94話 今川義元(おっさん)だったけど、異世界に転生したのでレッツ☆エンジョイなのじゃ!
転
1 くるくる回る。ころがる。ころがす。
2 ひっくり返る。ころぶ。
3 方向を変える。変わる。変化する。
4 場所を変える。移る。移す。
生
1 いきる。いきている間。
2 命。いきているもの。
3 うむ。うまれる。
4 物事が現れる。生ずる。
5 草木がはえる。
6 いきいきしている。
7 なま。熟していない。
8 まだ勉強の途中にある人。
9 他人に対する尊称。
10 自分の謙称。
goo辞書より引用。
「気が付きましたね!オドレイ様!」
夢の中で意識が遠のくと、そこはどうやらどこぞの屋敷のベッドの上であった。
そこでオレイユが声を掛ける。
「どうやら……無事に戻ってこれたようだな」
やれやれと言わんばかりに聞きなれた男の声が聞こえる。
「マウテリッツ!」
私は嬉々として婚約者の名を口にする。
マウテリッツは私のベッドの隣のベッドで横になっていた。
「オドレイ様!」
逆方向のベッドにはオデッタ、オデッタが横になっている。
「皆さま、御無事で何よりでございます。が」
オレイユがそう畏まった様子で言うが、何かありそうな物言いをする。
「オドレイ様が気が付かれたと!」
そう言ってドアが開くと、続々と白衣を着た医者達がぞろぞろと入ってくる。
「オドレイ様達には大変申し訳ないのですが、異常がないかの診断を受けて頂きます。なにせ丸一日眠っておられましたから」
意地の悪いようにオレイユが言う。
「やれやれ、どうやら本当に戻って来れたようだな」
マウテリッツは「ひょっとしてまだ夢の中かも……」と不安がっていた様であるが、このような熱烈な対応をされては認めざるを得なかった。
「マウテリッツ殿、オドレイ様がご無事で何よりでございます」
そうこうしていると、シリウスが入室してきた。
「ええと、そなたはどなたじゃったか……」
夢により昏睡状態であったがために些か記憶が混濁しているオドレイ。
「これはこれはご無事で何よりでございます。オドレイ様。改めまして私はシリウス・モーリース・デ・ペリゴーレ=ラーレタンと申します。教会の者でございます」
そう挨拶を行うラーレタン。
「おお、思い出したぞ。この度の働き、見事であった」
「いえ、此度のオドレイ様へのアーティファクトの被害はこちらの手落ち。誠に申し訳なく存じ上げる次第であります」
「うむ。此度の始末。どう付けるべきかの」
そう思案するオドレイ。
「それでしたら私に案が……」
そういって手をあげたのはオドレイの友であり、現在神勇教総司教長代理オデッタ・トルトーネ・デ・パッサレッリ=キアラモンテであった。
「せっかくの一大不祥事ですので、私が正式に総司教長に就任する前に粗方膿を出すのがよろしいかと」
さらっと爆弾発言をするオデッタ。
「ええ、それがよろしいかと。幸いにして、首謀者の方は我々に協力的です。とことん利用してしまいましょう」
シリウスも便乗するように笑顔で言う。
「首謀者……というとガウデン・ファビアーニ=ゴルディジャーニだったかの?」
「ええ、ガウンデン氏はすっかり負けを認め、こちらの言う通りに従うとの事です。ちなみにオドレイ様にアーティファクトを使った不届き者は彼の仲間の方……まぁそちらは極刑は避けられませんが、ガウンデン氏の方は避けられるでしょう」
オドレイの問いに答えるシリウス。
「オドレイ様!ご無事でしたか!」
「ご無事で何よりです!オドレイ様!」
「おお!ミシェルにライノーラか!」
そこへ二人の友人が顔を見せる。
「これはライノーラ・モンテクッコロ=テリエ殿にミシェル・テリエ=モンテクッコロ殿!お二人への挨拶がおくれまして申し訳ありませんでした。何ぶん今回は色々と急でしたからな」
二人を見て改めて挨拶をするシリウス。
「うむ、今回はミシェルの御手柄だったのじゃ」
「ええ、そうですね。ミシェル殿がここシスティーナまでの宿屋や宿場町に馬や食料を用意させて乗り換えて強行軍を行うというアイディアがなければできなかった事ですね」
オデッタ、オドレイがミシェルを褒める。
「いえ、私も姉上が正確な金額の計算がなければ提案できなかったアイディアでした」
謙虚になるミシェル。
「おお、姉上のライノーラ殿の力添えも。ライノーラ様も大学でも抜群の学績をあげているとか……姉妹で力を合わせたからなのですな」
「う、うむ。そういう事にしておくのじゃ」
オドレイはシリウスの賛辞に濁すように言う。
ライノーラは頭脳明晰だとされているが、昔はそこらのゴロツキの罠にまんまと嵌っていたり、抜けている印象が強い。
「ところで、マルジョリーは?」
マウテリッツがそうシリウスに尋ねる。
「マルジョリー枢軸卿ですか。彼女はですね……」
シリウスがそういい淀んでいると、マルジョリーが出てくる。
マルジョリー・マカーリオ=デュヴィヴィエ。神勇教枢軸卿ではあるが、いわゆるマウテリッツの『昔の女』である。
