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3話(前半)

『――飛龍ヒリュウ 柊応ヒオウです。宜しくお願い致します。』


目の前にはありふれた光景。

企業に就職した後も夢で何度も見るぐらい強烈に焼きついた思春期の頃の記憶と同じような風景。


そんな2度目の高校3年生において初めての体験。

それは転校。


人生において転校したことは一度もない。


前世も2度目の18年間もずっと東京暮らし。

地方の田舎の生活というものを体験してみたいぐらいに都心部での生活を2度もおくっていた自分は当然転校とは無縁であった。


 だが、別段何も感じるものでもなかった。


 マヤからは―

『――先輩。私達がこれから通うことになる学園は獣人しかおりませんので』

『偶発的に先輩が変身してしまって暴れることになっても周囲が取り押さえてくれますよ』


 とのことだったが、座席についている者達はみんな人間にしか見えない。

 獣人けものびとについては情報が全くない。


 彼らは人に擬態しているのか。

 獣化形態に変身できる二面性を持つ種族なのか―それすらまだわからない。


 曰く、日ノ本に極少数しか存在せず、

 特に東京に集中的に存在している関係で地方では完全に存在すら皆無であるということであったが、


 学園自体は比較的大きめで小中高一環教育の数千人規模の大規模な学校法人である。

 都心部の外れ、山と森に囲まれた場所にひっそりとそんな学校施設があることなど知りもしなかった。


 いや、特別支援学校などと同じで表向きそこまで知られないようにしているのであろう。

 日ノ本の人間は結局はそういうものに敏感で差別的な感覚を持つから、隔離された場所にひっそりと集団で生活するほうが適しているのは事実だ。


 例の相模原での殺害事件だって、「どうしてこんな山奥にあんな施設が?」などと週刊誌で報じていたが、大半のそういった施設は山奥にあるものだし。


 授業が終わってクラスメイト達と会話したが普通にただの人間だ。

 ありふれた日常的な話題をこちらに話しかけてきて、こちらも相応に答えるだけ。


 担任教師は『彼は後天性だが―』などと言っていたが、

 彼らは後天性の人狼という、元は人間だった自分も分け隔てなく接してくれる者達だった。


 恐らく先天性の固有種と称する者達と後天性の者達が入り交ざっているのではないだろうか?


 少なくとも後天性の者達だけを集めた集団ではないようだ。


 ある男子生徒が言うには獣人に関しての話題はタブーではないがみんな話したがるものではないし この学校では地球人類の日常生活に対応するための施設であるためあえて避けているとのことだ。


