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優等生の憂鬱  作者: 稚明
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第5話

「は? まじでいってんの?」

「うん。僕、好きなのかもしれない」

帰りのHRが終わった後、日下部くんと一緒に帰る約束をしていて帰ろうとした時に僕は自分の気持ちを話した。

「諦めろって言ったに~。彼氏がいるって噂あるっていったよな?」

「うん。それでも僕は彼女の特別になりたいって思っちゃったんだよ」

日下部くんが呆れたようにため息をついて、ようやく状況を飲み込んで僕の肩をポンと叩く。

「お前がそういうなら俺は協力するよ。手助けとかはできないけど話ぐらいは聞く」

「うん。ありがとう」

笹崎さんのことを特別だと思われたいという気持ちが一体なんなのかをあの後ずっと考えていた。

その気持ちに気づいたのは休憩中の女子の会話だった。

「自分のことを他の人より思ってほしいってもう好きってことじゃ~ん!」

「そう、なのかな?」

「そうだよそうだよ! 要は特別な存在になりたいってことでしょ?」

そんな女子の会話がまるで自分に言われているように聞こえて、その後僕は顔が熱くなっていて顔を伏せて寝たふりをして次の授業を待った。

「にしてもエライ美人をすきになっちまったな、遠部」

「僕も驚きだよ」

そう、自分でも驚いている。まさか高嶺の花に恋をするなんて。

「でもさ、勉強会しなくなったらお前ら接点なくね? 他の接点て何?」

そう日下部くんに言われて僕は考えた。確かに、それ以外の接点が無い。

「そうなったら特別どころか元通りじゃね?」

そうなのだ。勉強を教えてもらっていたあの放課後の時間以外は彼女はクラスのみんなに囲まれている。

僕はその中に入りたいわけではないんだ。

「ど、どうしよう日下部くん」

「どうしようって・・・。デートでも誘えば?」

「で、でででででーとって!!」

「いいじゃん。今度の日曜日とかさ、誘ってみたら?」

「そういえば、連絡先とか知らない」

「おいおいまじかよ、聞いとけよ」

あんな啖呵切ったことを言いながら距離を縮めていたように思っていたのに僕はまだ彼女のことを何も知らないことに気づいた。

「じゃあまず、日曜にデートに誘ってそれから連絡先を聞く! それでよくね?」

日下部くんはなんでそんなによく知ってるのだろうか。

「・・・日下部くんは、好きな人いるの?」

「うん。つーか、彼女いるし」

「えええええええええ!!!!」

「っだよいちゃだめかよ」

今日一番の驚きだ。日下部くんに彼女がいたとは・・・。

「違う学校だけどな。今日はあっちバイトあって一緒に帰れないからお前と帰るんだよ」

「そうなんだ。どんな子なの?」

「どんな子~・・・天然? おっちょこちょいだけど芯が強い子だよ」

日下部くんがとても優しい顔で話す。そうとう彼女のことが好きらしい。

「いいね。今度あわせてよ」

「いいぜ。てか、あいつの方も会いたがってたから」

どうやら二人で僕の話題をしているらしい。

学校以外の話をいっぱいしたくなった僕たちは近くのファーストフード店により、小腹を満たすぐらいのものを買い、座って話すことにした。

日下部くんが彼女ののろけ話をしている間僕は二人は本当に幸せなんだろうなと思った。

「日下部くんはさ、幸せについて考えたことある?」

僕は初めて笹崎さんと会話した時の言葉をそのまま日下部くんに聞いた。

「んー、それって考える事?」

思わぬ言葉が返ってきた。

「え?」

「だってさ、幸せってさ、落ちてるもんじゃね?」

落ちてる?