いまさら語るまでもないが、学生時代、二人は付き合っていたが、マルジョリーの方から振りおったのだ。
まぁそうでないと私とマウテリッツが結ばれる事がないので、それはまぁいい。
しかし、今更ヨリを戻そうとしている様子が見て取れるので、それはやめて欲しい。
「マウテリッツ。無事だったのか」
「ああ、お生憎様にな」
悪態を付くマウテリッツ。
「ところで……私の処遇なんだがな。その……」
「なんだ? それならこっちのオデッタ様やオドレイに言ってくれ。俺は知らん」
もじもじとするマルジョリーにマウテリッツはそう突っぱねるように言う。
「いや、そうじゃなくて……その……シリウスと、再婚する事になった……んだ////」
マルジョリーはそう顔を赤らめて言う。
「は?」
一同、当然の反応をする。
「今回色々ありましてねぇ。まぁそういう事です」
そうニヤつくシリウス。殴りたい顔とはこういう事なのだろうか。
「いや、そんな。まぁ……そうか。うん。いいんじゃないのか」
何か言おうとするも、面倒くさくなったのか、投げやりに返すマウテリッツ。
皆は呆気に取られている。
というか、そもそも皆シリウスとマルジョリーの事をあまり知らない。
だから軒並み「そ、それはおめでとうございます?」みたいな反応をしている。なんだこれは。
「いや、というか、マルジョリーは俺と同い年だぞ? 娘だっていた筈だぞ?」
「それなら問題ありません。ワタクシ、年上好きでして」
にこやかに答えるシリウス。殴りたい顔とはこういう事か。
まぁそんなこんなで、込み入った話がマウテリッツ・シリウス・マルジョリーがしだしているのを横目に、私はクラリエルとオデッタに話しかける。
既に医者の検査は終わっていた、異常はないとの事である。
「のう、あの夢は真だったのじゃろうか?」
「ええ、間違いありません。同じ夢を見ていました」
「でも……。夢みたいな出来事でしたね」
オデッタ・クラリエルはそう思い思いに述べる。
「あの剣士様、恰好よかったです」
「うむ、私もまさかああまで格好良いとは思わなんだ」
クラリエルの氏真の評価に思わず顔を綻ばす。
「存分にレッツ・エンジョイ……彼は最期にそう言いましたね」
「うむ、この世を楽しめという意味であったな」
オデッタの言葉に、私は感慨に老ける。
「この世を楽しめ。か」
そう確認するようにつぶやく。
思えば、私は、どこか楽しめてなかったのかもしれない。
禅の臨済宗において、転生はないとされている。
少なくともそういう学説である。死ねばそこまでである。
というか、もし転生があったら大変である。誰もかれもが真面目に生きずに、自死を選んでしまうではないか。それでは駄目なのだ。
もしよしんば私が前世に戻れる事ができても戻らないであろう。前世での肉体の問題もあるが、理由の一つに『来世の存在の証明』がある。これは厄介である。
重ねて言うが、現世を生きると言うのは中々に辛い物である。だから来世の存在があると、皆そちらに逝ってしまう可能性が高い。
それでは駄目なのだ。大事な事なので2回いう。
と、まぁそんな事もあってか、私は、どこかこう。本当の意味で、この世を生きていなかった可能性がある。
心のどこかで、前世に捕らわれていたような気がする。
レッツ・エンジョイ。
それが、そんな私を救う念仏になり得る言葉なのかも知れぬ。
念仏唱えれば救われる等、浄土宗でもなかろうに……。
「オドレイ様?」
クラリエルがそう尋ねて来た。かわいい。
「ん? いや、少し考え事をな……のう、クラリエル、オデッタ」
「どうしました?」
クラリエルとオデッタがそう尋ね返してきた。
「私、もう少し楽しんでいいのじゃろうか」
「もちろんですよ!!存分に!」
「むしろ何故楽しんではいけないとおもうのですか!」
私の問いに、そう答える二人。
「うむ、そうじゃな。うむ。レッツ・エンジョイじゃの!」
「ええ!レッツ・エンジョイですよ!」
そう口にすると自然と笑みがこぼれる。
「お、なんだ? どうした?」
そう言って婚約者のマウテリッツが尋ねて来た。
うむ、人生は1度きりである。
私の場合は、なにやら母上が何かしたらしいが、まぁそれは良い。
愉しまなければ、損だと思わねばな。
私は今川義元であった。
否。41歳のおっさんであった。
しかし、異界に転生したので、楽しむ事にした。
れっつ☆えんじょい。である!
私達のれっつ☆えんじょいはこれからなのじゃ!!!!!!!
この後めちゃくちゃマウテリッツと皆でシスティーナ観光をしたのじゃ!!!!!
今川転生伝 〜41歳のおっさんだけど異界に転生したので、れっつ☆えんじょい。なのじゃ〜
ひとまず完
これにて今川転生伝は一応の完結です。
本当はこの後領地経営とか戦記とかやりたかったのですが、長すぎたので一旦区切ります。
とりあえず今後はサブクエスト的な感じでこぼれ話を回収したいですね。
永らくご愛読、誠にありがとうございました。