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6話

 バタムッ


 鈍い音と同時に車のドアが閉まる。


 この独特の低音がするドアの遮蔽音は……四代目インプレッサ2.0Lである。

 マヤは小回りが利くからと、フィアットアバルト595の新車の導入を求めていたが、

 あんな使いづらく故障が多い車はゴメンだと拒否した。

 あの系統ならBMWミニかルノースポール系かアルファロメオMITOあたりを選ぶべきだろう。

 だが、どれも高額すぎるので除外だ。っつーかハイオク限定車は除外だ。



『では、どういう車がいいんです? 』


 そう言っていつものように頬を膨らませる彼女を前に俺はいくつかの提案をした。


 1つは、NV350かハイエースまたはレジアスエースのようなワゴンを選んでバイクを中に入れて使う方法。

 これはかなり有効だし、コストパフォーマンスや減価償却に優れている。 

 無傷で6年乗って売れば2/3の価格で売却できるという、鬼のコスパがこれらの商用車の魅力だ。

 ヘタすると買値で売るというパターンすらある。(品薄になると中古価格が一気に値上がるため)

 だが、彼女は格好悪すぎると一蹴した。


 次に、ランクル70かジープラングラー、

 前者はガソリン車、後者はEURO5のディーゼルターボ。

 特に後者は加速力が抜群に高い上で車幅は3ナンバーのそこらの日本の乗用車と変わらない。

 だが、強靭なラダーフレームによってどんな荒地も走り抜けられ高速でもかなりの速度が出せる。


 日本で唯一まともに売れるアメ車…頑丈で初代ジープの系譜を持ち、車幅が1820で、(実際はもっと狭い)都内でもよく目にすることがある唯一のアメ車。


 ただし、車体の価格は2台共、新車なら彼女が提示したフィアットの2倍で燃費は最悪。

 道具としては最強である一方、収支状況が見えない現状で手に入れるのは時期尚早である。

 マヤは、ラングラーに関してはそこそこ興味を示した一方、ランクルは格好悪いと否定気味だった。ちょっと君は日本車嫌いすぎじゃないの!?



 ……そんなこんなで、現状コスパと性能の両立がなされていて、かつ即手に入って、

 そこそこ快適な車内空間で、4WDオプションもあるとなるとコイツしかない。


 コイツの凄さは、1.6L 2WD FFだと新車の乗り出し価格ですら160万切っていること。(2.0Lでも180万程度)

 それでいて85馬力程度しかない1.5Lカローラに対して115馬力とボクサーエンジンのパワーを見せ付けてくれ、さらにサスが独立していて乗り心地もいいこと。

 現状のトヨタはハイブリッドカーを売りたい手前、カローラなどの車種は乗り出し200万以上なのに対して、インプレッサはアメリカで大量生産しているだけに非常にお手ごろな価格なのであった。

 国内ではヴィッツのコンポーネントを利用し、酷い出来になってしまった現行カローラを買うぐらいなら、燃費の悪さとオイルの消費の早さに目を瞑って1.6Lを買うという人も少なくないのだという。


 現行のカローラは本当に酷いからな…ボディが大型化した前期より加速性能が落ちてフラつくって そりゃ1.3Lのアクアやヴィッツに使っているもんで無理やりカローラ作ったらそうなるが……


