55話 夏じゃ!海じゃ!ウナギじゃと!?
さて、そんな訳で海水浴へ行く日である。
帝都のディバタールから海岸線を辿って北へ半日程行った所の浜辺にて海水浴である。
この世においては潮浴もとい海水浴は普遍的な行為であり、帝都の民達は夏場になると近場の浜辺で海水浴を楽しむらしい。
つまり、いつぞやの私が甘酒ないかな。米があるけど甘酒の作り方分からないと項垂れて、米のヨールルトに喜んでいた時にも海水浴をしていたという事になる。
さて、北へ半日と言ったが行く方法は馬車を使う。
そう、馬車である。
かくいう私、馬車に乗るのはかなり少ない。
マウテリッツ伯に連れられる時は常にただの馬で移動していたからである。
前世からして馬車がなかったので、密かに楽しみである。
前世に馬車がない。という事をクラリエルに言ったら驚かれた。
現世において馬車は街から街へと移動する手段のみならず、帝都内での移動にも使われる程、生活に根付いた物であるからだ。
確かにマウテリッツ殿に連れられた際に、荷馬車とも貴族用の派手な馬車とも違う小さな小綺麗な馬車を何度か見た事があった。
なお、前世には馬車はないが貴族用に牛車が使われていた。と言ったらまた驚かれた。
何故、高貴な者が牛なんぞに曳かれた物に乗っているか。という質問をされて戸惑った。
話せば長くなる。
しかし簡単に言うと、いわゆる中華における三国志の時代に時の後漢の皇帝が長安から洛陽へ脱出する際に牛車を使用した事から高貴な者が牛車を使うようになり、それが日ノ本に伝わった。とされている。
こうやって書くのは容易いが、中華や三国志についてクラリエルは全く知らない訳なので、説明にやや戸惑った。
そもそも、現世において牛は育てて肉を得るか、普通に畑を耕す生き物なので、あまり良いイメージがないのである。
というか、戦国の時代となっていた前世においては既に貴族も牛車を使わなくなっているので、ますます説明がしにくかったのだ。
「姉上ー。外の景色を見ていて楽しいのですかー?」
ビビアーヌがそう言って私に話掛ける。
そんな訳で現在、私は三頭引きの馬車に乗って列を成して街道を北に走っている。
驚くなかれ、この馬車の列は6台ある。1台につき10人は軽く乗れる大型の馬車である。
結局モンテクッコロ姉妹も付いてきてしまう事となった。
しかも弟のサシャが、ミシェルに懐いてしまい、クッコロさんと略すまでになっていた。
姉妹とサシャ、および皆のメイド達が後ろの馬車に乗り、マウテリッツ伯が前の馬車に部下達を連れて乗っているし、一番前は先導車で、一番後ろは荷馬車、二番目に後ろの馬車は使用人用の馬車となっている。
このような行列に加えて、護衛の為に騎兵が10騎も両側合わせて付いてきている。騎兵は先頭に5騎、後ろにも5騎いる。
遠出するだけでこれだけの大事になるのだから、ご苦労な事である。
「姉上~? 聞いておりますか~?」
ビビアーヌが私の顔の前で手を振ってみせる。
「うむ、聞こえておるから安心するのじゃ」
適当に返事をしてみる。
「そう言えばオドレイ様って今回の海水浴場には初めて行くのでしたか?」
ヴァレリー氏がスケッチブックを片手に尋ねる。
「うむ、じゃからこうやって外の景色を眺めていたのじゃ」
そう言って再び動く景色を眺める。
何気に私は帝都より動いた事がなかった。まぁ当たり前ではあるが。
マウテリッツ殿が狩りにつれ出す以外に、門を出た事がないのではないか。というレベルである。
なので、こうやってゆっくり外の景色を眺めるのは、正直初めてかもしれないのである。
等と、考えていたら急に馬車の方が停止した。
「何事なのじゃ」
「姉上、そうやってすぐ背中にある刀に手を掛けるのは止めましょう」
ビビアーヌはそうやって私が背中にあるミスリル製の刀……名をドラゴン・ロワリング・ブレードと名付けた刀に手を掛けるのを諫めた。
「どうやらお昼のようですね」
オデッタがいつものように物静かな言葉で告げる。
うむ、現世においては昼でも食事をとる風習である。それは遠出をした時とて同じである。
とはいえ、やはり遠出なのであらかじめ作った弁当を食す。
そんな訳で馬車を下りて食事である。
時折吹く風が気持ちの良い、とてもよい天気である。
メイド達により弁当が配られ、さて食べるか
「うなぎ……じゃと……?」
ぱかりと蓋を取ると、そこには箱一面にウナギの切り身が焼かれて調理されたものが敷き詰められていた。
つづく。
久方ぶりの更新です。次回は来月になりそうです




