33.5話 慈悲なき刃
「ええい!くそ!!なんで私がこんな目にっ!」
貧困街の路地に、片腕のない男と護衛数人が慌てたように走る。
男の名はバイラス・ガストビ。ガストビ商会およびレグザッグ商会を支配していた男であった。
だが、今は『謎の襲撃者に片腕を切断され、無様に逃げ惑う男』でしかなかった。
とりあえず、切断された箇所は魔法石を押し当てて簡易的な止血を行い、どうにか動ける状態でしかなく、このまま適切な治療を受けなければ命に関わる状態であった。
だが、突如としてエドワードフ商会による大規模な襲撃により彼の商会の主要な施設は軒並み襲われており、近づく事もできずにいた。
「何故だ!? 連中はこちらの拠点に気付いていた様子はなかった筈だぞ!!」
「ええ、その筈ですっ。他の拠点はどうであれ、少なくともあそこが把握されている様子はありませんでした。一体どこ経由で漏れたのか、私にもわかりませんっ」
護衛の一人、護衛と言うよりは側近と言える者がそう冷静を取り繕って言う。
「お前がわからんようでは本当にわからんぞ!?」
バイラスはそう叫ぶ。側近の能力を分かった上での発言であった。
「とにかく、今は表のレグザッグ商会へ行き、態勢を整えるべきかと」
「分かっている! それと被害と状況把握だっ。船の手配もしておけっ。状況的に帝都を捨てる可能性の方がでかいぞ!これはっ!!」
「せっかくのここの拠点を捨てるのですかっ!?」
「連中が単なる襲撃ならそんな事はせんっ!連中はわしらが黒幕だと知った上での襲撃であったら、わしらの居場所が帝都にはなくなる事になるっ!」
そう叫びながら走る。
「故郷の南方植民地ならまだ基盤は残っている!そこへ戻ればまだ再起は図れるだろう!?」
「承知しました。手配の方をしますっ。しかし今はとにかくレグザッグ商会へっ」
そう言って彼らは走る。
しかしその走行が、ふいに止まる。
一人の男性が行く手を遮るようにたたずんでいたのであった。
男は真っ黒なローブを身にまとっており、顔は判別できない。なので男性と断言するにはいささか曖昧ではあるが、その体つきから男性であると言えた。
「おい、お前!そこをどけ!!」
護衛の一人がそう叫んだ。
男は何も答えない。
「聞いているのか!おま」
松明を持った護衛がそう言って近づこうとしたが、できなかった。
男は素早くナイフを投擲し、護衛の首元に突き刺したのであった。
転がり落ちる松明に照らされ、男性の顔が照らされる。
初老のドワエルフの男性であった。
「き、貴様……一体!?」
バイラスは恐怖を抱きつつ尋ねた。
「セシャソン家の者だ。死に往く者にはこれで十分だろう?」
その言葉と共に、初老の男は剣を抜いた。
「せ、セシャソン家だとぉ!?」
その言葉にバイラスは驚き、そして死んだ。
一瞬の出来事であった。
バイラスだけではない、周りの護衛もすべて斬られた。
抵抗するどころか、それを認識する間もなく、一瞬にして死んだ。
「なん……だと……?」
……一人の側近をのこして。
バイラスの側近は、その目にもとまらぬ現象に腰を抜かしてへたり込むしかできなかった。
「……遅かったな」
初老の男はそう静かに言った。
「……師匠。何故……こんな事を……?」
闇の中よりオレイユが現れる。
バイラス達を追って来て見れば、自らの師匠がバイラス達を殺害していたのだ。
「……バイラスは死んだ。こいつはその側近だ。ガストビ商会を終わらせる情報はあるだろう。使っておけ」
初老の男はそう言って翻って闇に消えようとした。
「待ってください!師匠!何故師匠自ら出向くんですかっ!?」
オレイユの声が響く。
初老の男はその言葉にピタリと歩みを止め、しばらく間を置き、そして静かにこういった
「まだ言えん」と。
そう言い残し、初老の男の気配は消えた。
その後、オレイユはバイラスの死骸と側近を回収し、戻る事となった。
つづく。
次回は22日に予定しております。