 アメリカカローラは非常に良い出来なので、カローラを買うとしたらこっちしかあるまいがアレの全幅はコイツより広くて流石に日本じゃ使いづらい。


 ちなみに2.0Lなら154馬力、国内の道路では必要にして十分。

 高速でのカーチェイスがあったとしてもホットハッチまでなら余裕で対応可能。

 車重1.26tと実は車重も思ったほど重くない。


 マヤは、スバルならこれとWRXを推したが、ハイオク限定なので除外した。

 それでもレヴォーグを選ばせようとしたが、あっちは200kg以上も重い上に排気量の低いターボ車。

 おまけに全長が長くなってて小回りが利かないことを説明し根気良く説得すると、諦めてこちらの中古車を買うことを同意した。


 シルバーガンメタルの色がやたら似合う乗用車なんてコイツぐらいなもんだな。

 白が逆に似合わない。

 丁度中古で110万という破格の出物と出会ったが、エンジンは当たりの部類で加速もカタログスペックより若干良いものだった。



 ――車を手に入れて俺達が向ったのは有明の倉庫街。

 とある人間から貰った情報を頼りに、魚人マーマンが魔獣を用いて破壊活動を行うと聞き、やってきたのだった。


 獣人けものびとについて少々おさらいしておきたいことがある。

 どういう種族の集合体が獣人で、どういう連中と敵対しているか。

 獣人は、魔族という一方ではダークエルフ的な、一方ではデビルマン的な容姿の連中を除けば、兎人や鳥人など、まさに獣人って感じの種族達の総称だ。


 ヴァナルガンドを含めた8つの次元と多数の国家が、国際連合のような組織をつくり活動している。

 8つの次元は単一種族というわけではなく、魔族を除けば獣人族がひしめきあっている世界だというのだ。

 活動内容は地球人類の保護。


 その理由は、それら8つの次元にかつては人類種がいたが、絶滅させてしまったからだというが、どうも俺はそれだけではない気がする。


 現状では地球の先進国と裏でやり取りをしているそうだが、その実態を知る者は限られており、たんなる一般事務職の国家公務員では到底知りえることのない存在。


 そんな彼らが敵対しているのは俺を殺そうとした竜人ドラグニュートや、今回の対象である魚人などの亜人と噂される連中である。


 彼らの目的は定かではないが、魔獣を利用し、何かをしようとしているらしい。

 獣人と亜人の最大の違いは、獣人は「変身」して形態を変える。

 つまり、普段は人であるが、もう1つの形態も持ち合わせる二面性を持つ。


 亜人は人に「擬態」しているだけで本来の姿は化け物である。

 しかも、擬態できるのは後天的に亜人になったもの…即ち…人間を辞めたやつらだけ。


 ここに思想や文化が地球人や獣人と相成れないものがあるらしく、彼らとは対話すら満足に行えていない――


 

『先輩。隙がありすぎですよ?考え事ですか? 』


 倉庫街をコソコソと進む道中、獣人について考え事をしていたらマヤに怒られてしまった。


『人の気配が無かったからね……』


 言い訳がましいことを言って誤魔化す。


『確かに、臭いもしませんし…おかしいですね』


 マヤはフンフンと臭いを確認しつつ周囲から発せられる音にも気を配っていたが、

 その表情は周囲に敵がいないことを物語っているほどに緩んでいる。


『予測。情報が漏れていたことを理解して撤退した』

『こちらもある程度で打ち切るべき』


 俺は早い段階での調査の切り上げを提案する。

 理由は、犯罪行為を行う亜人を拘束または捕縛しない限り成果として認められないためだ。


『――有明は広いですし、もう少し周囲を散策してみましょう』


 彼女はスマホを見つめると、道路を挟んで反対側にある倉庫を指さして呟いた。

 

