19話 帝都のとある夕方の日常
皇立魔法大学。そこはエルディバ皇国最大の学術機関。一般的な呼び方は皇立大学でも通じる。
一大城塞都市である帝都ディバタールから僅かに離れた場所にその大学は存在している。大学だけではない。様々な研究所や学園が併設されている学園都市ならぬ学園要塞と化している。
帝都の学園に通う。と言うのはつまりここに通う。という意味である。学生は余程の事がない限りここの寮で寝泊まりをしている。
そんな大学の一角にある一室にて話が始まる。
「やあ、クリスティアナ。元気?」
そう言って一室に入るのはドワエルフの女性。女性とは思えない程の背であるが、その風貌からドワエルフ特有の粗暴さは感じられない。
どうやらクリスティアナの友人であるらしかった。
「あらフィリーヌ、来たわね。家、市街地でしょ? 結構遠いのにわざわざ呼び出してごめんなさいね」
クリスティナがそう言って友人の来客に答える。
「いいよそんなの。私と貴女の仲じゃないの」
そう言ってけらけらと笑うフィリーヌ。
そんな訳で友人の来客の為にお茶を用意したクリスティナ。
「で、今日はどういった用件? 前みたいな弁護相談?」
「それならそうとしっかり言っておくわよ」
クリスティナはそう言って茶をすする。
「今日呼び出したのはこれよ。ここに送られてきた論文の写し」
そう言って片手で論文の写しの紙をフィリーヌに渡す。
「ウナギに関する論文? 私数学の数論分野だよ?」
ふむふむ。と読みだして30秒で驚いて見せるフィリーヌ。
「私だって天文学専攻よ」
そう言って茶を飲むクリスティナ。
「ふんふん。内容はウナギの脂? についてだね。内容的には分野外だけど」
で、結局これ何? 生徒の卒論? と顔を上げる。
「名前見てごらんなさい」
クリスティナの言葉に再び論文に目を通すフィリーヌ。
「ん。名前……オドレイ・ドラーコヴァ=エルディバ……えーと……ドラコーヴァでエルディバって事は……第二皇女様……?」
声が震える。しかし残念ながら彼女は皇室に詳しくはないため、いささか誤りがあった。
「その第二皇女様の長女。今年で11歳よ」
クリスティナはそう言って11歳にしては良く書けてる方じゃない? と言いたげな顔をしてみせる。
「ええ!? これが11歳が書いた論文なの!?最高じゃんか!!」
その事実に驚愕するフィリーヌ。
11歳でこれ程の論文を書けるのなら将来は学者としても有望である。
そうでなくとも、皇室の者が研究や学問に興味があるという事実だけで中々の朗報である。
そう言って二人は皇室の者であるオドレイ嬢を褒めたたえたのであった。
「でも内容はいたって普通だね」
「そうね」
しかし例え相手が何者であろうと学者としての筋を通す二人であった。
その後、二人は「飲みにでも行きますか」と言って外出を行う。
既に日は傾きつつあり、お互い既婚者ではあるが、それでも昔ながらの友であるが故に「今日ぐらいいいか」というのが二人には芽生えつつあった。
「ここよ。私の行きつけのカフェ。夜は酒場だし、二階は寝れるし」
「『カフェ 太陽休憩所』ねぇ……中々いいんじゃない?」
二人はそんな事を言って中に入る。
「まぁ当たり前だけど街って喧噪に塗れてるわよね」
「ははっ、部屋に籠り切りだからねクリスティナは」
他愛もない話をする二人。注文を終えた後は近況の話もしだす。
クリスティナは最近ヨハン・ベットリヒとかいう変態に自分が考案した振り子による時間の測定を辞めるようにイチャモンつけられただのを言ったし、フィリーヌは本業の弁護士業で言える範囲の事を言いあった。
そうこうしている内に注文をしていた食事が出てくる。食後はチョコレート(無論液体)が2つ出てくる手はずになっていた。
「ん、なんだかさっきから向こうで人だかりができてるみたいだけど」
「そうだね。大方チェスか将棋の勝負でもしてるんじゃない?」
クリスティナが気づき、フィリーヌはそっけなく答える。
「ショウギ? 確か長安大陸のチェスだったかしら」
聞きなれない単語ではあるがつたない記憶を元に推測する。
「まぁその理解でいいんじゃない? 最近は流行ってるって聞いてるし、そっちでも流行ってない?」
「あんまり興味ないのよね」
二人はそう言って再び目の前の料理に集中をする。
もしここでもっとよく見ようと身を乗り出したら、肩に斉国の肩掛けをし眉が丸っこい11歳の少女が、この辺一体の将棋の猛者である男を一方的に蹂躙している姿を目撃していたかも知れないが、如何せん二人とも興味がなかったが故に、喧噪という背景でしかなかった。
その後、二人はお互いの家に「今日は遅くなる」という使いの者を出し合ったのであった。
つづく
カフェは交差点みたいなものだって本に書いてありました。
次回は3月25日です




