3話 愉快な妹と友なのじゃ!
あれからしばらく経つ。
風習の違いから泣きたくなる時もあるが、私は元気である。
色々と風習が違う上に女の身であるからして雪隠の仕方とか違くてつらいが、一番つらいのは米と味噌がないのが一番応えるが、元世界では見た事も聞いた事もない料理が美味しいので挫けたりはしない。
しかしながら米と味噌さえあれば人間生きていけるだけにそれがないとやはり寂しい。
「あねうえー。きょうも本アサリですかー」
「うむそうだ。ビビアーヌ。今日も元気そうじゃの」
「もーあねうえー。ビビアーヌじゃなくてヴィヴィアーヌだよ」
「うむ? <びぃびぃ>じゃろう?」
「う に てんてんだよー!!」
……このように、うに点々を付けるとか、かなりの無茶を要求されるものの私は元気である。
「しかしオドレイ様、もう文字を覚えられてるなんてすごいですね」
そう言うのはクラリエル・ゴッターなる娘。かのゴッター家は城下の豪商の娘であり、母親が私の乳母という事もあって私の世話役兼従者兼乳姉妹である。
商人等の上流平民ともなると父方の苗字しかなく、農民ともなると村の名前となるのが苗字のルールらしい。
髪の毛が薄い緑色で5歳という若さで既に伸ばしている。そしてその伸びてる髪の毛が両脇に巻かれているという、こちらの世界では在り得なかった髪型をしている。
「たしかにそーだね。あねうえは夜も本を見てラクガキしているし」
「ヴぃヴぃアーヌ。それは筆写というものじゃ」
落書きとはこれは参った。
筆写は書を覚えるには最適な方法である。幸いこの国(というかこの地位)では蝋燭使いたい放題だし。
「もう字が書けるんですか!?」
驚くクラリエル。驚く顔が可愛い。
いやそうじゃなくて驚くのも無理はない。こちらはまだ五歳でしかないのだから驚くのは当然である。その割にクラリエルの知能数が高い気がするが気にしない。
「まぁの。まだへたっぴじゃがの」
「それでも凄いですよ」
そういうなクラリエル。照れるではないか。
「あねうえはあたまいいんだよー!」
「ヴぃヴぃアーヌ、お主もがんばれ」
「えー。やだー!」
全くこのビビアーヌはとぼけておる。これは将来気を付けねば今にとんでもない事をしでかすであろう。今のうちに首輪をした方が将来的には安心できるであろう……。
と、前世の癖でそう薄暗い思考を巡らせている間に館内の書庫へ到着する。
「ううむ、いつ来てもここの本の量には驚くの」
「あねうえはいつもそればっかりー」
ヴィヴィアーヌに言われるも、それにしても多い。
本棚に本が敷き詰めれており、その本棚がいくつもある。その本の質も丁寧に作られており、紙も上物である。大陸随一の大国の皇家の所蔵物とはいえ、やはり驚かされる。
そう、ここにあるだけで相当量なのにこれは父上および皇室の所蔵物でしかないのだ。つまり大学や寺院、書院にはこれより多くの書物があるという事である。
もはや驚きというか、国力の高さに呆れの領域に入る。
かの中華や朝鮮の書院すら霞む超大国、それがこのエルディバ皇国という国なのである。
「では今日はどれを読もうかの……」
そんな訳で今日もヴィヴィアーヌとクラリエルと共に本を読みふける。
おそらく午後からはヴィヴィアーヌがしびれを切らせて遊びたがるので午前のみではあるが。
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「今日もオドレイの奴。居るわね」
「そう言わないの、エルヴァール」
「でもアデライトお姉さま。あの子達は腹違いの…」
書庫へ入る三人をこっそり廊下の角で見ていた二人の姉妹……身なりから身分の高い者である事がわかる。
「腹違いでも妹は妹。でしょ?」
「それはそうですが……。 いつわたし達とお兄様を狙うかわかりません!」
「狙うだなんて……大丈夫よ。オドレイ達はそんな子達じゃないわ」
苦笑するアデライト。表情に曇りを維持するエルヴァール。
「お姉さまは甘いわ!」
「そうかしら? でも私達まだあの子達ろくに会話もしてないわ」
「そういえばそうでしたね!」
姉の正論に考えを改めるエルヴァール。
彼女達こそ、現エルディバ皇帝の第一王妃の長女と次女、アデライト・プロヴィル・デ・サヴァチエ=エルディバ(13)とエルヴァール・ヴァノーネ・デ・サヴァチエ=エルディバ(10)であった。
サムライ特有の発音の悪さが露呈した話でした。
味噌は多分昔のおかずになるタイプの味噌なので現代の味噌と米だけでは生きていけません。