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7話後編

 再び海上。

 ここは太平洋の上。

 4日前に旅券など指定されたものを受け取り、航空機でとある島に渡り、

 指示通りにそこに配置されていた外洋の長距離航海可能な船舶に乗って現在に至る。

 

 その後の4日間、俺はマヤと二人っきりで過ごしたが、彼女の全裸を何度も拝むことになった。


 ここに来て初めてマヤについて1つ理解したことがある。

 

 持ち家ではお互い別々の部屋で過ごしていたし、風呂の時間は俺は自室で何かしていたので気づかなかったが、

 船はベッドスペースが同じ部屋でシャワールームもそこに備えついていて、

 彼女は俺に気にも留めずに風呂上りに全裸で船内を徘徊したりしていた。

 

 マヤは俺には感じない獣人独特の体臭は気にするが羞恥心がなかった。


 「いい所の出のお嬢様はそういうものだ」みたいな話を前世と第二の父両方から昔聞かされたことがある。

 二人ともどこで何を目撃したのかしらないが、もし俺に子供が出来たりしたら同じ事を伝えてやろうと思った。


 全裸の彼女はやはり華奢で細身だが出るところはそこそこ出ているという日本人ではないスタイルで――いや、これ以上思い出すのはやめておこう。なんか頭がおかしくなりそうだから。


『――しかし…まるで本物みたいですね。このパスポートとNGO団体の活動証明書とか航海記録などは……』


 マヤは船内で改めてパスポートを不思議そうに観察している。

 一式の書類などを受け取ったときは気にしていなかったが、海上で暇だったのでそのことが気になったらしい。


 では、すこし俺が教えてやるか。


『これは本物だよ』


『え?』


『現在のICチップ入りの日ノ本の偽造パスポートを作るのは極めて困難だ』

『これは偽装情報が書かれた本物なんだ』


 自慢げに話さないよう、優しい口ぶりを意識して、マヤに第二の両親から教わった知識を披露する。

 俺は海外旅行で日本人を騙る犯罪者に惑わされないためにと偽パスポートとの違いを教えてもらっていた。


『偽装情報が書かれた本物…真性の偽物…ですか…』


 マヤはパスポートを捲ったり裏返しにしたりして関心しながら確認している。

 

