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今川転生伝 〜41歳のおっさんだけど異界に転生したので、れっつ☆えんじょい。なのじゃ〜  作者: テト式
第1章 え!?この状態からでも入れる保険があるんですか!?から始まる異世界転生★
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8話 最大のピンチなのじゃ…!

 あれからしばらく経つ。


 結果的に言うと、マウテリッツ伯との正式な対面は済んだし、その際に出した食事も中々好評であった。


 この国の貴族はおろか武士階級に該当する領主や騎士は料理はあまりしない珍しい事だという。


 まぁ私がいうのも何ではあるが、これだけ華やかな暮らしをしていると、畑仕事等の農作業を忘れがちになるのも仕方ないと思う。


 クラリエルには言ったが、元の世界において領主たる武士は料理をするし畑仕事もすると言ったら驚かれた。


 まぁそうであろう。これでは夏と冬ぐらいしか大きな戦はできないし、夏の場合は早期の終結をしなければ秋の収穫に影響が出てしまう。


 尾張・伊勢の経済圏を取り込めればそのような非効率的な軍制も改善の兆しがあったものだが、残念ながらそうは行かなかったのが現実である。


 話がそれたが、とにかく食事を作ったらマウテリッツ伯に喜ばれた。


 以後は精進して料理の腕をこの世の料理に合わせて向上させていくだけである。


 他にも読書や家庭教師など、様々な勉学をして、将来的に何を目指す事になってもいいようにする。


 本当に、将来何をすべきだろうか……。



 等と思案していたら、クラリエルが夕食を知らせに来た。


 クラリエルはここに奉公という形で住み込みで働いている。という事になっている。


 本人いわく「オドレイ様のお役に立ちます!」と乗り気である。愛い奴である。


 あまりにも愛い奴なので、夜な夜なそういう事をしちゃったりもする。流石に早かった気がする。


 その際に自分が転生を果たした者を伝えている。先ほどの武士は畑仕事をする等も『夜な夜な』の際に言っている。


 そんな事なので、この国ではそのような直属の召使い、もとい友人との食事を共に採る事ができるのである。ビビアーヌの友人は来年正式に来るそうな。


 そんな訳で今日はどんな夕食かと食堂へ向かう。

 道中、いつものようにいい匂いがするが、嗅いだ事がない香りである。つまり今日は未知の食事が出るのである。


 さて、今日はどのような料理か、できれば野菜料理がとてもいい。せめて牛や豚の肉がメインなのは避けてほしい。と連日の料理練習時の料理長にそれとなく伝えているが、さて……

 

 「あらオドレイ、ヴィヴィアーヌ。そしてクラリエル。来ましたね」

 食堂にて、既に席には母上であるエミーリエが居た。


 母上、もといドラコーヴァ家はホビエルフの家系である。なので母上の背は高くはない。私も背は高くない。


 こちら側の単位でおおよそ140セー・メント程。とても三児の母どころか裳着もぎの儀(※女性の成人式。平安~安土桃山時代までの名称)すら行っているとは思えない。率直に言うと子供だろうとしか思えない。


 だが、胸の膨らみや物腰から列記とした皇妃であるとうかがえる。……詳しく言うと元世界の母上に雰囲気が似ている。……雰囲気は。


 「母上、ご機嫌麗しゅうございます」


 「ふふ、そう畏まらなくてもいいのよ、オドレイ」


 微笑む母上。姉上は硬いのだから~とか横で言っているビビアーヌをよそに席へと座る。母上の正面である。


 ふとみると、長テーブルの先端部分(最もかなりの長テーブルで、私達が先端部分に居るのだが)に席の用意がなされている。詳しく言うと小皿とワイン。そしてナプキンと呼ばれる薄い布が用意されている。しかも席の装飾が他より派手である。


 今までにない事である。だが考えられる事は一つ。一人しか座れるスペースしかないこの長テーブルの横の部分に陣取れる唯一の存在。


 そう、父上である。父上が来るのである。


 「今日は父上のヴィルジール様がおいでになられるので、失礼のないようにしなさいね。オドレイ、ヴィヴィアーヌ。クラリエルさん」


 そう悟るのと同時に母上は告げる。やはりそうか。


 そして案の定、クラリエルは驚く。畏怖しているとも言える。無理もない。習わしとはいえ、皇帝のお目通りをする訳なので緊張しない方がおかしい。(いや、5歳児なのにもう立場を理解しているのは凄いとは思うが)


 「は、はいっ。わかりましたっ、エミーリエ様っ。あっりょ了解?かしこまりっ?」


 母上の言葉に予想以上に気を乱すクラリエル。この国の表現で言うと『目がぐるぐるしている』という表現がぴったりであった。


 「うふふ。落ち着いて静かにしているだけでいいのよ」


 微笑む母上。だがそれでもクラリエルの混乱は収まらない。

 

 「兎も角、名前を聞かれたら返事をする程度でよかろう」


 私がそうやって耳元に告げると、やっと静かになった。


 ほどなくして、私達は夕食を開始する。父上は多忙の為に遅れてくるそうである。


 汁物、魚料理と料理が運ばれたときに、やっと父上は姿を現しになられた。


 「……エミーリエか。遅れて済まない」


 従者の者がヴィルジール陛下の御成り!という宣言の後、姿を現した父上。もといヴィルジール・ディバタール・M=エルディバであった。耳がとんがっている。どうやらエルフらしい。