 ビュービューと海風を強く感じる。

 高級マンションが立ち並ぶようになって随分と印象が変わってきたこの場所も、平日の昼間ともなると人は全くいない。

 仕事に勤しむ者達がいそいそと作業をしているだけなのを見つけるだけ。


『如月。確認するが、魔獣は輸送が必要なんだよな? 』


 テクテクと俺の先を歩くマヤに対して言葉を投げかける。


『ええ。多少は小さく出来るらしいですが、ある程度の大型車が必要です』

『召喚みたいなことは出来ません』


 キョロキョロと周囲を見回しながらこちらに振り向く事無くそう言った。


 複数の次元が繋がって半世紀以上……20年ぐらいから突然出現するようになった魔獣はまだ実態がよく掴めていない存在だ。

 自然に生まれるようになったが、どうやって誕生するのかもわかっていない。

 一方で、それをどこかで確保して破壊活動を行わせようとするのが亜人。


『魔獣は日ノ本ではどうも生まれることがないらしく、国外から持ち込んでいるらしいです 』


 突然立ち止まり振り返ったかと思えば、マヤがそう呟く。

 ふと思い出したのかもしれない。


『なら、空港や湾岸に陸揚げするルートがあるはず』


『それがわかったら苦労しませんよ。先輩』


 クスクスと笑いながらマヤが言葉を発する。

 これだけ安心しているということは完全に安全な場所ということだな。



~~~~~~



 その後、20分少々周囲を散策したが形跡1つ見つからなかったため車に引き返して近くの公園の駐車場に向かい、休憩した。


 マヤは座席を大きく後ろに下げて目をつぶっていた

 無防備すぎて思わず触りたくなるような格好をしている。

 寝ているというよりかは目をつぶって自分を落ち着かせている感じに見える。


 窓を開け、涼しい海風を車内に循環させた俺は、この情報を提供した情報分析官について思い出していた。


 情報分析官レンツェ。俺が学校で初めて出会った人狼でクラスメイト。

 爽やかな男から同属と紹介され出会ったその男もかなり社交的で話やすい者だった。


 彼はマヤと若干似たような立場にいた。

 貴族階級で爵位を持つ彼は――


『俺も貴族でさ……なんていうか鬱屈した生活をしてるわけよ』

『情報分析官なんて役職についてるが、実態は人狼種が集めてくるリアルタイム情報の整理と―』

『―あとは資料室の資料整理だけ……』

『獣のように前線に出て活動したいが、ある程度の家柄で次期当主ともなると途端に過保護にされる―困ったもんだ』


 溜息混じりにそんな話をしてくれた。

 いろいろ合う部分があったのか、俺と彼はすぐに友人に近い関係になった。

 俺はそんな彼からマヤについての情報を教えてもらっていたのだった。


 それなりの家柄だという彼は貴族関係の事情に詳しかった。


『――ヒオウ。如月マヤってのは通り名なのは知っているだろうが、本名は知ってるか? 』

『本名はミーヤ・ルシル・フォルフィール。フォルフィール家の現在のご当主様だよ』

『年に何度か開かれる王家のパーティで顔合わせをしたことがある――』


 レンツェは表裏のない人間で、ハッキリと物申す上で隠し事もせず、俺の立場でも知って問題ないようなものは何でも教えてくれた。

 マヤ自身が俺に隠しているある秘密なんかも……


 俺は、マヤについては素直でウソがつけない人間で信用できるとは思っている一方で、

 彼女は俺に明かさない秘密が多い気がして、それは直接当人から掘り返すことはしないが、知った上で心のうちにしまっておこうと考えていた。


 そこで、聞けるだけレンツェにマヤに関する事情は聞いていたのだ。

 一方で俺に関する事実も話していたが、レンツェは俺が転生者であるという話を否定しなかった。


『魔法みたいなモンがあるって話なんだから、蘇生ぐらい普通に出来そうじゃないか――』


 ――と、わははと笑いながらも、俺の話を信じてくれていた。


 ――そんな彼は、治安維持を行う組織での活動をするにあたっても助力を惜しまないと言ってくれた。

 今回の魚人の件も彼が知っている情報の中から優先的に流してくれた情報の1つ。


 しかしながら――


『ヒオウ。回ってくる情報の信用度は高いが、実際は殆どの連中が亜人を取り逃している』

『お前を襲った竜人だって過去に9回も事を起こしながら拘束には至らなかった』

『このままやっててもお前らの目標は達成できないぞ――』


 この情報を俺に渡す際、レンツェは現状のままではマヤの夢が叶わないことを警告していた。

 今まさにその現実の壁に直面している。


 治安維持組織は成果主義である。

 捕縛や拘束が出来なければ最低限の給与しか払われない。

 俺の管理と保護を含めたマヤの月の給与が手取り20万で俺が12万。

 これでは光熱費やら何やら全て払ったら何も残らない。


 マヤには目標があった。

 それは、今はオーフェンリアの国が一旦管理しているヴァナルガンドにあるフォルフィールがもつ広大な土地などを含めた資産を取り戻すこと。

 

 没落貴族として崩壊したフォルフィール家は、日ノ本における彼女の持ち家と事務所以外の資産を全て失っていた。

 ただし、国が善意で一旦全て差し押さえ、国費で管理している。

 これをマヤはどうしても取り戻したがっていた。


 彼女の父の財産である彼女の実家も思い出の品もフォルフィールの屋敷も畑も全て失ったのだという。

 彼女の父の財産は等価交換で日ノ本の物件や資産になっていた。

 この国で活動することを命じられたマヤは、等価交換無しにこの国で新たに居住を構える資産すらなかった。


 だからこそ少しでも状況を何とかするため、貯金を行おうと衣服などを切り詰めて生活していたのだ。

 4年前のことだという。

 レンツェの話では両親も既に他界、使用人などを雇う資産も無く日ノ本に放り出される形で向ってきた。 


