18話 専属メイドの襲来なのじゃあああ!!
膝に掛かる程度の白きスカート。かかとまであるタイプもある。
黒目な茶色のコルセット。刺繍は黄色い紐。
肘まである長き白手袋。手首にはリボンがある。
足全体を包むは絹でできた長靴下。太ももまで届いている。
靴と肩掛けは斉の国から送られてきたという中華風の品。これがなかなかお気に入りである。
親譲りな薄桃色の髪を『ツインテイル』という髪型にして花をかたどった髪飾りを刺す。
耳には髪飾りと同じ造形の花の耳飾りをする。なんでも『ジャスミン』なる花らしい。
婚約者のマウテリッツ伯より<プレゼント>してもらった蠣崎国からの品である刀を背中に回す。
この刀は『ミスリル』なる魔力の金属を使っており、これが金属で刀なのかと心配になる程軽い。
あとは眉。気品あるように結ってあり、丸く整えてる。中々のお気に入りの『フアッション』である。
あと、特記すべき点としては『パンツ』なる変わった履物……履物? いや下着を装着している。これはいわゆるふんどしのような物だが似て非なる物である。何故こんなものをしなければならないのかが分からないが、女子は皆するらしい。
あとは胸が大きい女子は『ブラジャア』なるものをするらしいが、幸いな事に私は胸がない。良かった。あんなの弓を扱うにあたり邪魔でしかないので非常に都合がいい。
これが私の『私服』というものになる。パンツなるものには当初は戸惑ったが、何事も慣れである。
しかし『フアッション』には疎いので、名称などが誤ってる場合があるかも知れないが気にしない。
正室である第一皇女の一族と違い、側室である第三皇女の一族の我らは比較的自由な行動が許されている。
無論であるがクラリエルもお目付け役の一員であるからして同伴するし、護衛も数名同伴しなければならない。だが、婚約者であるマウテリッツ伯がいるならばそれが護衛として機能する。無論伯自体の護衛もいるが。
伯とていつも居るわけではないし、いつもお邪魔する訳にもいかないのでたまに、ではあるが。
さて、そんな訳で今日は何をしよう。と思案していると、母上に呼ばれた。
あの一件以降。あんまり好ましくなくなった母上の呼び出しに私は一概の不安を感じつつ母上の部屋へと向かう。
もちろん場所はあの一件と同じ簡易執務室である。
中に入ると既にビビアーヌがいた。どうやら今回は呼ばれたらしい。
「来たわね。オドレイ」
前回と同じように母上は執務用テーブルの先に座っておられる。
「貴方達も成長してきましたし、そろそろ専属のメイドが必要な年ごろになりました」
しゃんとした様子で語る母上。
どうやら新しい下女……もとい世話人が来るらしい。
今まで世話をしてくれたのは元々はここの下女で、私達専属ではないらしい。
女の身であるからして、中々支度や身の回りが大変になるという事での配慮かららしい。
「二人とも、入りなさい」
そう言って真横に隣接する部屋より来たのは、二名の下女であった。
服装はここの下女たちと同じ下女服である。黒と白のメイド服である。
だが、先頭のメイドの肌が黒い。
コウフィ3に対して牛乳1の割合のように黒い。
それに対して、短髪の白い事!!もはや白髪といっていい程に白い。否、老人の白髪よりも若々しく、雪と例えた方が本人の為にいいだろう。
どうやらメランエルフという種族らしい。初めて見た。
否、初めてではない。外出が増えた現在、正門を行き来する際に何人か遠目で見た覚えがある。
このような近くで見たのは初めて。ではある。
「お初にお目にかかります。オレイユ・セシャソンと申します。オドレイ様の専属メイドとしてお仕え致します」
「同じくヴィヴィアーヌ様の専属メイドとしてお仕えするロジータ・バルビでございます」
二人とも同時にスカートをわずかにあげて一礼する。
「二人はメイドだけでなく護衛術も嗜んでいるわ」
ね?と言いたげな顔をする母上。
「はい、僭越ながら我が主の為に身を挺して守る所存でございます」