『書類なども一式全部本物だ』

『入力されたデータを本物の機械を用いて発行し、正規の手続きでもって日ノ本が発行している』


『日ノ本の息がかかっているということですか? 』


 彼女は首をかしげながらこちらに呟いた。

 まだ状況が理解できていないようだ。


『ああ、両親が両親だったからこういうのの見分け方は良く知ってるが』

『こんな事を日ノ本がやっているとは知らなかった』


『あれだ、情報を入力する側には何も知らされてないし作業者は日ノ本だから正しい情報しかないと思って作ってるよ』


 俺は、兵藤さん達が用意したと思われる各種書類をペラペラ捲りながらそう呟いた。


『でもそれは正しい。なんたってパスポートは国の所有物であって―』

『―俺らの所有物じゃない。これは国が国家の国力で持って当人を証明させるもの』

『国家がそうだと言ったら、それが真実だ』


『はぇぇー。私知りませんでしたよ』


 息を吐きながら目を輝かせてマヤが呟く。

 もっと教えてとばかりに上目遣いでこちらをのぞきこんでいる。

 風呂上りの全裸でその様子で誘惑してきたら襲ってたかもしれんぞ。全く。


 とりあえず頭が悪い子ではないので、もうちょっと理解を深めさておきたいな。

 もし俺と別れることがあっても無駄にはならない知識を得て欲しい。


 そう思って財布から紙幣を取り出して彼女の目の前に広げる。


『マヤ、これを見ろ。これはなんだ?』


『一万円札……だと思いますが』


 彼女が首をかしげる。

 俺の行動を上手く理解してもらえれないようだ。

 だが、構わない。話を続ける。


『そうだ。1万円札だ』

『では、どうして1万円の価値があると思う』


 彼女がどういう答えを出してくるか気になってあえてそういう問いかけをした。

 答えが現状でも出せるかもしれないと思ったのだ。


『それを1万円ものだとみんなが信じて使っているから…ですか? 』


 マヤはいつもの推理ポーズである手を顎に当てるポーズで呟く。

 まだ13歳の割にかなり惜しい答えを出してきたが、それは間違いだ。


『いや違う。国がこれは1万円札だといい、その1万円の価値を国民が決めているんだ』

『これも国力というものだ。国民が1万円をどう処理するかでこの紙幣の価値が決まる』

『正確にゃ増刷したりして1万円というモノの価値を調整はしているのだけれど』

『国が滅びたらコイツは鼻紙よりも価値がないものになるよ』


 俺の話にマヤは目を輝かせている。

 こういう話は好きなんだな。

 そう思って眺めていると、彼女がやはりそれなりに賢い子だということが判明する一言が出てきた。


『えぇと……じゃあ金貨とかは記載の額より価値が高いなんてことがあったりしそうですよね』

『例えば1万円という金貨があったとして…純金で作って、当時の1万円の価値の質量で作ったら』

『金が希少になって高騰して……3万円分の価値になっちゃったり――とか』


 その答えに俺は彼女の頭を撫でる。

 褒める言葉はいらないが褒めていることをわかってくれるといいんだけど。


『その通りだ。国家が1万といって世界では10万円分の価値がある金貨を出しちゃってそれが出回るということはありうる』

『その金貨は国内で現金取引に使うと1万でしか使えないが、換金すると1万以上になる』

『それを明治時代の始めに日本はやらされたのさ……』


 俺は不平等条約によって金が不当に海外に持ち出されてが困窮した話を振り返る。 


『なんか歴史の授業でやった気がします』


 マヤはなんとなくそれを知っていた様子で頷いた。


『如月にも紹介した源さんは日ノ本の非正規のような正規の仕事だといっていた』

『まさにこのパスポートにその意味が込められているといっていい』


『――さて、授業はここまで』

『そろそろ例の貨物船に近づくはず』


 話を終わらせ、俺は船内に出て双眼鏡であたりを確認した。

 彼女も俺の後ろをトコトコとついてきて辺りを見回す。

 肉眼で見ているが見えるのかなと思いつつも本当に視力が良かった場合に傷つけることになるので双眼鏡を使えとは言わない。


『写真で貰った一般貨物船でしたっけ』


 彼女は写真を見ながら周囲を見渡す。

 周囲に舟艇らしきものはいくつかあるが、どれもこれも小さくてよく見えない。

 どれもこれも離れすぎている。 


『ああ。上は蓋だけ、コンテナも何も積んでいなくて船体の中央にポッカリ広い内部空間がある』


 俺は変身しても遠くが見渡せるわけではないので、

 そのままの状態で船体の状態を確認しようと試みているが、ダメだ。よくわからん。


『いかにも怪しいことしてますよって感じがしますね』


 そんな状態をよそに彼女は話しかけてくる。

 何も見えてないのが気取られないようにしよう。


『内部で何しているかよりも、それだけ大型のものを運んでいるという事の方が重要だ』


 双眼鏡でぼんやりとしか見えない船を見ながらそう呟いた。


『しっかし、日ノ本から出航する前にバレなかったのかな』


 俺はつい気になったことを口に出してしまった。

 彼女に向って言ったわけではないのだが――


『部品を調達してきて、中で一定の構成まで組み立てたのでは? 』


 意外にもまともな返答が戻ってきた。

 そ、それは俺も考えてたからね!何も考えてなかったわけじゃないからね!と思いつつも――


『…それはあるかも』


 とりあえずマヤの意見を尊重するのが精一杯だった。


『先輩は中身は知らないんですよね』

 

 パチンとマヤが貨物船の写真を指で弾く。

 俺が電話で聞いた以上の事実を知っているか確認しようとしているのだろうか。


『今のところは興味ないが、この行動を阻止したらオーフェンリアにも少なからず利益があるってさ』

 

 4日前の電話で言われた話をそのまま繰り返し彼女に伝える。

 運んでいるものは予想もつかない。

 一般貨物だから鉱物資源とか液体ではないが、生物などの可能性は否定できない。

 魔獣の親玉とか。


『私自身がこの仕事に参加できるんですから、オーフェンリアに秘密にしなくても問題ないものではあるのかと』


 思考回路を鋭敏に動かす俺に対して続けざまにマヤはそう呟いた。


『あるいは、俺たちには理解できない未知の何かだ』


 それっきりしばらくお互い黙って周囲に目をくばらせる。

 しばらくして。


『…うーん……あっ先輩!これじゃないですか!』

『ほら、北東のアレッ!』


 マヤがぴょんぴょんと飛び跳ねながら反応をするが――


『遠すぎて見えないぞ…』


 双眼鏡ですら良く見えない場所を示している。


『もう……もうちょっと近づきますよ』


 そういってマヤは船に座標点を入力する。


『にしても、座標を入れるだけでその場所まで向ってくれるってちょっと便利すぎる船じゃありません? 』


 船の操作をしながらマヤは不思議そうに呟いた。


『産業技術総合研究所あたりが試作で作った船かな。自動航行技術はタンカーか何かのために研究してたから 』


『海洋研究開発機構ではなく? 』


『アレは文科省の傘下だ。経産省と文科省は仲が悪い』

『互いの下部組織が協力するということは無い』


 俺は両親からの知識と自分が興味本位で独自研究していた知識を披露した。

 経産省と文科省はとにかく仲が悪く、下部組織が似たような研究をやっていたりする。

 一方で国交省は中立で双方ずつと共同的な企画を持ち上げたりするのが面白い。


『そ…そうなんですか?』


 信じられない情報を聞いたマヤは目を丸くする。

 普通に生きているだけなら知るわけが無いのは当然である。


『経産省は主に海運だとタンカーなどのエネルギー輸送関係の技術研究もしてる』

『その一環で一般販売された外洋航行可能なボートに極めて正確無比な自動海上航行機能を搭載させた代物かもしれない』

『実態はわからないけど…』




――しばらくした後。


『今度の距離だとどうです?』


 彼女が再び北東の方角を示す。

 双眼鏡を構えるとそこには写真と同型の船が航行していた。

 あの距離を肉眼で見ることが出来るのか…彼女は……

 

 良く見るとその船は海に沈みこみながら航行している。


『ああ、見えた見えた。間違いない』

『なるほど、ブツは積んでるな』


『なぜそれが?』


 彼女には荷物を積んでいる理由がわからないらしい。

 素人が見ただけではただ船が海の上を航行しているだけにしかわからないのであろう。


『喫水線が下がってる』

『船首の所になんか定規みたいなメモリ表示がない? 』


 遠すぎて指で示すことが出来ないので言葉でわからせようとする。


『ありますね……それなりに―沈み込んでいる? 』


 手をかざして肉眼で確認している彼女は理解してくれた様子だった。


『そこまで非常に重いものではないみたいだけど何か積んでいるのは間違いない』


『あっちの巡航速度は12.5こちらは30ノット以上出せる』

『ある程度の距離を取りつつ接近していこう』

『船外の状況を観察してから夜に仕掛けていこう』


『はい!ッ』


 元気のいい少女の声が海に響き渡った。

 どういう策を練るかは夜一旦近づいてからだ。


 昼間はあまりにも目立ちすぎる。

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