「例えば、そのへんに転がってる空き缶とかゴミとかみたいなもんだと俺は思ってるけどな」

いまいちよくわからなくて僕は首をかしげた。

「むずかしいっか。要は幸せは一つじゃないし遠くにも近くにもあるってこと。んで、その転がってる空缶(しあわせ)を気づいて拾うか気づかずスルーするかは自分次第ってことだ」

「日下部くん、詩人?」

「バッ! んなんじゃねーし。彼女の受け売りなだけ」

「ふーん。でもそっか。見えないからこそ気づけないだけかもしれないね」

「ん?」

「笹崎さんに勉強を見てもらってたときに同じことを聞かれて、僕はすぐに答えられなかったんだよ。笹崎さんは数学みたいに答えがはっきりすればいいのにっていってて」

「これだから優等生は~頭固いな~。はっきりしないからいいのに~」

残り僅かなコーラを飲む。ズズズーと音を立てながら

「んじゃーさ、遠部は幸せだって思う時ってどういうとき?」

笹崎さんに聞かれたときは戸惑った。

それはきっとあるはずのものを見ようとしなかったからだ。でも今は。

「笹崎さんがとてもうれしそうに笑う時とかかな?」

「そうそう! そういうときだよ。なんでもいい。自分が嬉しいなとか楽しいなとか思うときなんじゃねーかな? 人それぞれ感じ方は違うから一概にはいえねーけど」

日下部くんはこんなことをスラスラと言う人だったんだと少し感心した。

僕はこんなことを人に話したことはない。過去のトラウマが有るからなのかもしれないけど。

でも日下部くんは僕を信用して話してくれているんだ。

「ふー食った飲んだー! お、彼女から電話だ」

日下部くんのスマホがなっていた。

「もしもし~今日バイトじゃねかったの?」

「あーまじで? いま遠部っちとだべってる」

遠部っち?

「え、来る? いいよ! いまお前の話しもしてたとこだし」

ふと、日下部くんの顔を見た。

とても楽しそう。僕と話しているときとは違う嬉しそうな顔だ。

ああこれを幸せそうと人は言うのだろう。そう感じた。

「ごめんっ彼女バイトなかったみたいで、今からこっちくるけどいい?」

「全然大丈夫だよ。ていうか遠部っちって何?」

「あーーーそれはーそのー、彼女がお前のことそう呼んでるから」

いつの間にそんな距離縮められてるんだろう。僕にとっては初対面なんだけど。

数分して、また日下部くんのスマホがなる。

「お、ついたって。どこだー?」

ふりかえって探していると入り口でキョロキョロしているショートボブのメガネをかけた子がいた。

(かえで)~こっちこっちー!」

「ごめんーおそくなっちゃったー!」

とてもかわいらしい。日下部くんにはお似合いの彼女だ。

「あ、遠部っちですか?! 私、野村楓(のむらかえで)です!」

「はい、遠部徹です。よろしく」

とてもテンションの高い、可愛らしい声で自己紹介をされた。

「楓カバンこっち」

日下部くんがエスコートしている。意外な一面だ。

「楓、なんかいる? 買ってくるけど」

「んじゃーポテトとジンジャーエールで!」

「了解」

日下部くんは彼女の注文品を買いにカウンターへ向かう。

席には僕と彼女の二人になった。

「へへへ、なんか緊張しますねっ。さっきまでなんの話してたんですか?」

彼女は僕に対して敬語で話す。年下、なのだろうか?

