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15話 11歳になったのじゃ!

 帝都ティバタール 北西 カピタ丘陵


 カピタ丘陵地帯といえば、帝都ティバタールとその北のオルレンス国を結ぶ大街道がある場所で、バロエインの山脈から流れ出す川が入り混じり、丘だとおもいきや川を伴う平野が出て来たりと中々複雑な地形を形成している。


 幸い、帝都近辺であるからしてその通行量は途方もない量であり、街道は蜘蛛の巣の如く張り巡らされていた。


 また、皇国のお膝元であるこの地帯は重点的な警備がしかれており、多少遠回りの山寄りのルートを通った所で魔物や野盗の類に出くわす可能性はあり得ないレベルに低かった。


 いや、それよりも、帝都暮らしで暇を持て余した貴族連中の『狩り』の『獲物』になる方が可能性としては高かった(しかしそれでも『皇国のお膝元』でそのような『狩り』をすれば『なんらかの御咎め』があるので、魔物や野盗の襲撃よりは高いだけではある)。


 そんなカピタ丘陵の、主街道を外れた山寄りの森林に、中規模の騎馬集団が走っていたのであった。


———————————————————————————


 「のじゃあああ」


 私は歓喜をあげる。

 

 マウテリッツ伯の予備の馬であるが、去勢してある為か、やはり扱い易い。


 そう、私は今、馬に乗っている。


 「この馬、去勢してあるが大丈夫か?」とマウテリッツ伯に気を使われたが気にしない。


 可哀そうであるが、去勢された馬が大人しいのは事実である。


 ビビアーヌが年老いた馬とは言え平気で跨っても全く暴れる素振りをみせなかったのが大きい。


 「あねえええうええええ」


 すぐ後ろから妹のビビアーヌが追い付いてくる。


 「のじゃああああ」


 しばし、流れのまま馬を走らせる。


 森に私の声とビビアーヌの声が木霊する。


 そんな訳で一通り走り回った後、後から来たマウテリッツ伯の一行と合流する。


 「ハッハッハ。中々飛ばすじゃねぇか。いつ覚えたんだ?」


 マウテリッツが笑いながら聞いてくる。


 現在休憩中のこの場所は小高い山の上で、街道を一望できる場所であった。


 「伯が居ない時に暇を潰す為に習ったのじゃ!」


 「そしたら楽しくて!」


 「ビビアーヌなんか生意気にも私より上達が早いのじゃ」


 ビビアーヌと共に答える。


 「ハッハッハ!そいつはスゲェな!」


 マウテリッツ伯も爆笑ものである。


 事実、マウテリッツ伯はディバタールに居ない時がある。地方伯なのだから領地と帝都を行き来しているのだ。


 普通に行くと3週間以上。早馬を乗り継いで行っても19日も掛かるのだが、転移魔法を使えば2日で着くのである。マウテリッツ伯は国境沿いの貴族であり、オラニエ公爵の一族であるからして、転移魔法を利用できるのである。


 転移魔法。それは移動魔法陣とも言える。


 要するにそういう施設があり、魔法を使用して別の施設へ移動するのである。魔法石を大量に使用する魔法なので点と点の移動に留まり、利用者も貴族や資金のある商人くらいしか利用できないのであるが、最短19日、通常21日の道のりを2日で行けてしまうのは凄い事である。


