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23話 夢の中であった、ようなのじゃ……

 

 馬で道を歩いている。


 道はどこかで見た景色。


 土煙や埃で汚れた旗印。


 これは多分夢。


 あの日の夢なのだろう。


 時は天文6年、2月。折しも我は武田の娘を正室にもらい受け、武田との同盟がなったのを知った北条は、それに怒り、駿河東部の吉原へと軍をすすめた。


 これに我は立ち向かったが、先の内乱で家中は統制が取れておらず、堀越氏・井伊氏といった遠江武士の離反の報を受け、兵たちは浮足経つ事になってしまったのであった。

 

 当然、そんな中で行われた合戦の結果は敗北。この敗戦により実質的に駿河東部は北条方に『預かられる』事となった。



 そして今、こうして敗戦により惨めに歩いているのであった。


 折しも2月。聖菓子の日などないこの戦国の世はあまりにも寒かった。


 そんな訳で早々に夜営に使う寺へと赴く。


 既に先鋒の主な武将達が入っており、安全と食事の方は確保済みという報を受けていた。


 そんな訳で夕食ゆうげである。


 夢なので会話は流れるように終わり、夕食ゆうげが運ばれる。


 ウナギである。しかもぶつ切りに調理されているものである。


 「近くの川で採れた物でございます」


 孕石元泰はらみいし もとやすがそう告げる。そうそう、そういえばこの時の食事担当が孕石元泰であったのだ。


 「今頃の鰻は美味いのかね?」


 そして我はそう尋ねた。


 「鰻は、冬が旬でございますに」


 そう、孕石は微笑を含みながら告げる。なんだかやけに懐かしい笑顔である。



 我が何故、頑なに『ウナギの旬は夏ではない、冬だ!』と駄々をこねて、錬金術だか錬金学を用いてまでそれを証明するのに躍起になっていたのか自分でも永らく不明であったが、恐らくはこれであったのだろう。


 そう、思い出す事ができて良かったと思い、鰻を口へと運ぶ……。



 「はいアウト~」


 は?


 「貴方が詠んだ辞世の句『青梅や 葉にしたるは 雨雫 嵐の後の 空高くかな』ですがね」


 場所は桶狭間のあの場所、なんか梅の木の傍である。


 そしてなんか唐突にアウト~とか異世界語をしゃべりだしてるのは、公卿の冷泉為和れいぜい ためかず。冷泉家7代目当主にして官位は正二位は権大納言、つまり朝廷の偉い人である。

 冷泉為和氏は我が今川家の外交官的な存在であるとともに和歌の師でもあった。


 「5・7・5・7・7で纏めなきゃいけないのに5・6・5・7・7になってるんですね。【葉にしたたるは】なんじゃないんですかね」


 「ああ!!なんという事じゃあああ!!」


 「というか57・57・7でなきゃいけないのに、575・77になってるとか連歌テイストになってるのはなんで? 連歌嫌いって言ってたのになんでこんな事したの?」


 「だ、だって。あれは一瞬脳裏によぎった句というかなんというか、その!」


 等と弁解をしだす我。なんだこれ。


 「ふはははは!!愚かなり今川義元!!!」


 高らかな声が響く。


 「なっ!!おぬしは織田信長!!?」


 そこに居たのは、なんと『信長』と書かれた仮面をかぶった男がおった。


 すごい、本当に仮面に『信長』と書かれている。そういえば我、前世せんごくのよでは結局、信長に会えず仕舞いで死んでしまったのであったな……。


 「現世うつよはこの俺に任せて貴様とっととあの世でも異界でも逝くが良いわッッ」


 そう言って刀でもって斬られる。不思議と痛みはない。


 「それ我の刀ぁあぁぁあああ!!」


 おのれ信長ぁ!!その刀は我が武田信虎しんげんのちちから信玄の妹と結婚した際に引き出物として送られた名刀。左文字なるぞ!!!


 「ぐははは!!貴様の刀、貰っておくぞ!!」


 そう高笑いしている信長が遠ざかる。否、我が斬られて深い闇に落ちているのだ。


 おのれ信長!おのれ許さんぞ!!いくら奇跡の勝利とはいえ調子に乗ってその刀に名前でも書いたら化けて出て来てやるぞ!!!


 おのれおのれぇぇと本気で悔しがる。冗談抜きで悔しい。怒りである。


 そしてそのまま深い闇に落ち続け……


 『異世界の名のある魂よ……我が声に答えよ……我は異界の召喚士、………である。我が声に答えよ。異世界の魂よ……』


 正体不明の怒りに駆られる中、声が聞こえる。


 そしてその声に引き寄せられるように『そこ』へ向かい……


 ……向かい……? 私はここに居るのに……?



 「胸」


 胸である。


 「オドレイ様、そんな、胸が好きなんですか?」


 私は、何故かオレイユがそこに居たからとりあえず胸を揉んでおる。


 「いいですよぉ……////もっと揉んでも……////」


 オレイユが艶やかな顔でそう言う。馬鹿な……これは恐らく夢であろう。


 「貴様、オレイユではないな!!貴様誰だ!!」


 「ふふっ、バレたか……左様!俺だ!信長だ!!」


 なんと!!オレイユは信長に化けていたのであった!


 「信長ぁぁ!!貴様……!!」


 先ほどの怒りがこみあげてくる。背中にある刀を抜いて対峙する


 「くくくっ、貴様にある事を教えてやろう……」


 そう信長は不敵に笑う。「信長」としか書かれていない仮面を被っているが、不敵に笑っておる。


 「なに……?」


 「オレイユのあの胸の感触は、馬に乗って全力疾走してる時に手を宙にかざすと再現できますぞ」


  衝撃の事実である。まさに夢から覚める程の衝撃であった。


 「な、なああああああああああああ!!?」


 その衝撃に思わず叫んでしまう私。そして……。


———————————————————————————


 「どうしましたか!?」


 オレイユが部屋に飛び込んでくる。


 ここは私の寝室。どうやら夢を見ていたらしい。


 「いや、なんでもないのじゃ……多分夢なのじゃ……」


 そう汗ばみながらオレイユに弁解する。


 「そうでしたか……悪い夢でしたか?」


 オレイユがそう姿勢を正して尋ねる。


 「うむ……一体どんな夢を見ていたか説明ができぬが……悪い夢であったな……うん」


 とりあえず、最後一瞬だけヨハンのあの顔が見えたが、なんだったのであろうか……?


 そして私はちらりとオレイユとその胸を見てから、時計を見てみる。まだ起きるのには早い時間なので寝る事とする。


 そのことをオレイユに伝え、そして再び私は眠りにつくのであった……。



つづく。


大体似たような夢を割とよく見ます(


次回は4月22日です。

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