16話 初皇帝誕生祭なのじゃ!
今回長かったので二話に別けます
初皇帝誕生祭。
それはエルディバ皇室にとって大事な記念日である。
建国記念日の際には国を挙げての盛大な式典と飲めや歌えやのお祝いを行うが、こちらは一転して厳かな儀式が中心で、4日1日に開催される為『春の儀式』とも言われている。
化粧と儀式用のドレスの関係で何時間も着用に費やし、食事も麦を粥のようにしたオートミールなるものぐらいしか食べれず、ビビアーヌは不平不満を露わにするが、この程度、仏門に入ってた際の修行に比べれば何も問題はない。
むしろ儀式用のドレスに使われる『エナン』とかいう円形型三角状(円錐というらしい)の帽子がカッコイイと思った。長細い形で帽子の先端にヴェールというひらひらが付いている。
前世での兜でありそうな形なので、どうしてもカッコイイと思ってしまう。最近は角や飾りを増やすだけでなく、ああいう感じの奇抜な感じの兜も流行って来てたのでピッタリだと思う。先端部分のひらひらのヴェールはいらないが。
鎧は地味でもいいが、兜はいつ首を取られてもいいように派手で良質な兜でなければならないのが今川家の方針であった。
まぁ私の場合は土壇場で兜外して切腹という形に持ち込んだのだが……。
松平の倅のアイツはそれが理解できるだろうか……。やはり父親に似て激情の男であるからして、そういう美学があれば良いのだが。
松平の倅とは松平元康の事である。前は松平元信であった。
元康は三河武士らしく、父に似て武勇に長けて血気盛んな武将であった。だが逆に言えば短気であり、ホトトギスが鳴かぬとなれば殺してしまうような人物であった。
せめて我慢さえ覚えれば長生きはできそうなものなのだが……。いや、我慢以外にも慎重さや経験等『大名』として必要である。
でなければ、恐らくは私亡き今川家を併呑した武田の軍勢に押しつぶされてしまうであろう。大方、攻城戦を嫌った信玄公にまんまとおびき出されて野戦を仕掛けられて討たれるのがオチであろう。
……さて、何故私が円錐型の帽子から当世具足の兜、そして松平の倅とその人となりと未来予測まで言ったのかと言うと、暇だからである。
正妻の子であるならば儀式の中心にもなるのだが、あいにくと側室の子なのでただ参列のみである。
ただじっとしてるだけなのは中々つらいが、先ほども述べたように仏門経験した私としては耐えられるものである。むしろ異界の祖霊を祀る儀式が見れて良い勉強となる。
この義元、腐っても、いや幼くなっても仏門に身を置いた者。異界の異なる文化や神や仏の教えに興味はある。
京の僧侶たちはしきりに南蛮人を、血肉を貪る天狗と言っていたが、今となってはあれは豚か牛か何かで、血だと思いきや葡萄の酒であった事から、やはり風聞はアテにできなぬと思い知らされた。
尤も、彼らは数年間、死ぬ可能性の方が高いだろうに、海を渡るだけに費やす程の熱心な『彼らの神の教徒』であるからして、その点だけで言えば天狗と言っても差し支えないかも知れないが。
そんな訳で儀式が終わり、部屋へと戻る。
移動中、手のひらサイズの人形が10体程飾られている段がある。
なんでもこれこそがこの初皇帝誕生祭の要であり、その様はまさに桃の節句の時に飾る雛人形の如くである。
だが、前世の雛人形は、男女一対の内裏雛であったが、ここではなんとプラス8体という大盤振る舞いである。前世も太平の世であれば数が増えたのであろうが、残念ながらそこまで平和ではなかったから仕方ない……。
さて、ここに飾れている人形は、初皇帝とその后である。后はなんと9人いる。多い。
マウテリッツ伯とヨハンが言う所には、この男にしか見えない子は女で、その隣の女の子にしか見えない子が男だとする眉唾な話を聞いた。教会や皇国としては同性愛は聊かよろしくないという理由でそれを否定しているが、そんな噂は絶えない。
しかしその否定する教会や皇国としても、この男にしか見えない子が女の子なのは否定してない。驚きである。
女にしか見えない男。本来であれば驚愕に値する事実なのだが、残念ながら前世で体験していたので驚きはしない。
……忘れもせぬ。あれは何回目だったかの京から駿河へと赴く際の尾張国にて、女よりも女らしい男が『売り』をしておって……。
……まぁ悪くはなかった。
その後、師匠に男と女の見分け方を教わった。……師匠? なぜ仏門に入ってる貴方がそれを知っているので……? とは思ってはいけない。
そんな風に昔を思い出していた時に、ふいに下女に呼び止められる。
なんでも母上がお呼び出そうな。
そんな訳で母上の部屋の一つである執務室へ赴く。クラリエルやビビアーヌとは別れてる、一人で来いというのがお達しである。
そんな訳で母上の部屋である。執務室と言っても筆記用のテーブルがあるだけの応接間とも言える場所でもあるのだが。
中に入ると中々に重々しい雰囲気であった。
理由は恐らく、見慣れぬ礼服を着込む教会の人間とされる者が原因であろう。その者はまるでこれから起こる出来事の立会人であると言わんばかりの存在感である。
一抹の不安を感じつつ、私は母上と見知らぬ教会の者がいる部屋へ入ってしまったのであった……。
つづく。
今回長かったので二話に別けます。
次回は3月11日です。