 まぁ話は逸れたが、とにかく、私たちはマウテリッツ伯が居ない間も暇しなかったのである。うん。


 「しかしいやはや、馬で駆けるのは楽しいのじゃ」


 「そうだな。ん、そういやオドレイ嬢は今年で何歳だっけか」


 伯がふいにそう言う。


 「今年で11になるのじゃ」


 「私は10です!」


 「あ、わ、私もオドレイ様と同じ11歳……です」


 私とビビアーヌ。そしてクラリエルが年齢を言う。


 「そうか、もう11になるか。そうなると来年は学園か」


 マウテリッツはそう言いながら汗を拭く。


 この国の上流や中流の貴族や商人達の子は12歳から学園もとい学校へ通う。


 そこで三年間、親元を離れて学校寮で暮らすのである。だが大抵はそのまま大学へ進学し、そこでも5年程勉学に励むのである。


 大抵は12歳になるまでに家庭教師で学ぶのであり、学校へ通う理由は集団生活や人脈作りとも言える。


 大学へ行く場合は専門分野に別れるので、得意とする分野ややりたい分野がある大学へと進学する事となる。


 そんな訳で、そんな進路についての話をマウテリッツ伯と色々しながら帰路へ着く。


 なのだが……。


 「ん、オドレイ。そういやお前、コーフィー飲んだ事あるか?」


 ぽくぽくと揺れる馬上にて、ふいに伯が言う。


 「コウフィ? あの黒っぽくて、牛乳を入れる泥水っぽい奴だったかの?」


 「はっはっはっ。泥水か。確かにそう見えるな」


 「そう笑わないで欲しいのじゃ。母上がソレより茶の方が好きだからあんまり飲んだ事がないのじゃ」


 マウテリッツは笑うが、母上の好み上、本当にあんまり飲んだ事がない。いや、私もお茶派であるが。


 「母上の故郷のテルティバは茶の産地ですから仕方ないのだけど……」


 そう言うビビアーヌ。こやつはお茶よりコウフィ派らしい。すぐ零すのに。


 「んー。じゃあ休憩がてらに寄ってみるか」


 「寄る?」


 「ああ、カフェだ」


 マウテリッツはそう言って見せると部下たちに色々と指示を飛ばしだした。


 ………

 ……

 …


 雑多で込む大通りの門を通り過ぎて、通称貴族街と言われる地区へやってきた。


 貴族と言っても色々あるが、ここはいわゆる小貴族や小金持ち、羽振りのいい商人達が居を構える地区で、治安は先ほどの大通りより良い。


 大通りを通った際に裏路地からこちらを見ている子供や見ようともしない大人。うずくまった老人も、ここには居ない。


 最近このように外出する機会が増えたから分かるが、やはりこの世界は人の世なんだな……と思案していたら、どうやら目的地に着いたらしい。


 『カフェ 太陽休憩所』と書かれた看板を掲げるこの店は、小綺麗な酒場と言った印象を持っていた。


 いわく、カフェというのは酒もあるが、基本的に酒以外の飲み物を提供し、軽食や甘味を出す飲食店という話である。


 馬を近くにつなぎ、マウテリッツ伯とその他大勢で入店してみる。

 

 中はコウフィ特有のただならぬ香りに包まれており、客は思い思いに飲み物や食べ物をとっていた。


 店員の案内で通されたテーブル席に座り、マウテリッツ伯があれこれと注文する。


 事前に何か食いたいものを伯が聞いていたので、それを参考に注文をしている。


 「酒場とは違うのじゃな」


 私は感心するように言う。


 「まぁ酒場みてぇなもんだがな」


 そう笑うマウテリッツ。本当に見れば見る程、孕石に似ておる。


 「オドレイ様。新聞ありました」


 何気に新聞を取りに行っていたクラリエルが来る。


 「新聞を読むのか?」


 「まぁの。週に1回発行される新聞じゃがの。それも2日遅れて来るのじゃ」


 そう言って新聞を広げて読む。なんとこれはその週1の新聞ではなく週6の新聞であった。しかも今日発行されたばかりの奴である。なんという僥倖。


 新聞。前世せんごくのよには全く存在すらしなかった概念である。


 前世でも布告の喧伝や看板等はあったが、このように国中や街中の事件や出来事、物価を把握できる術は存在しなかった。余所の情報となると、旅人の口伝で伝わる噂程度しか存在しない。

 

 「でもお姉さまはクラリエルに頼んで別の新聞をお読みになってるじゃないですか」


 「それでも二日掛かっておる」


 ビビアーヌの指摘に反論する。


 「検閲か……まぁ基本、城への持ち込みは検閲されてるからなぁ」


 伯はそう言って「皇族も大変だ」とうそぶく。


 「でも新聞なんて、正直ちょっと面白みに欠けて苦手……」


 「まぁ……物語ではないからの……」


 私はそう言って新聞を折る。


 うん、正直、新聞。前世にないだけで、役に立つかどうかと聞かれると、返答に困る。

 いらないと言えば要らないかもしれない。何故なら書いてある事は宣伝か予告か事実に基づいた憶測であるからである。


 その憶測を叩き台に思案を重ねる事ができれば面白いが、できないと面白くない。


 等と考えてたらコウフィ(と軽食)が来た。


 コーフィ。


 残念ながら私の発音だとコウフィになるが、正しくはコーフィである。余談だがビビアーヌも正式にはヴィヴィアーヌなので注意。


 なんでも南方のフォレフェールから運ばれてくる赤い実とも黒い豆とも言える物をお湯で煎じた液体である。赤い実なのか黒い豆なのか、書物によってバラバラなので正体は分からない。


 眠気を吹き飛ばし、酔いも吹き飛ばす元気が出る飲み物である。だが黒い汁を飲むと腹に悪影響がでるので、牛乳を混ぜる。そうすると美味しい『コーフィオレ』という種類のコーフィになる。


 見た目は白めな泥水である。


 牛乳の量で完璧な泥水すら再現可能であるだろう。


 しかし見た目に騙されてはいけない。このコーフィオレに砂糖を混ぜればとても美味しいコーフィオレになるのだ。うん、美味しい。


 その後、ビビアーヌが真顔で「コーフィに自我があるとして、牛乳を混ぜる際にどこまでがコーフィで、どこからがコーフィオレになるのかな」という禅問答めいた事を言ってきたので真面目に考えたりした。


 カフェ。中々楽しかったのである。


 つづく

新聞って関ケ原の戦い(1600年)の五年後にもう週刊新聞が出て1650年には日刊紙が創刊されたってびっくりです。


次回は3月の4日になります。

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