母上の言葉にオレイユは答える。
「それは心強いわね。でも少し堅苦しいわね。楽にして頂戴」
「いえ、それは……」
母上は笑顔で言うも、オレイユは難色を示す。
「まぁいいわ。それじゃあ子供達の面倒お願いね」
母上はそう告げて、かくして私達と専属メイドの付き合いは始まったのであった。
ちなみにロジータの方は普通の人間らしく、そばかすが顔にある程度でこれと言って特徴がない下女であった。
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「えっと。オドレイ様? よろしいでしょうか」
「なんじゃ、オレイユ。さてはおぬし『なんでも申し付けてください』と言っておきながら拒否をするというのか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、そのこれは一体どういう事でしょうか?」
戸惑うオレイユ。
オレイユが戸惑うのも無理はない。
なにせ私達二人とオレイユの三人で『風呂』に入っているのだ。
そう、『風呂』である。しかも『湯舟』である。
残念ながら今は割愛させてほしいが、とりあえずいわゆる『浴場』なる場所で、三人が入る広さは十分にあるとだけ言える。
そんな浴場にて、私たちはなぜ入っているのかと言うと……。
「お姉様、これおっきい……」
「これっビビアーヌ。そう乱暴にするなっ」
「でもお姉さまっ」
「……あの」
オレイユは困り顔である。
「ぬう、すまんのう。妹のビビアーヌがどうしても。と言って聞かなくての……」
「お姉様ずるい!お姉さまだって『あの黒い肌、こすっても落ちないか確かめたい』と言っていたのに!」
「なにビビアーヌっおぬしだって『あんな見事な胸、見た事ない』と抜かしておったではないかっ」
「それはお姉さまの方でしょう!私はただ大きいと……!」
「あ、あの、二人とも喧嘩しないでください」
喧嘩になりかけたその瞬間にオレイユが止めに入る。
「う、うむ……」
「ご、ごめんなさい……」
恐縮する私とビビアーヌ。
しかし、こうして正面から見ると……。
というか、オレイユの現在の状態は局部に石鹸の泡が綿のようにひっついて、肌の黒さと相まって非常に扇情的である。
とくに今日は湯気も多い。春の儀も過ぎたというのに夜は冷えているようである。
とりあえず、洗い流して湯舟に浸かる。
前世の湯について語りたい所ではあるが、それを遮るように存在感を放つオレイユ。
ビビアーヌが言ったように『胸が大きい』のだ。
正直、下手な成人の男の手より、『でかい』。
前世では手よりでかい胸を持つ女性など居なかったので、正直な所、恐怖すら感じている。
しかし、いざ意を決して揉んでみると、堕落するレベルにやばい。やばいのである。
ちょっと自分でも何を言っているか分からないレベルでやばいのである。
「あの……何か?」
「おおう!? すまぬ、お主の胸が……その、見事で……無意識のうちに揉んでおった……」
オレイユの困り顔で我に返る。
私が無意識のうちに揉む程、やばいのである。
「……こんな主でも、お主は仕えるのじゃか?」
湯の熱と褐色の女体の熱で語尾が怪しくなりながらも、神妙な声を出す私。
「はい、それが私の使命でございます」
そう言って凛とした声で答えるオレイユ。
「そうか。今日は済まなかったの。明日からよろしく頼むのじゃ」
そう言って、立ち上がる。
「あ、姉上。まだ89です。100まで数えるのが決まりですよ」
「……空気を読まぬかヴィヴィアーヌ」
「え? あ、久しぶりに正しい発音で呼んでくれた……」
その姿にクスリ、と笑うオレイユ。
「さ、100まで数えましょう。89からですよ」
そう言って見せるオレイユ。
どうやら、呆れたのか何なのか。出会った時よりも幾らか表情の和らいだ様子のオレイユであった。
つづく。
ロジータさんは入らずに護衛に徹しております。
次回は3月18日です。