制服を見るあたり、近くの女子校の制服だ。礼儀正しいのだろうか。

「えと、幸せについて語ってました」

「ほおおお!! 実に興味深いですね!!」

食いつきがいい。すごいテンションだ。

「野村さんは幸せについて考えたことありますか?」

僕は同じように彼女にも質問を投げかけた。

「んーー。考えはしません! 転がってますから!」

まさにデジャブ。日下部くんと同じ答えが返ってきた。

「考えるものではなく、感じるものなんですよ!」

「感じるもの・・・」

「自分の心がポカポカと暖かい気持ち、あの気持ちに名前をつけるなら『幸せ』です!」

そう言われて僕はあの日笹崎さんの家で晩御飯を食べたときのことを思い出した。

暖かい気持ちになった自分がたしかにあの時はいたのだ。

「ああ、あれを幸せと呼ぶのか」

「ふふふ、なんのことですか?」

ニコニコと野村さんは笑う。とても楽しそうに。

「私は、達也くんといれることが本当にに幸せです!」

笑顔から幸せがにじみ出ている。ここまで自分の感情をさらけ出せる彼女がすごいと思った。

「なーに、恥ずかしいこといってんだ」

「あ、おかえりなさい! そしてありがとう!」

日下部くんが注文したものを持ってきた。

「すまんな、こいつテンション高くて」

「だって幸せなんだもーん」

そういいながらポテトを食べる姿も幸せそうだった。

日下部くんと野村さんが横に座って話しているのをみて、僕は羨ましくなった。

僕もこうやって楽しく笹崎さんと一緒にいたいなと。

「とりあえずだ、デートに誘うにはどうしたらいいと思う? 楓」

「んー、そうだな~とりあえず、彼女のすきそうな場所をリサーチしてそこに連れて行くのがいいと思うよ!」

「ということはアレか、楓の好きな場所は全部食べ物屋さんでいいな」

「なんでだよー! 水族館とかいきたいよー!」

「あーはいはい。そうか、水族館に誘うのもいいかもだぞ、遠部」

笹崎さんは海が好きそうだった。というか好きだろうな。

「うん、水族館誘ってみる」

「今度はダブルデートしましょ!」

なぜそこで張り切るのだろうか。

「おいおい、二人の邪魔はできねーだろ」

「およよ、そうでした! 満喫してください!」

「ていうかまだ僕付き合ってないし」

「およよ! そうでした!」

なるほど、日下部くんが彼女のこと天然だ言っていたのはこのことだったんだ。


とても楽しい時間はあっという間に過ぎて気づいたら外は薄暗くなっていた。

日下部くんと野村さんの二人と分かれて僕は1人で家に帰る。

二人のやりとりをみて、僕は無償に笹崎さんに会いたくなった。

なんであの時連絡先を交換してなかったんだろう。そしたらたくさんやり取りができたのに。

でも迷惑になるだろうな。

そう思いながら帰っていたらコンビニの前に見覚えのある人がいた。笹崎さんだ。

「さささきさ・・」

呼ぼうとしたら、彼女の横に背の高い男性がいた。とても楽しそうに話している。

誰だろう。僕は少し近くで身を隠して様子を伺った。

「そうなんだ! ほんとトントン拍子にことが進むね」

「ああ。後は両家で食事会してからあとはあれやこれやある」

「結婚式、行くから招待してねっ」

「もちろんだよ。笹崎家全員には出すつもり」

「そっか。私ドレス買わなきゃ~とびきり可愛いのっ」

「おいおい花嫁より目立つようなことするなよ?」

「へへへ、嘘だよ。うん。お幸せにねっお兄ちゃん」


そういって男性は車に乗って帰っていった。

その車を見送る笹崎さんは悲しそうな顔をしていた。今にも泣きそうな顔だ。

声をかけるべきなのか、そっとしとくべきか迷った。でもその迷う時間もなかった。

「あれ? あれれ? とおるくん?」

見つからないようにと思ったのに見つかってしまった。

「あー! も、もももしかしていまのみてたの??」

「ごめんなさい」

「あっちゃー。またみられちゃったかー。」

「最近よく遭遇してしまうよね、僕」

「ほんとにね。今帰り? 遅くない?」

「うん、日下部くんとだべってた」

「そうなんだ」

笹崎さんは少ししょぼんとした顔をした。

「あ、そうだ! 連絡先! 笹崎さんの連絡先を教えてほしい」

「あれ? 教えてなかったけ。いいよ! もちろん!」

そういってスマホをお互いだして連絡先の交換をした。

「ねぇ、とおるくん。とおるくんを・・・」

そういいかけたがやっぱりいいやと言いやめた。

「どうしたの? なんかあった?」

「ううん。なんでもない。もう帰らなきゃ」

「また明日」

「うん。また明日」

なんだかすっきりしない感じでわかれた。

何が言いたかったのだろう。何かあったんだろうけど、聞き出すのはまた今度にしよう。

僕はそれより連絡先を交換できたことに胸を踊らせていた。

彼女がいまどんな状況なのか知りもしないで。


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