67話 討論会その余波
「やあ、クリスティアナ。元気?」
「フィリーヌ、来たわね」
クリスティナの部屋に一人のドワエルフの女性のフィリーヌが入る。
ここは学園要塞の一室。クリスティナの部屋である。
「最近ここで流行ってる学生運動? が沈静化したって聞いたけど、それ本当?」
挨拶もそこそこにフィリーヌはそう尋ねる。
「ええ、中には根強く活動してる層もいるけど、大半は考えを改めたり黙ってたりしてるわ」
お茶を用意しながら語るクリスティナ。
「へぇ。こっちは平和でいいねえ」
いいなあと零すフィリーヌ。
「フィリーヌだって弁護士でしょ? 弁護士としてはどう見てるの?」
「とりあえず奴隷なんぞの高級品なんていいから貴族連中は現行法守れよと言いたい」
「あはは、言えてる」
茶を飲みながら、二人はそうやって談笑する。
戦国時代と違い、貴族間の傭兵同士の小競り合いはあれど、大規模な争いである戦争が行われなくなって50年も経過しているこの世界にとって奴隷とは農村部や貧困層で身売りされた人間位しか成り手がおらず、大半は鉱山へ罪人と共に消費されるのである。
市場に出回る奴隷はそんな鉱山行きを回避した者であり、数がそういない。よって高いのである。
「沈静化の原因は例の側室皇家サマって聞いたけど、本当?」
「ええ、キッカケは食堂で騒いでたのに割って入ったって話よ」
はいこれ発表会の時の議事録。とおもむろにクリスティナはフィリーヌに渡す。
「へぇ議事録なんかあるんだ。中々本格的……」
そう言って読み進める。
「ふーん。中々良い事言うじゃん、側室皇女のオドレイ様」
流石5歳の頃からウナギぶった切って11歳にそれを纏めた論文出すくらいはある。と褒めるフィリーヌ。
「でもまぁ。やっぱり自分が売られるような事がないって確信してる地位の娘って感じね」
「あーうん、気持ちは分かるけどそれはちょっと不敬罪に当たるかも」
「うん、ちょっと今のは言い過ぎたかも」
等と他愛もない会話を続ける。
「売られるって言っても、実際この子あのマウテリッツ伯の処に嫁ぐって話じゃない? 結構な僻地の領主サマに嫁ぐ上に、あの辺境伯爵に嫁ぐなんて。ねぇ……」
中々難儀よねぇ。見た目は可愛いのに。とフィリーヌはため息を付く。
「そうでもないわ。彼女、マウテリッツ伯の事大好きらしいし」
「マジ?」
「ええ。春あたりだけど、好きな物や人への思いを言うって授業で、教師が止めるまで20分強は延々と伯の事褒めちぎってたって話だから」
「愛が凄い」
「さらには教室内で伯への悪口を言う輩の目の前でリンゴ潰して見せたり、逆に羨ましいじゃろう?!みたいなドヤ顔したりとかしてたし」
「愛が強い」
等と本当に他愛もないオドレイの会話を続けるのであった。
学園都市内 某所
「まさか……かの側室皇女があれ程の知識を有しているとは……」
「ただ辺境の地へ送られる姫君と思っていましたが……」
「これは観方を改める必要がありますわね」
薄暗い部屋にて、三人の娘が話し合っていた。
その特徴的な服装から、三人は長安大陸からの留学生である事が伺える。
「最初は芸術にうつつを抜かしていると思っていたが、夏休みが終わった今、次々と各分野の人間と精力的に会っているらしい」
「やはりこの国の教会が言っていたように、彼女は転生者?」
「例えそうであったとしても、大陸の違う我々にとっては関係のない話ですわね」
最後の発言に、二人は頷く。
「まぁ…私は同じ大陸の者なんだが」
「イリュリアの者でしたね」
「どうもイリュリアの方は長安大陸の国のように思えてしまいますわ……」
しかし最初の発言者の発言により、どうも話は逸れてきた。
「というかアイオリスの連中がおかしいんだ。あいつらは偏屈だ」
「言えてますね」
「どうもあの国の方々とは馴染めませんわ」
もはやアイオリス同盟の悪口の場となってしまった。
「あーお三方。そろそろ陰謀ごっこはお仕舞にしてお昼にしましょう」
そう言って従者と思われる者が声を掛ける。
「おや、もうそんな時間なのか」
「早いですね」
「お腹がすきました。終わりにしましょう」
そう言って三人はじゃ食堂行きますか。と声を掛けあい、従者を連れて部屋を後にする。
「(で、転生者ってなんだ)」
「(なんでも宗会用語で、異世界の人間が生まれ変わってきた者らしい)」
「(宗会ってのは長安大陸での教会という意味だ。イリュリアの者よ)」
そう、三人の従者はこそこそとやりとりをするのであった。
つづく
9月にはいって二週間も経過してしまいましたが、なんとかできました。
最後に出てきた三人はあんまり深く考えてないので今後出るかは分かりません
次回は一週間後になります多分