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21話 逢引きとは良い御身分じゃな、主様?

 「しかし良かったのか? お嬢が言った事とはいえ、離れちまっても」

 マウテリッツはそう言って脇にいるオドレイのメイドであるオレイユを見る。


 「はい。護衛はあの喫茶店内ならロジータ一人でも大丈夫でしょうし、マウテリッツ様のお連れの方もおります」


 それに。とオレイユは続ける。


 「繰り返すようですが、貴方様は我が主オドレイ様の夫となるお方。既にオドレイ様の好みも把握されてますし、今回は十分参考になりました」

 静かに頭を下げるオレイユ。


 「参考ねえ……」

 ちらりとその様を見て思想にふけるマウテリッツ。


———————————————————————————


 事の発端は、いつものように『カフェ 太陽休憩所』へ、卓上遊戯の将棋をしに行った矢先の事である。


 なんとオドレイの将棋の強さを聞きつけてどこぞの貴族が待っており、勝負を仕掛けてきたのであった。

 

 思わぬ出来事に笑顔で受けて立つと啖呵をきったオドレイであるが、将棋なる卓上遊戯はチェス同様、中々勝負が続く。


 「こりゃ長くなりそうだからお嬢の好きそうな食いものでも買ってきてやるか」


 と、いつも寄っては購入しているパン屋にでも行こうとしたマウテリッツではあったのだが


 「同行しても構いませんか?」


 と、同行を希望したのがメイドのオレイユであった。


 オドレイ自身が許可を出しているのもあり、すんなりと同行を許可したのだが……


 「まだ先の話とはいえ、貴方様は我が主オドレイ様の夫となるお方。貴方様にお伝えせねばならない事があります」


 それにしたってと難色を示すマウテリッツに、オレイユはそう静かにマウテリッツだけに聞こえるように囁き、ついにマウテリッツはそれに乗る形で信頼のおける口の堅い部下を数人連れて別行動をとる事となった。


 そして、太陽休憩所を出て行きつけの店へ行くと見せかけて、近場にあった安宿へと向かい、個室でマウテリッツとオレイユの二人となった。


 別にやましい意味はない。だが、人に聞かれるとまずい話ではあった。


 「お察しの通り、私はあのセシャソン家の人間です」


 スカートをわずかに持ち上げ、改めて挨拶をするオレイユ。


 「そう言うって事は、あの噂はマジだったらしいな」


 マウテリッツは苦笑いをする。


 マウテリッツは『戦争好き』『乱暴者』『素行不良』のレッテルを持っている。

 

 故に、皇国内外での裏社会にもいくらか精通している。時には傭兵稼業で得た金品や生物なまものを売り払う為に利用する場合も少なくなかった。


 裏社会における噂話、このマウテリッツが言う噂話にはこんな話がある。


 『医者として有名なセシャソン家の裏稼業は皇室の護衛稼業であり、暗殺稼業の者でもある』と。



 セシャソン家、それは帝都の一角にある医者の家系である事は帝都では割と有名な話である。


 また、驚くべき事にその家の人間が現皇帝の側室、第2皇女として召し抱えられ、その名を知らぬ者は居ないというまでの名家であった(最も第2皇女になった際には別の苗字が与えられ、権力の分割が行われた訳ではなかった)


 その一方でセシャソン家は代々皇室を護る影の剣であり、しばしば裏社会において暗躍をしている。それは噂話ではあるが、この噂話には続きがあり、こう締めくくられている。


 『故に標的として狙われたら人生をあきらめろ』と。


 故に、最初セシャソン家の人間と聞いた際には心底驚いたのである。



 「ご安心を。既に私についてはオドレイ様に打ち明けて、このように『隷属の首輪』をしております」


 身構えているマウテリッツを安心させるように首にしてある黒チョーカーを見せつけるオレイユ。


 「それ、隷属の首輪だったのかよっ」


 そう驚いて見せるマウテリッツ。


 ()()()()()()()()()()()はもっと首輪!!という物であったが彼女がしているのは本当にチョーカーで、言われなければ分からない代物であるが、ワンポイントで着いてる宝石が確かに魔法石であり、チョーカーには黒文字で呪文が刻まれている。(余談であるが、魔法が込められている魔道具はこのように動力としての魔法石がどこかしらに存在している)


 「ちなみに、これ特別仕様で最大二人でして、現在オドレイ様のみが登録されております」


 その意味分かりますよね。とほほ笑むオレイユ。


 「全面的に俺を信頼しているんだなぁオイ」


 「このまま順調にオドレイ様が成人なされればご結婚となられますし、この方が貴方様の為でもありますし」


 「やれやれ。何回か『これ』をやって来たり見て来てはいたが、まさかこんな笑顔で刻めと迫られるのは初めてだぞオイ」


 そう呆れた声をだし、懐にあるナイフで指に傷をつけて血を流す。


 隷属の魔道具シリーズはこのように飼い主側が血を出して魔法石に押し当てて登録をするのが基本である。なお解除方法は飼い主が首輪を外すことで解除され、それまでは余程の事がない限り外れない。


 無理に外すものなら魔法の力で物理的に首が破裂したり首が閉まったり、心臓発作が来て止まったり等、様々なバリエーションがあるが確実な死が待っている(最近は無残に死ぬのは悪趣味として心臓発作タイプが主流である)


 「こんな契約。初めてやったぞオイ」

 「これが私の仕事ですので」


 チョーカーのワンポイントの魔法石に血の出た指を押し付け、その瞬間僅かにチョーカーに刻まれた呪文が光り、そして消えた。


 「これで契約は完了。っと」


 「改めてまして旦那様。よろしくお願いいたします」


 「よろしくったって。ねぇ……」


 「オドレイ様より許可自体は頂いてますが、これからどうします? あくまであるじはオドレイ様なので跡に残るような事や仕事に影響がでる事はあまり好みではないのですが……」


 スラスラと答えるオレイユに焦りを露わにするマウテリッツ。


 「流石に今はまだしねぇよ。とりあえず、やる事やったし、一旦買い物に戻るぜ」


 ふうと調子が狂う様子を見せて、マウテリッツはそう言う。


 「畏まりました。旦那様」


 頭を下げるオレイユ。


———————————————————————————


 「(まさかこいつが真面目にあのセシャソン家の人間だったとはな。道理で隙がねぇ訳だ)」


 そんな訳で買い物を済ませ、太陽休憩所へと向かう。


 「馬鹿な……お姉様が……負けた……ですと……?」


 つづく。

信じられないかもしれませんが次回は4月8日に投下予定です

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