも相手の姿が見えるらしい。なにそれこわい。
『オドレイ様、聞こえますか。オドレイ様?』
等と思考していたら、相手の声が聞こえる小箱からオレイユの声が聞こえるではないか!
「お、オレイユなのじゃな!?」
びっくりである。自分でも大変びっくりしている。
『あ、聞こえます。オドレイ様の声が聞こえます。凄いですねこれ』
驚きである、あのオレイユがかなり嬉しそうである。
これは凄い発明である、通信魔法よりも格段に使いやすい。通信魔法使ったことないが。
なにせあの表情があまり変わらないので有名なオレイユが嬉しそうなのである。これはすごい。
ちなみに表情が全く微動だにしないのはロジータである。
「もっと何か話してやれ」
と、思考していたらジョスがそう急かした。
ううむ。話せというものの、何を話せば……。
「も、申す申す。のじゃ」
何言ってるんだ私。
『は? もしもし?』
案の定聞き返された。
とりあえずクラリエルに変わる事を告げてクラリエルに渡す。
慌てるクラリエルも可愛いが、今は緊張して喉が渇いたので出されていた茶を飲む。美味しい。
ふとクラリエルの方を見ると、いい笑顔でおしゃべりをするクラリエルが居た。
……何も知らないと、二つの謎の箱を耳と口に当てて何もない空間を見て語り続けている。というなんとも『狂気的な光景』ではあるが……
いや、それにしてもいい笑顔である。というかよくしゃべっている。相手はオレイユなのだろう? 何故オレイユ相手にそこまで?
……まさかクラリエル、お主まさかオレイユに……? いやそんな筈はあるまい。そんな筈は……。
しかして今までのクラリエルの目線の先に何があったか? を考えると……
「目が怖いぞ、どうしたんだオドレイ。様」
危うく呼び捨てにされるところだったジョスの呼び声に、思考の海から引き戻される私。
危ない危ない。
「なんでもないのじゃ」
そう言って茶を飲む、紅茶である。
そう、きっと思い違いである。それにクラリエルとオレイユが仮に気があったとして、私に何が不都合があると? ない。
そう。だから大丈夫である。
きっと、傍から見ると、今も楽し気に虚空に向かって会話を弾ませている狂気的で芸術的ですらあるクラリエルに充てられたのだろう。間違いない。
そう大丈夫である。そう思い紅茶に口をつけ……。
「やべーよ……ヨハン・ベットリヒ先生。死んでた……」
おまたせしました。深夜のテンションでオドレイ×クラリエル×オレイユの三角関係が発生しました、なぜこんな事に…
他何か感想等がありましたらお気軽にどうぞ
次回は来週です。最近二週間おきが続いていて申し訳ない…




