42話 例の芸術に強い友達が衆道好きだった件についてなんじゃが
ヴァレリー氏により芸術の見聞が広がったのは前回の通りであり、ヴァレリーとは懇意の仲になった。
元より私は何かと現世の芸術とやらに興味はあったので大変良かった。
おそらく、実家の城にはエルディバ随一の芸術品が飾られているのだろうが、如何せん知識がない。
解説をしてくれる者は多く居たが、分かりにくいか興味がなかった頃だったので適当に聞き流していたのだ。今に思えばもったいない事をした。当時は他に学ぶべき事柄も多く、こちらの作風を理解する余裕もなかったのだ。
さて、このヴァレリー氏であるが、どうも距離が近くなると馴れ馴れしくなるようである。……世に言う『ため口』という奴である。私初めて……。
まぁため口とやらは別に問題ではない。ヴァレリー氏の部屋に私が行った時限定の話であり、不快にも思わないし、なによりため口とやらを使う時は話に夢中になった時であるからして、問題はなかった。
ヴァレリー氏にはそれをしても大丈夫な程の知識と仲であるかして、私もそれを認可する仲であると思っているからである。
うん、ため口は問題ではない。問題なのは……。
「ところで……。オドレイ様は男性の彫像に興味を持っていられましたが、好きなのでございますか?」
と言う会話から始まった物事が、大きな波紋を私の中に広めている。
確かに、以前私は男であるからして、女の方がよかったとはいえ、男に興味がなかったと言えば嘘になる。
この現世の男性を模した彫像は、前世にあった大和の東大寺の金剛力士像の如く筋肉質の力強さを持ちつつも、神や仏などではなく人間らしい……臭さ? 臭さというよりはなんというか……なんというか、人間らしい何かを感じる事ができる素晴らしい芸術である。
という旨を話したのである。
「ところで……お主、なんでも小説を書いておると聞いたが、それは誠か?」
その後、ふと噂話を思い出し、逆に尋ねてみたのである。
ヴァレリーは同性愛に関する書を筆跡している。という旨の噂話である。
なんとこの現世では、同性による恋愛……つまり衆道をあまりよく思っていない……否。よく思ってないどころか禁忌として定められている。確かに前世だって表立ってやるようなものではなかったのだが……。
もし誠であるなら……友人関係を理由に同性に恋愛感情を持っていると打ち明けるようなら……ヴァレリー氏には悪いが少し距離を取らざるを得ない。世間体的な意味で。しかしヴァレリー氏の芸術の教養は決して捨て置く訳にはいかない知識量であるので、険悪にならない程度の距離を取る必要がある。一芸ある者を囲っておいて損はないのである。
等と色々と思っていたのが
「……見ます?」
等と怪しげな笑みを浮かべて一冊のノートを差し出してきたのであった。
表紙にはネタ・ノートと書かれている。この場合のネタとは小説や物語の構想という意味である。
ヴァレリーの怪しげな笑みに不安と興味を抱いた私は、クラリエルと共にそのノートを読んでみる。
結論から言うと、そのノートには同性恋愛に関する内容が記入されていた。
しかしそれは男が男に抱く恋愛……つまり衆道である。
そう、このヴァレリーという小娘は、女の身でありながら衆道に興味があるのだ!!
前世では考えられない。正室が自分の夫が自分ではなく配下の者と恋愛の関係にあるなどと分かれば、不快感かあるいは嫌悪感を抱くのが常であったからである。事実、そういう話を武田家で聞いた事があるのだ。
「これは……同性の、男同士の、恋愛、じゃな?」
読み解きながらそう尋ねる。無論ヴァレリーはそうであると答えた。
ううむ、なんたる事。まさか同性愛ってこういう事だとは……。
これでは私がクラリエルに手を出してしまった事の方が危ないではないかっ。
それよりも、このノートに書かれている内容が中々興味深いっ
「ヴァレリーよ」
「なんでしょう」
「中々、面白い話であるのじゃな。これっ」
そう興奮しがちに答えると、ヴァレリーは再びにやりと不気味な笑みを浮かべた。
その笑みは、まるで仲間が増えた事を喜ぶ笑みのようであった。 気がする……。
つづく。
どうにか月曜日に更新できてよかったです。
次回は21日ですが、永らく放置していた銀河連合日本の二次創作の銀河連合大和について書きたいと思っているので不明です。
28日に一応変更します。