20話 やっぱり寺仕込みの料理は受けなかったのじゃ!!
「なあ。オドレイ嬢」
「なんじゃ主様」
「料理は非常にありがたいのでございますが、こうも精進料理のような物が多いのはいささか……何というか……」
昼食の席。今日はマウテリッツ伯の館で私が腕によりをかけて作った食事の席である。
不思議な事にこの世では『平時の昼』にも『しっかりとした食事』をとる。
確かに前世では戦の際は腹が減ってはままならぬので塩気の多くかつ迅速に食べられる陣中食を摂る事が多い。平時の際もその関係で摂る事もあるが、粥や握り飯や味噌等で済ませる場合がほとんどである。むしろ平時の際は食べない方が多い。平時だし。
『あの時』も味噌玉や握り飯食ってたなぁ……傍にあった梅の木に成った梅も、まだ青梅だったけどいい梅ぽかったしなぁ……。
おっと、昔を懐かしんどる場合ではない。今はマウテリッツ伯の苦言を聞く時である。
伯はこういう苦言をいう時は大抵敬語を使う。しかし伯は敬語があまり得意でないから中々不自然な敬語である。
「主様と私の間なのじゃ。この際敬語うんぬんは抜きで行こうではないか」
まあ言いたい事は大体察しておるが。
「野菜はあまり好きではないから肉多めで頼む」
直で来たか。うん、やはりそんな気はしていた。
「鶏肉があるではないか」
「鶏肉は領地でも食えるが、豚や牛、特に『食える牛』は帝都でしか食えないんだぞ」
伯の反論である。
「そうであろうな。畑を耕す牛を太らせる等考えもせぬからな……」
「そうでなくとも、臭いや脂を消す為の香辛料や、それを調理する施設や道具、料理人等の条件もあるからのう……」
私はそう続けて言ってうぐぐと困り顔をする。
やはり、前世の料理等、ここでは精進料理でしかないようである……。
「相分かった。今までの非礼。許してくだされ」
「頭下げなくていいぞ……まぁ野菜料理だが、こういう美味い野菜料理は割と初めてだから、今後も肉を出してくれればまたやってほしいぞ」
ううむ、逆に気を使わせてしまった感はあるが、とりあえず好評は好評であったようだ。
そんな訳で楽しいお食事会も終わり、午後から妹達も合流して何をするか話し合う。
「この前の喫茶店の将棋。面白かったですわ!」
妹ビビアーヌは何故か語尾に「ですわ」を付けるのが流行っている。私の真似らしい。
「まさかオドレイが将棋が上手だったとはなぁ。また行くか?」
正直私は将棋より囲碁の方が得意なのであるが、やはり元が中華の文化であるのはここと一緒で、斉の国の文化であった。その為、この国の棋士の技術は高くない。
民間にも普及されているが、今の所上流・中級階級の遊戯でしかなく、その上流・中級階級の棋士も駒を効率よく動かせば達人と言える段階であった。
正直、この国の棋士の練度は児戯にも等しい。斉の国から伝わった文化であり、他にも似たような『チェス』なる卓上遊戯もある為、仕方のない事であるが……。
「私としては別のがやりたいのじゃが……」
「別の物? そうなると、やはり『ロセロ』でしょうか」
クラリエルがそう提案する。
「ロセロ!いいですわね!」
ビビアーヌも賛同する。
さて、この『ロセロ』なる物だが、卓上遊戯である。有り体に言えば『囲碁のような物』である。
本当に『囲碁のような物』であり、囲碁ではない。
なんでも、さる有名な詩人が作った戯曲で歌われるメランエルフの黒き将軍『ロセロ』と、白き肌を持つ妻姫を中心に敵味方がめまぐるしく寝返る。という割と壮大な設定があるらしい卓上遊戯である。
だからこそ、このロセロなる卓上遊戯は白と黒の丸い石を使用する卓上遊戯であり、『囲碁のような物』なのだ。だがやり方としては四角の目の入った盤に石を置き、白黒白と挟んだら白白白になるシステムである。囲碁とは似て非なる物である。
当初は囲碁の出来損ないと馬鹿にしていたが、やってみるとかなり奥が深い。割と好きである。しかし囲碁ではない。
「うーん……やはり将棋かの……」
考え上げた挙句の将棋である。
この国の将棋はまだまだ未熟であるがそれでも将棋は将棋。不思議な事か幸いな事にこの世界の将棋と前世での将棋との違いは、駒の名称やルールの細かな違いはあれど、根本的に同じなので、『京で今流行りのナウでヤングなルールでおじゃる』的な事を言っていた京流れの公家から教わったと思えばなんら問題ない。
「結局それか。まあいいさ。馬を用意させるぞ」
伯がそう言って召使いにあれこれ準備をさせる。
オレイユ、ロジータもそうと決まったのであれこれと準備をする。
私とビビアーヌとクラリエル。それとビビアーヌのクラリエル的存在の娘とそれまで将棋の駒について熱く語るなどして時間を潰した。
かくして再び『カフェ 太陽休憩所』へと赴くのだが、そこで私は強敵と相まみえるとは夢にも思ってなかったのであった……!
つづく。
次回は4月1日です。嘘ではないですヨ。