14話 というか皆おかしい件
今回もエルヴァール目線です
「貴方いつから居たの!!!?」
「おうふっふ! これは失敬ですぞっ。ついさっきからですぞぉ」
相変わらず癪に障る物言いである。なんなのよおうふっふとか!
先ほどまで居なかったのだが、いつの間にか毛むくじゃらのヨハンが湧いていたので殺意よりも驚愕が勝る。
言動といい、行動といい、本当に予想ができない人間である。
「しかし何かしらを叫ばないと魔法が飛び出さないので基本的に魔法名を叫ぶのが一般的ですぞ!」
「そ、そうなのか……中々難儀な事じゃの……」
ヨハンのふざけているようで合っている言葉に、狼狽する妹。
基本的にヨハンの言う通り、魔法を解き放つ際の掛け声は本人の自由である。しかし大抵は魔法名を言うのが普通である。
「オフっ。私にもね、若い頃の話ですがねッ。オフっ。一人の魔法使いを患者として見たんですがねっ!オフっ」
ヨハンが思い出し笑いをこらえながら、つまりオフオフいいながらしゃべっている。普通に気持ち悪い。
「なんとその魔法使い、食べ物の名前を叫んで魔法を放つ魔法使いだったんですぞっ! いわく中々爽快感があると言っておりましたぞぉ!!」
「どこのどいつよ!!?そんな馬鹿な事をしてる馬鹿は!!?」
あまりの馬鹿さ加減にツッコミを入れてしまう。
「んんんっっ。昔の話といえど、患者の秘密を守るのが医者の務めですぞぉ。残念ながら名前は言いませんぞぉお」
いつもの調子で答えて見せるヨハン。いちいち声が癪に障る。
「ああもう!!そんな馬鹿な話聞いてたら私まで馬鹿になりそうだわ!」
そう叫んで練習用の杖を下僕に渡して、オドレイに近づく。必然的にヨハンに近づく事になるが仕方ない。
「これが魔法よ!分かった!?」
私は若干怒鳴りつけるようにオドレイに言う。
「う、うむ、分かったが、何故姉上は怒っているのじゃ……?」
「ああ!もう!見て分からないかしら!? 隣に居る毛むくじゃらに雰囲気を台無しにされて割と機嫌が悪いのよ!!」
「おおう……」
私の声に皆、恐縮してみせる。
「んんっ。申し訳ありませぬっ。ただ、マウテリッツ伯と共にやるべきことがありましてでして……」
ただ、その毛むくじゃらが何やら気になる事を言いだした。
「という事は、例のアレができたのじゃな!?」
事情を知ってるらしいオドレイが目を輝かせて言う。
「ええっそりゃもう! 一時期は開発が危ぶまれましたが、どうにかマウテリッツ伯の支援で完成にこぎ着ける事ができましたぞぉ!」
毛むくじゃらも心なしかうれし気である。
オドレイばかりか、その付き添い2人まで嬉し気である。
なによ……私は蚊帳の外だっていうの……?
「ねえ、なんの話をしているのかしら? 話が見えないんだけど?」
試しに例の物がなんなのか確かめてから部屋に戻るのもいいかもしれない。そう思って言ってみる。
「ん、姉上も興味あるのかの?」
案の定オドレイが食いついてきた。
「興味と言えば興味だけど……例のアレってなんなのよ?」
とりあえず、目下の疑問を解決してみる。
「【鉄砲】じゃ!【鉄砲】が出来たのじゃ!」
オドレイははしゃぎながら言う。
テッポウ? テッポウってひょっとして……?