 仲良くならない限りはそういった話題にはならないらしい。


 ところで、自分は転校生として己の名前を名乗る際に「飛龍 柊応」と名乗ったが、これは結局ゴリ押しでマヤに認めさせたものだ。


 戸籍情報についても俺が説明した情報にするよう念を押した。

 当然、前世での情報であり、俺の名前はこれこそが真名である。


 偽名が真名ではあるが、マヤにいくら説明しても理解してもらえないのでとりあえずその情報にしてもらうだけしてもらった。


 おかげさまで「滝嶋タキシマ シュウ」という愛着も沸かない偽名のようなものを捨て去ることが出来たのは喜ばしいこと。


 この名前、親が一生懸命考えた名前でもないというから余計に気に入らなかったのだ。

 占い師が適当に決めたものに流されるまま決めたという。

 第二の両親がいかにそういったことに無頓着であったかがわかる。


 一方で飛龍は前世での母の姓である。

 母の家系は旧家である。


 俺は俺が生まれた頃には完全に没落してしまっていたこの旧家に、妙に愛着があったのだった。

 大学生を過ぎた頃に妙にイジられたけどな。


 空母の名前の由来が俺の家系なのであって、俺の家系が空母を由来としているわけじゃないんだが。

 飛龍家は古くは平安時代から存在する夕所正しき旧家であって古くは将棋の駒にすらある名前なのに。



 ――頭の中でそんなこんなを考えながら適当に授業を動けて午前中を過ごした。

 2度目ともなると授業を適当にすごしてもテストはそこそこの点が取れる。

 歴史と理科系以外では特に真新しい発見はない。


 この2つは新事実の発見によって教科書も大きく内容が変わってくるため面白いのだが、それ以外は殆ど同じことしかやらない。


 その後、誘われるがままかなり社交的で爽やかな見た目と顔のクラスメイト食堂で昼食を採った。

 そこで己の確認不足によって知らなかった衝撃的事実突きつけられることになるのだが。


『―飛龍、お前午後はどうする?』


 食器を片した後に再び座席に戻ってきた外見が爽やかな男が呟いた。


『ん?午後って何が?』


『何がーって、午前中しか授業ないぜ?』


 突然の宣告に血の気が引く。

 仕事で大ミスをやらかした時を思い出す。


『ヱッ?』

『だって午後も教室内の時間割表には何の授業が行われるか書いてあったけど』


 衝撃的すぎる事実に思わず変な声が出てしまう。


『やっぱお前、ちゃんと確認していなかったな』

『妙に鞄が膨らんでんなーと思ったけど、予想通り』

『大事なことなので2度言うけど、この高校は午前が授業、午後は選択した者だけが授業を受ける』


 そういって彼は授業要綱なる紙をこちらに提示した。

 紙のとある部分を指指している。

 そこには午後の授業は選択した者のみ受講可能であるという旨の記載がしてあった。


 ようは、何もしていない俺はこのままでは午後の授業は受講不可能であるということである。


『それか、部活動か個人個人で活動するか』


 次に部活動に関するまとめをした紙をこちらに見せる。

 内容からして運動部などは全て13時30分より活動開始をするようだった。


『学校に学籍だけ入れてる連中も多い』

『ほら、俺ら獣人って不老じゃん?』

『見た目は学生に見えなくもないけど、こんな俺でもお前の7倍ぐらい生きてたりするし』


 ニッとした顔で定命の者ではないことを爽やかに宣言された。

 一応、自分も今は同じ立場ではあるが見た目からして精々20代ぐらいなのかなと思えば―


『7倍ってことは三桁は確実に生きてると?』


 ―という俺の問いかけに。


『いえーす。150年は軽いね。150ぐらいじゃ俺の故郷の次元じゃ若者の範疇だから』


 爽やかな男はサムズアップしながらその親指を己の顔に向け年長者であることをアピールした。


 確かマヤは昨日の夜「生まれて間もない」と言っていた。

 13年が生まれて間もないで、150年が若者。


 エンミハル王女とかは一体何年生きているんだろうか。


 そんな自分の考えを他所に爽やかな男は話を続ける。

 実は彼の名前を未だにちゃんと把握していない。


『でな、日ノ本で活動するにあたっていろんな役割があって』

『学生の身分の方がいいと判断される役職もあるわけ』


『そんなやつらが学生であるという精神を忘れないための施設がここで』

『学業はあまり重視されてない』

『俺の場合は学業をまともに受けてなかったんで受けることを強いられてるがなー』


 そう言葉を発しながら爽やかな男は先ほどまで提示していた紙をクリアファイルに入れてカバンの中にしまい込んだ。


『あまりにも勉学に疎い者と自主的に学びたい者以外は登校すらしない』

『基本的には生まれて間もない奴らと俺らみたいな連中だけが授業受けてる』


 爽やかな男の表情が少しだけ曇る。


『そうなのか……』

『そういえば、お前も人狼?』


 俺は話題を切り替えようと思い、質問を投げかけた。


『いーや違う』

『人狼は獣人の一種でしかない』

『むしろ人狼はこの学校でもそう多くないぞ』


 授業中や食事中などをなどを含めて物珍しいものとしての扱いを受けることはなかったので気づかなかった。

 

『マジか…』


 同属が少ないことに少々の孤独感を感じる。


『気にすること無いぜ。獣人は形態が違うぐらいで思想はみんな似たようなもんだ』

『だからこそこうやって共同で集団生活も行えるわけだ』


『まぁ俺もお前が変な人間だとは思ってないよ』

『ここに来る前は少し不安だったけど正直今は何とも思ってな――』


 カツカツと遠くから何か勇み足によって何者かが近づいてくる気配を感じる。

 何か強烈なプレッシャーのようなものが――


『せ ん ぱ い ! ! 』


 この声は――マヤか!

 耳が劈けるかと思うような大きな声でいきなり呼びかけてくるとは礼儀がなっていない。

 彼女の顔は真っ赤であり、なにやら随分憤っている。


『探しましたよ! 』

『私、今朝学校へ向う際に午前中の授業が終わったら教室にいてくださいといいましたよね? 』


 学校中を探し回ったのだろう。

 彼女は肩で息をしながら叫んだ。

 

 あーそういえばそうだったかもしれない。

 どうでもいい話が多すぎて聞き流していた。

 それは当然怒って叱るべきだ…ウン。


『すまない。いろいろあってスッカリ忘れてた』


 そう言って彼女の頭頂部へ手を伸ばして触れるが彼女は無反応だった。

 その行為に怒るわけでもなければその手を払いのけるわけでもない。

 だが、唇はかみ締めている。


『おおっと如月のお嬢さん? 』

『こりゃ悪いことしてしまった』

『俺が午前の授業が終わってすぐ昼飯に誘ったんだ』

『悪いのは俺だ。彼をあまり責めないでほしい』


 爽やかな男は俺を弁護してくれた。

 見た目だけじゃなく性格もかなり爽やかな男だ。

 クラスでも人気があるんじゃないだろうか。


『どうも』


 マヤは彼に対して会釈した。

 怒っていても最低限のマナーは忘れないのは育ちがいいからだろう。


『あの……先輩を連れて行っても構いませんか? 』


 爽やかな男は背が高いため、見上げるようにして訴えかけた。


『もう飯は食ったしなぁ…なぁ? 』


 爽やかな男がこちらを振り向き目線を送る。

 彼女についていってやれと目で合図している。


『あ、あぁ…』


 たまらず相槌を打つ。


『なんだ。午後は予定あったんじゃないか飛龍』

『また明日も学校に登校するなら宜しくな』


『では、これにて』

『早くついてきてください先輩!』


 爽やかな男は特に不満を漏らすことなく俺を見送った。


 俺は彼女に引っ張られ食堂を後にする。

というか155cm~156cm程度しかない13歳の女の子にしては考えられない物凄い力で引っ張られているんだが、やっぱこの子も人間じゃないのね。



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