56話 うなぎの弁当は最高なのじゃ
「あらあらまぁ……」
オデッタはその光景に口に手を当てて驚いたようにする。
「誰?オドレイ様にうなぎの弁当なんか出した人は」
ヴァレリーはそう言って「きっと召使い用の弁当と取り違ったのね」と続ける。
オデッタやヴァレリーだけではない。別の馬車に居たモンテクッコロ姉妹まで食事の為に居合わせていた。
召使いの皆達も、慌てていた。
「ほう。うなぎの弁当ですか。美味しそうですね」
そんな中、木幡だけはその弁当に好意的であった
「うなぎは双方の大陸に生息している普遍的な魚で、かつ焼いてあるのである程度保存がきき、この地域でも夏にうなぎを食べる習慣があると聞いてます」
そして語りだす木幡。どうやら鰻が好物らしかった。
「でも米の上にうなぎの焼いた切り身を乗せてソース掛けただけよ?」
ヴァレリーは指摘する。
いわく、それはあまりにも貧相との事である。
「それにこの皇国で普遍的な調味料、ソース。これも味が濃くて魚の味付けに最適です」
しかし木幡は語るのを止めない。
なおソースが魚の味付けに最適かは疑問符がつく。
「駄目だ聞いてないっ」
「こうなってしまったら中々止まりませんよね。木幡さん……」
ヴァレリーとオデッタはそう言いあった。
「……この弁当の、本来の持ち主は誰なのじゃ?」
オドレイは今もなお語り続ける木幡を横に、静かに尋ねた。
「ああ、それは俺がオドレイに配るように言ったんだ」
手を上げたのは、婚約者のマウテリッツであった。
いわく、鰻はこの近くの村で採れた物で、ぜひ皇族のオドレイ様に。と献上された物であるという。
「むっ!そうかそうか。ならば食べる他あるまいなっ」
心なしか声が弾んでいるように見える。
「しかし姉上、これ下が米が敷き詰められておりますわ」
そんなオドレイに、水を差すかのように言うヴィヴィアーヌ。
「ほう、米、ですか……」
またしても反応してしまう木幡。
木幡は、この皇国へ留学した際に、米があまり良い扱いをされていないのを目のあたりにし、当初は憤慨していた。
しかし、巷で流れている米を買い、試しに食するとその意味が分かった。
純粋に美味しくないのだ。
そもそも米は長安大陸の物と言っていい程に、長安大陸では普遍的な食べ物であるが、ミイソス大陸では南のアルマナとコーサラ以外、食べられていないのである。
皇国で流通している米は基本的に砂漠の国アルマナの大河で栽培されている物だが、それが美味しくないのである。
砂漠という土壌のせいなのか、降水量や温度のせいなのか、長安大陸の米とは味がまったく違うのだ。
米を毎日食していた木幡も、3日に1日はパンを食べたり、他の料理だけで腹を満たす日がある程である。
よって、皇国において米とは貧者の食べ物であり、それを3日に2日も食している木幡三城は、当然学園要塞において『陰湿ないじめ』の対象になる事があった。
最近はなくなったが、何者かが木幡の場所に、皿に乗った炊いた米を丸めた塊を仕掛けた『陰湿ないじめ』が起こったが、幸い風紀委員であるオドレイがそれを食べた為、そのようないじめは起きる事はなくなった。
「正直、皇国の米は、あまり……」
等と、木幡は思考を巡らせ、そう言わざるを得なかった。
「いや、まぁしかし。農村であるからして献上品でもこの程度であろう」
オドレイはそうたしなめる。
「既に毒見の方は済んでおります」
オレイユはここぞとばかりにそう言ってみせる。
「そうか。そうか。うむ、ではいただくとしようか、いただきます」
その言葉を聞き、得意げに頷きながら、オドレイは『いただきます』を唱える。
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「本当は、献上品ではなく最初から用意させていたのでしょう? 旦那様」
「何故俺の仕込みだと?」
「鰻って、調理するの、中々時間が掛かるんですよ」
「まぁそういう事にしておこうか。さ、片付けで海へ行くぞ」
つづく。
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