 初対面ではあるが、顔自体は肖像画などで既に把握済みである。


 「……オドレイに、ヴィヴィアーヌ。その横は?」


 「オドレイの従者、名は……」


 「いや、従者ならば良い」


 母上の説明を遮る形で父上は静止の手をあげ、席に着く。


 父上? 何故私の従者クラリエルの名を聞かずにおられるか。


 そう思い、口を開こうとするが、母上に目で止められる。


 「……オドレイ、具合はどうであるか? 変わりはないか?」


 従者達がナプキンやワインと言った支度を終えたのを見計らい、口を開く父上。目はこちらを見ている。


 「? はい。別に特段変わり等なく、息災でありますが……」


 まるで以前に病に掛かったような物言いで内心ひやりとした。


 「そうか。病への対策の為の種痘で熱が出たと聞いていたが」


 「今ではすっかり元気で、最近は本を読むのが大好きなんですよ」


 なんと、私は物心つく前に病への対策の為に、シュトウなるものを受けていたのか……と思う前に母上が早々と答える。


 恐らく、そのシュトウなるもので知恵熱が出て、物心がついたのであろう。多分。


 そうこうしている内に、次の料理が運ばれてきた。



 きたのだが。



 きたんだよね。



 きたのか……!?



 きたの!?



 ……ありのままの事を言う。危機的状態である。


 眼前には黄色とも茶色とも断言できない液体……否、流動体的な何かが米の上に掛かっている得体の知れない……料理なのか。料理だというのか。これが料理であると言い張るか。この国の者はっ!


 ……否。否。匂いは確かに料理である。今までのように、食欲をそそる美味しそうな匂いである。むしろ匂いだけなら今までで一番と言ってもいい程の『良い香り』である。


 しかし、見てくれは常軌を逸している。確かに今まで肉や魚の上にとろみの強いタレや汁が掛かっているのは多々あったがここまで流動性のあるものが米の上に掛かっているのは初めてである。というか米が下賤とか言ってたがこれはいいのか。それでいいのか。


 「お姉さま。これ明らかに、うn」

 ヴィヴィアーヌが言わんとしている事は分かったのでとりあえず額をパーンしてみる。


 「許せヴィヴィアーヌ……!!」

 すべては大義の為である。


 「姉うえ、ひどいわ……!」

 「それはヴィヴィアーヌが悪いわ」

 「お母さままで……!!」


 特に理由のない暴力(されど大義はある)にさらされて涙目になるビビアーヌ。しかし割と理由はあるし、これはおぬしの為でもある。


 「……仲が良いのであるな」

 その光景を見ている父上であった。


 そうこうしている内に父上は銀の匙で、その得体の知れないものを口に運んで食べて見せる。


 「これはファールマサラと呼ばれる料理で、南東のコーサラ王国の料理だそうよ」


 母上が説明をしてくださった。

 いわく、我が国のバルカネア州の南にある米と砂の国たるアルマナ王国の、さらにその南に位置する国がコーサラ王国であり、そこは蒸し暑い森林が広がっており、そこで採れる香辛料を使った料理なのだそうな。


 確かに匂い的には行けそうな気がするので匙ですくってみる。


 やはり流動体であるが、肉は鶏肉を使っている。しかも鶏肉は焼かれている。


 うん、確かに牛も豚も使わないで欲しいとは言ったが、鳥は使うなとは言っていない。


 他の具はないようである、強いて言えば香料である緑の葉が掛かっている程度である。


 思案しても始まらないので食べてみる。


 「……おいしい」

 じわりと舌から辛みが伝わるが、決して吐き出す程の辛みではない。むしろ辛みがすぐに甘味に変わっていき非常に美味しい。


 そしてなにより、米に合う。非常に合う。


 まさにまさしく異界の料理の最たる存在であるが、これ程までに米に合う料理もないのではないかと思いたくなる一品である。


 そこからはもう夢中で食べた。


 おかわりもした。北条で氏康の子がおかわりしただの味噌汁を掛ける量を間違ってこぼしたとか、息子の氏真が嫁の早川殿から聞いたと言ってたが、やはり食べたい物は食べたいのである。こちらの世では完璧に人任せで飯盛られるし。


 うん、ファールマサラ。中々に美味であった。

 

 気が付けば父上も早々に帰られ、ビビアーヌ、クラリエルも食べ終えていた。


 かくして私の初の危機的状況はこうして終わったのであった。


———————————————————————————


 否、終わってはいなかった。


 「さあオドレイ。歯磨きの時間ですよ」

 そういうや否や、半ば拘束状態のまま、私の頭を母上の膝の上に載せられた。


 「母上、自分で、できるのじゃ」


 「ふふふ、そうやって適当にやろうとするのはわかりきってますよ」


 そう言っていつもの微笑みで手には鯨の毛で作られたブラシ……歯ブラシを持っている。


 そして笑みのままブラシを口に近づいていき……


 や、やめろーのじゃああああああああああああああ!!!!!!!!!


 あっ/////ああ……////




 ははうえ。いつも歯磨きありがとうなのじゃ。

 でもなんかやりかたが官能すぎるとおもいますなのじゃ。

 これからも歯磨きがんばりますなのじゃ。


 つづく。


12/25追記しました。ごはんを食べたら歯磨きをしましょう(啓蒙)


次回は来年の1月7日を予定しています。

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ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=82310962&si
― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族のパン食文化でもカレーだけはライスと合わせざるを得なかったのですね。そしてカレー粉もカレールウもなさそうだから、腕は鳴るけど手間は掛かると。現実のイギリスも取り入れるのに苦労したんです…
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