10話
『はは…そういえばレンツェが魔法みたいなものがある――といってたな』
俺はグッシング目掛けて突進した。
詠唱妨害できれば問題な――
『グハッ』
―しかし巨漢のホムンクルスによって吹き飛ばされてしまった。
あたりに光が包み込む。
自爆だろうか?
思わず防御の姿勢を取り目をつぶるも、何も起こらない。
甲板から何から何までが光で包まれ不思議な光景だ。
『このまま暴れられてはこまるのでな』
グッシングのその言葉に、もしやと思い看板に剣を突き刺そうとする。
剣はガイィンと金属音を立てて弾かれた。
物理無効…に近い状態に物質の分子や原子の繋がりを強化しているようだ。
『如月。グッシングはどんな技が使える?』
俺はグッシングについて確認をする。
何も知らないままだと危険すぎる。
『わかりません。今、撮影したばかりの彼の写真を送信して、レンツェさんからの連絡待ちです』
『奴は魔法を使ったか?』
『ええ』
『エルフがマナと呼称する、私達が気と呼んでいるものを言葉に乗せてエネルギーを何らかの形に変換しました』
『変換…とは?クッ』
マヤから情報を確認しようとしていると再びホムンクルス2体に襲われた。
『会話になど興じている場合かね? 』
2体のホムンクルスにガードされる形で陣を取るグッシングが呟く。
敵は6体。
そのうち2体はグッシングを守り、2体は身構え、正面の2体が襲ってきている。
『先輩!大丈夫ですか!』
『変換ってなんだ!』
必死に改めて彼女に問いかけた。
『気はありとあらゆる自然界の事象を再現できるんです』
『気を何らかの形でもって変換すると水とか火とかを作れるんです』
『なるほど…なッ!』
俺はマヤとの会話中に飛び掛ってきた1体を殴って吹き飛ばす。
『おっと。身体能力はこっちの方が上か』
『図体が大きい割にゃあ大したことがない』
マヤの情報からよほどの事がない限りこちらの勝利は揺ぎ無いと確信した。
グッシングの能力は未だに不明だが、まずはこの邪魔くさい巨漢の6体のホムンクルスから片付けよう。
俺は大きく息を吸い込む。
そして吐き出す。
心を落ち着かせ、獣気を手に集中させる。
手を天に向かって振り上げ、獣気で泡を作るように包み込み――
一気に収束させた。
ゴゥゥゥと空気が一気に圧縮されたことで周囲で気圧の変化が起こった音が鳴り響く。
これこそが獣気弾。≪じゅうきだん≫
マヤは超獣弾≪ちょうじゅうだん≫と呼んでいるものだ。
通常の気と異なり、獣気はこの世に存在する全てのモノを膨張、圧縮させることが出来る。
空気を圧縮させ一瞬で膨張させたらどうなるか。
それだけでも想像がつかない破壊力を生む。
獣気を使える獣人≪けものびと≫に与えられた能力。
俺はマヤと異なり変身した時にだけ初めてこの力を使える。
俺は身構えた。
グッシングは2体の巨漢のホムンクルスに守られこちらを黙って眼を閉じている。
『詠唱は不要か?グッシング! 』
『ジャンプ最強の漫画作品があるこの世界でッ』
『劇中の架空の技と同じようなことが出来ることに感謝だ! 』
先ほどからしつこく接近戦を仕掛けてくる巨漢のホムンクルスの懐に飛び込んだ。
そして手に収束させた獣気弾を相手の胸部に押し付けつつそのまま獣気弾ごとホムンクルスを吹き飛ばす。
巨漢は宙を舞い、艦橋の方へ、グッシングのいる方向へ吹き飛んでいった。
そちらの方向にはマヤもいるが、彼女は獣気を使い防御を取れる。
威力は調整したが、最悪は艦橋にいると彼女が言っていた5人の船員が犠牲になるだけで済む。
俺はグッと手の平に力を込め、獣気で圧縮された大気を開放した。
それも今度は内側から獣気を注ぎ込んで一気に大気を膨張させる。
目の前に巨大な閃光がほとばしる。
大気の中に含まれる物質が膨張によって熱を帯び、光を発しているのだった。
本来なら船を沈ませかねない危険なものだが、奴の魔法のような何かがあるなら問題あるまい。
そう考えての行動だった。
あたりがシンと静まり返る。
爆発現象が終わると、そこにはわずかに破損した中央の上蓋と3体のホムンクルスであったと思われる亡骸の残骸と思われるものが散らばっていた。。
宙を舞った巨漢のホムンクルスの方向の先にいた2体を巻き込んで3体を仕留めることに成功していた。
『先輩!なんですか今の衝撃ッ!』
マヤから連絡が入った。
『艦橋の連中は無事か?』
『あっ。はい! レンツェさんと連絡を取っている間、私が艦橋にいた船員を拘束しておきましたので…』
