59話 濃霧の時はむやみやたらに動かずに、晴れるのを待つに越した事はないのじゃ!
目が覚める。
遠くに波の音が聞こえる。
ここは海水浴をした浜辺の近くの林、の野営所である。
ああそうか。海水浴をして野営したのであった。と寝惚けつつもそう頭を働かせる。
時は寅の刻……この現世においては午前4時。と言うべきか? 大体いつもこの時間帯に起きる。
大抵はクラリエルも起きるのだが、まぁ今日は寝かしておこうと思う。
日課の朝の鍛錬は私だけが行う事にしよう。と陣幕の外へ出る。
するとそこは見た事のない程の……霧であった。
一面に広がる白。白。白。の深い霧。
海岸近くでこのような濃い霧は前世でもなかった。これは凄いと思わず飛び出してしまう。
服は既に着替えている。
濃霧を鼻を摘まれても分からぬ程と表現する場合があるが、まさか本当に起こるとは思わなかった。
しかしこの時、私はただでさえ初の海水浴のお泊り会で浮かれていた上に、このめずらしい現象に気分が高揚……いわゆるテンションが上がっていた為に、この地が初めて来た未知の場所である事をすっかり忘れていたのであった。
「うむ、迷った。不味い」
途方に暮れる私。絶えず周りは白い濃霧のままである。
これは地味に非常に危ない。幸い地面が平の道を選んで歩いてきたが、これが森や林なら何かに滑って崖や丘の下に落ちたら大変である。
ここは大きな街道があるため、魔物が出る事は少ないと言われているが、油断はできない。マウテリッツ伯との狩りで少なくない回数で遭遇をしている。……一体だけ等のケースがほとんどだったが。
幸い、武器のはいつものように背中に『ドラゴン・ロワリング・ブレード』を下げているのでどうにか戦闘になってもどうにかなるとは思う。
しかしそれにしても刀を背中に下げつつも、それで抜刀できるとは不思議な身体である。前世ならばできない芸当であったのに。
等と思考していたら、なにやら奥の方から怪しげな音が聞こえる。
否、音だけではない、声らしき何かである。
遠くより「め」に濁点を付けたような奇怪な、しかし小さいカン高い声が聞こえてくる。
「め」に濁点どころではない、なにやら「ん」に濁点のような声も聞こえてくる。
そしてゴトゴトカタカタと荷馬車のような、だがそれにしては不自然な音が聞こえる。
極めつけはその音が聞こえる方向から何やら怪しげな小さな光のような色が灯っている、怪しげに揺れている。
私は言いようも知れない恐怖に陥り、背中の刀に掴む。
しばしの霧の中での沈黙。否、絶えず音は聞こえ、怪しげな光と共に近づいてきている。
「オドレイ様!何をしているのですか!!」
ふいに背中から聞きなれた声が聞こえたかと思えばむんずと掴まれてぐいっと後ろに引き寄せられる。
オレイユである。頭や手で感じるこの感触は間違いなくオレイユの豊満な胸の感触である。
「オレイユか。驚いたぞ」
私は言う。背中の刀に手を掛けていたが、半分くらい抜いていた。というかその手がオレイユの手に当たっている。
「驚いたのはこちらの方です。まさかこの濃霧で道路まででて来るとは……」
オレイユは焦った様子で言う。
「道路?」
ここでの道路は街道……つまり主要道路の意味である。帝都とオルレンスを結ぶ非常に整備された道である。
そう思考していると、『ソレ』は現れた。
先頭にロバという馬に似た生き物に曳かれた馬車……左右に午前4時で濃霧という事でランタンを設置し、荷台には「メ〝メ〝エ〝」や「エ〝エエ」や「ン〝エエ」「イエエエ」とも聞き取れる奇怪な……
「羊!?」
「ヤギです。危うくヤギの運搬車に轢かれる所でしたよ」
ううむ、なんという事か。羊とヤギを間違えるとは……。
いや、そうではなく。ただの運搬車を得体の知れない化け物か何かと勘違いしてしまうとは。
「そ れ に 何故こんな濃霧なのに歩いているのですかっ。大変危険です。オドレイ様に何かありましたらどうなると思って……」
ううむ、久々にオレイユが怒っている。
そうこうしていると、霧が晴れて周囲の確認ができるようになってくる。
主要道路という事で、かなり早い時間帯であるにも関わらず意外と人通りのあるので驚いた。
とりあえず、オレイユと共に野営地へ戻ったのであった。
つづく
某濃霧映画の最後だけ見てしまい、とりあえずそのパロですが、ホラーでもなんでもない為、ただの幼女が道路に出てトラックに轢かれそうになったみたいな話になっちゃいました。
次回は5月12日ごろです