「テッポウ? テッポウって……長い棒に鉄の筒を付けたアレの事?」
「んんんっっ!!それは些か誤った認識ですぞっエルヴァール様!!」
またしてもヨハンが横から入ってくる。
しかもこの口調は長話モードの予感。
「それは棒砲とも言う代物で、確かに世間一般的に広く知られている物ではございますがっ!正しい認識ではありませんぞぉおお! 第一あれは点火したら暴発の危険性の方が高いというお粗末なもので、とても戦力にはなりませんぞ!」
ヨハンはいつも通り得意げな顔と口調で語る。
「鉄砲もとい、銃とは神話の時代を紐解けば勇者の時代から使われていたとされる伝説の品! 到底我ら人間に扱える代物ではないとされてきました。が! されども人間の業もとい、錬金術はその銃の秘密を解き明かし、棒砲、そして鉄砲をこの世に再び生み出したのでございます!!」
なんかいきなり神話と錬金術の歴史の話をしだすヨハン。熱が入ってる。
だが、これはこれで面白いので続けさせる。
「そして!! こちらにありますのが従来の鉄砲となりますっ!!」
するとどこに持っていたのか、どこからか何かを取り出す。
それは木製の土台とも言える物に長めの鉄の筒がはめ込まれて一体化している物……これこそが彼のいう『鉄砲』というものらしい。
「これが鉄砲?」
「そうですぞぉ! このタイプが発明されてまだ10年も経ってませんし、用途は狩りにしか使ってないのであまり知られてないのですがねっ」
「ああ、なるほど……道理で」
ヨハンが言うと無駄に納得してしまう。
「でも火薬を使うんでしょう? 火薬は製造が困難であまり意味ないでしょう?」
火薬とは錬金学の際に特殊な薬剤を混ぜてわずかにできる希少な粉である。と聞き及んでいる。
そんな希少なものを使うだけのものなのかしら?
「まぁそれはそうなんですがね。しかし、それでもこの不肖・ヨハン・ベットリヒ、及ばすながらその火薬の効率的な製造を模索しようという錬金学をやっておりましてぇ、今回はその研究の末に新型の火薬を造ったので、新型火薬に耐えれる鉄砲を開発しましたぞ!」
はじめて聞いたヨハンの錬金学の研究目標。いつも耳に触るような口調でニヤつきながら問診しているので全く気が付かなかった……。
「それで、こいつがその例の新型火薬の新型鉄砲。という奴だ」
そこまで話すと、オドレイの婚約者がやってくる。
見るからに悪人顔で油断すると野盗の類にしか見えない。
それこそ手に新型の鉄砲という真新しい鉄砲を抱えてなければ分からないくらいだ。
「おお!それが!」
オドレイが目を輝かせている。
例の新型鉄砲は、一見すると従来型となんら変わりがないように見える。
お互い火縄を使用しており、恐らくそれで着火するのだろう。
「見た目は従来型となんら差異はございませんっっしかし強度の方が段違いでございます!」
ヨハンが補足を行う。強度と言われても私にはまったく分からないが、そうなのだろう。
「早速撃ってみるぞ」
「おお!それは是非見たいのじゃ!」
婚約者の声にはしゃぐオドレイ。
なんやかんや、新型の鉄砲の試射に立ち会う事となる。
なお、新型の火薬というのは、本来火薬という物は粉末状であるものの、ヨハンはそれを粒状にして威力と保存性を向上させたらしい。保存できる程火薬がないのに? とは思う。
それで、肝心の試射の結論から言うと、音が煩いし煙いし、音の割に威力が少なかった。
確かに射程はボウガンとほぼ同じ、威力も貫通力のみで魔法と比べれば威力は少ない。
火薬という希少な秘薬を使う割に得られる効果は少ないように感じられる。なにより煙い。
しかし皆一様にその威力や音で盛り上がっている。なにがそんなに楽しいのだろうか?
「この音がいいのじゃ、音で敵兵を驚かすのじゃ」
私と同じように何がそんなに楽しいのかわからないでいるオドレイのお供にそんな風に説明してあげる妹。
「敵兵を驚かすだけなら弓やボウガンの方が矢という目に見える恐怖の方が有利よ」
そう私は言って、その場を離れる。 だがオドレイ達はその言葉を受けて深刻に考えている様子だった。
そしてその沈黙を破るように
「おお!流石は姉上!確かに弩と弓、そして鉄砲の複合戦法はやる価値はあるのじゃ!」
と割と大きめな声で言われたので少し恥ずかしかった。
全く……ドラコーヴァの田舎貴族の子供はやる事は解らないし解りたくもないわ……。
つづく
おかしい…気がついたらエルヴァールが気がついたらヨハン推しになっていた……
これが転生者による運命改変力とでもいうのか……?
次回は2月18日です