『もしかして先輩がやったんですか?! 』
マヤは獣気弾を使ったことを察していた。
『船内に他に人間かホムンクルスの姿は? 』
淡々とマヤに質問を繰り返す。
『感じません。臭いも気配も』
『なら、報告の35よりは少ない28人しかいなかったのか』
『断定はできませんが逃走など、ありとあらゆる可能性は残されています』
マヤは比較的冷静な口調であった。
自分で実戦経験者を豪語するだけあってちゃんと仕事が出来る子だったようだ。
後で頭を撫でてやろう。
『わかってる。如月は現状待機してレンツェと連絡を取ってくれ』
『ここは俺が片付ける』
そう言って彼女の返答を待たずに通信を切った。
『はてさて、グッシングさんよ。俺とアンタどっちが慢心しているんだろうな』
『対獣人用の対策をロクにとっていなかったアンタと』
『装備すらまともに持たず、情報すらまともに揃えずに突撃した俺』
『どっちが慢心していると思う?』
未だ微動だにしないグッシングを挑発する。
こちらのペースに持っていかないと危険な気がしたのだ。
だがグッシングは眼を瞑りながら瞑想をしていた。
先ほどの攻撃は2体のホムンクルスが何とかその体でもって防いでいたようだ。
間違いない。
グッシングは強い。
直感でそう感じる。
しかしながら、あえてこちらから仕掛けることとした。
獣気弾を再び作る。
そして一気に、グッシングを守っていない残った1体の巨漢のホムンクルスに飛び掛る。
ホムンクルスは対抗して殴りかかってくるものの。
甲板にきちんと足がついていた俺が左腕1本で防御できる程度の攻撃力しかなかった。
グッシング目掛けて突撃した際には飛び掛ったために吹き飛ばされたのだった。
この体は腕の力よりも足の力の方が強力なのかもしれない。
左腕で巨漢の腕を払いのけ、今度は腹部に右手を伸ばす。
そのまま右腕で獣気弾ごとホモンクルスをグッシングのいる方向めがけて吹き飛ばした。
『この程度で死なないだろ。アンタは』
そう、呟きながら。
再び爆発を発生させる。
衝撃で船が揺れる。
まるで縦揺れの地震が起きたようだった。
ギギッギギッと金属が軋む音がする。
魔法か何かで船体の防御力を上げている様子だが、それでも獣気弾はそういうような状況になりうるだけの威力を誇っていた。
オーバーキルすぎて日ノ本の市街地などでは使えない。
マヤは小さな獣気弾を使える上に膨張や収縮のコントロールを上手く使って不発弾にすることが出来るが、訓練したばかりの俺は基本的な技である大爆発しか使えなかった。
本当は膨張と圧縮を利用して大気中の粒子を用いてビームそのものを生み出せるらしいが、マヤと違って俺には宙を舞う爆弾にしか出来ない。
爆発が発生した場所付近では煙が舞っていたが、風によって次第にその空間が露になっていく。
そこには3体のホムンクルスであった残骸と…無傷のグッシングの姿があった。
彼は防御の姿勢すらとっておらず眼を瞑っていた。
グッシングが静かに眼を見開く。
『無鉄砲なのか。ズバ抜けた洞察力の持ち主か―』
『君をわかりかねているよ』
声は落ち着いている。
俺は旱魃いれずにグッシングに飛び込み、彼に剣を振りかぶった。
グッシングは防御の姿勢を取り、彼の右腕に剣が命中するも
その攻撃は肉を切り裂くことなく肉に食い込むことなく表皮で止まった。
『参ったな。エルフの人間がこれだけ身体能力が高いなんて』
『地球にいる人類はなんて脆弱なんだ』
思わず本音が一部こぼれたが、
だが、実はあえて俺はグッシングの身体能力を確かめるために無鉄砲に突撃していた。
彼がなんらかの能力者であったなら危険な行為であるが、そういうのは現状出来ないのではないかと考えたのだ。
奴は船の維持だけに力を使い込みすぎているのではないか…と。
なぜなら奴は、ホムンクルスにガードされながら身動きをとらなかったからだ。
俺ならその状況、優位な距離から遠距離でもって攻撃するが奴はそれをしなかった。
そこに答えがあると判断した。
『君は実に運がいい』
グッシングがこちらを向いて呟く。
『2度目の襲撃の後、ホムンクルス達だけでの管理では不測の事態が起こりうると私が船に乗り込むのを見計らったかのように襲ってくるとは』
グッシングは少し口元をニヤけさせる。
相手に敬意を持っているのか、何なのかわからないが不気味だ。
『だが、浅い』
グッシングが右腕に力を込める。
次の瞬間、俺は船首付近まで吹き飛ばされていた。
一体なにが起こったッ!