47話 平和なのは良い事なのじゃ
「なるほど。学園でアードルフに会ったか」
「うむ、学園でも主の話をしておったのじゃ」
さて、あれから暫く経つ。
今日はマウテリッツ殿の館である。
以前に学園の授業がない時は学生は学園外に出れると言ったが、ついに私も外出許可が出たのだ。以前言っていた際は、皇族側室だからとあまり許可が出なかったと言っていたが、やはり婚約者と会う時だけは許可は下りるのだ。
かくして私はこうやって婚約者に近況報告しているのである。
「そうそう。生徒会で思い出したのじゃ。生徒会には他国の留学生でも入れるのでな。斉帝国や蠣崎幕府からの留学生が生徒会にいる関係での、今度故郷の料理を振る舞ってもらうのじゃ」
この件については話せば長くなる。要約すると『どちらの国の料理が美味しいか』というものであるが、決していがみ合ってる訳ではない。むしろお互いがお互いの国の料理をたたえ合った上で、さて如何にしてこの国の者にその素晴らしさを伝えられるかを考えた末にお食事会をしようという話になった訳である。
「そいつはなんとも平和的な戦いだなぁオイ」
伯は笑う。
「平和は良い事なのじゃ」
私もそう言って笑う。
最初、伯とは『孕石に似ている』というだけで『まぁ婚約者な訳だし、産んでやるか』程度の認識であったが、近年は『こやつの子を産まねばのう』と思うようになってきた。
それというのも、学園で妙な思想の持ち主がやけに目に付く気がするからである。
なんでも、女の幸せは結婚だけではないだの親が決めた相手とは結婚しない等と言う輩がいるのである。
これが町娘なら捨て置いたが、貴族の子らが集う学園である。発言者も貴族の子である。
貴族は、己の家と領地を守り治め、主たる皇帝に仕えるのが使命である。少なくとも私はそう考えている。
その貴族の親が、子を存続の為にどこかに嫁がせてたり行かせたりするのは当然の事である。子がそれに異を唱える余地等ある筈がないのである。
それに、貴族の女の役目など嫁いだ先の男の子を成す事以外に何があろうか。幸せ等という戯言を言うでないっ。
……と言いたかったが、私も女の身である。そう言った手前、子を一人も成せなかったら笑い者になる処ではなくなる。目も当てられない惨事である。
なので言わなでおく。自分が子を成せる体であるかが甚だ疑問であるからである。ホビエルフという成人しても体が子供並みというのも大きい。
……果たして伯の子を成す事ができるのであろうか。私の身体は。
「ん? どうした? また考え事か?」
伯が押し黙った私に声を掛ける。
「うむ。まあの。 あ、そうじゃところで伯殿。火薬の商売はどうなったのじゃ?」
唐突に話を変えてみる。
「唐突だな……まぁ軌道に乗っているぞ。やっぱり鉱山用の爆薬を商品化させておいて正解だったぜ」
話は前回あたりの火薬の話に移る。
火薬の値が暴落したとされるが、その裏には鉱山への火薬の売り込みが積極的にあったのだ。
「一応、この国は表向きは平和な国だからな。鉄砲は役には立つが、所詮音の出る玩具でしかねぇからな。だから鉱山での需要をわざと増やして高値にしておいたのは正解だった」
そうなのである。
前世ならまだしも、この国は太平の世に等しい平和な国である。火薬の使い道がないと言えていた。
そこで伯は、私の従者のクラリエルの親が長をしているゴッター商会を通して鉱山用の爆薬を各地の鉱山に売り込んでいたのである。
これにより伯とその協力者は巨万の富を得る事になったのである。
「お前のツテでどうにかなった。ありがとうな。オドレイ」
そう言って伯は優しく頭を撫でる。
「私は何もしてないのじゃ」
そう言ってしばしそれに付き合う。
こうして見るに、人に頭を撫でられるというのも、中々悪くないものである。
しかし、こうやって平和を謳歌していた時、その終わりが近い事に、この時の私は気づいていなかったのだった……!
つづく。
次回は12月30日を予定しています