 何もかもを失って…。


 3年間治安維持活動による後方支援で奮闘した彼女は何とか生きていけるだけでしかなかった。

 だから彼女は賭けに出たのだった。

 

 俺で賭けに出たのだ。


 治安維持活動には俺のようにひょんなことから後天的に人狼になる者を保護するだけでも成果の扱いになる。とはいえ、法的には後天性の人狼にはよほどの理由がない限りさせないらしく、日ノ本では俺以外は両手の指で数えるだけしかいない。

 

 俺が人狼になったのは、王女の気まぐれであるとレンツェは分析していたが、

 彼女はソレと協力してよりハイリスクな選択をして成果を得ようと画策したのである。


 ソレというのが、つまりは俺である。


 問題は日ノ本は今のところはかなり平和で、魔獣もそこまで頻繁に出現しないことだった……

 彼女もそれは知っていたはずではあるが、どうにかなると考えていたらしい。


 俺も割と初っ端の活動から敵に遭遇できるであろうと楽観視していたが、出鼻をくじかれてしまった。


 ハンドルに手をかけ、そこに頭を被せ、うなだれる。

 彼女が全ての資産を取り戻すには日本円にして最低50億必要。

 とてもではないが現状では遠い夢――


ピピピッ


 ふいにスマホが鳴った。

 レンツェからであろうか?

 しかしその番号はレンツェのものではなかった。


 俺に電話をしてきたのは…俺のこの世界での両親の同僚で戸籍を改竄する前は保護者の立場にいた人間だ。


 スマホの契約を切っていなかったのをすっかり忘れていた。


『―はいっ』


 俺は電話に出る。

 マヤが眠そうに少し目を開き首をこちら側に首を少しだけ傾ける。


『なんだー暇してんるかーー飛龍~』

『今は飛龍って名乗ってるんだってなー』


 テンションがやや高いオッサンの声が電話から聞こえる。

 彼の名前は福田ふくだ げん

 俺の両親とは同期だが、年齢は二人よりもかなり上。


 あまり知られていないことだが、国家公務員はお笑い芸人と同じで同じ時期に入った者が同期であり、例え年下でもそれより前期に入った者は先輩として扱われる。(役職が大きく乖離していれば別だが)


 何故か彼は俺の名前が飛龍に変わっていたことを知っていた。


『おかしいな。死亡届とかいろいろ処理してもらったと思ったのに』


 オーフェンリアの偉い人達によって俺は死んだことになっていたが、源さんは俺が生きていることを知っていた。

 ちなみに源さんとはタメ口であるが、これはタメ口でないと怒るからであり、目上の者に対して礼節を弁えないというわけではない。単純にこの人とはそういう仲なのだ。



『馬鹿いえー。俺の仕事をなんだと思ってんだ』

『知的財産関係の犯罪の裏には金と人身の動きがある』

『金も人身もどちらもある程度把握できるんだよ。俺は。はっはっはっ。』


 源さんまさに年齢相応のオッサンっぷりを発揮してテンションマックスでこちらに話しかけてくる。

 あえてこういう風にすることで裏で何を考えているか覆い隠すのがこの人のもつテクニックだ。

 逆にこれは非常に怖いことなのだと第二の父は教えてくれたことがある。


『それで、俺に何か用? 』


『お前の立場を知っている者から仕事の依頼が来ている』


『日ノ本がお前の力を欲しいってよ。乗るか? 』


 源さんがやや真剣な口調に変わる。


『一応聞いとく。源さんは俺の今の実態を知ってるの? 』


『俺はお前が生きている事ぐらいしか知らないが、知っている人間を知ってる 』

『いいか、俺ら公僕は何でもかんでも知り尽くしてはだめだ』

『知は即ち死と置き換えろって昔言ってやったろ』

『俺が知るのは人身の動きと金だけだ。ようは俺の知り合いがお前を良く知る立場にいるだけ』


 源さんがウソをついているかどうか見極められないが、少なくとも知っている者は知っているはウソでないはず。彼の立場は両親や本人から聞かされているが、彼がこういった仕事を処理できる立場にはいない。


この人は現場一筋の人間だから。


『つまり、誰かと会えばいいわけだ』


『そうだ。俺は依頼できる立場じゃないがお前との仲介役にはなれる』

『言伝を頼まれたんだよ』


『情報が回るのが速いのか、それとも――』


 本音がつい言葉として漏れてしまったが源さんはそこに対して何か言うことはなく――


『っていうか、お前が敵対者なら俺は連絡してこないぞ』

『まだお前は日ノ本の人間として認められてるってことだよ』


『いいか、今からメールで送る場所で携帯端末を受け取り、そこに記録された電話番号に電話をかけろ』

『以上だ。やるかやらないかはお前が決めてくれ』


『俺としちゃあ、こっち側にいて欲しいとは思う。健闘を祈る』


ブツッ―ツーツー


 日常的な会話をする間もなく、一方的に電話を切られた。

 時計を見ると12:55分。

 ああ、忙しい中で昼休み中に電話をかけてくれたのか。


『依頼って声が聞こえましたよ……』


 眠そうな鼻のつまった声でマヤが呟く。


『如月。確認だ。オーフェンリアと日ノ本は同盟関係にあるんだな? 』


『え?ええ…』


 目を擦りながらマヤが答えた。


『なら日ノ本から仕事を請けたとしても――問題ないな?』


『先輩……』


 目を開き、不安そうな表情でこちらを見つめるマヤ。


『神様がいるって信じたくなったが神ならぬお上ってやつ』

『俺とお前の実情を知りつつ――仕事を依頼しようとしているのが日ノ本にいる』


『!!!!』


 マヤが飛び起きる。

 怪しい人間との取引ではないかと疑っているのかもしれない。


『落ち着け、日ノ本でもオーフェンリアとの関係者だ』

『それも公僕で間違いない』

『利害の一致で依頼をしてくるとみた』


『先輩がそうおっしゃるなら……』


 マヤはまだ不安そうな顔をしている。

 そんな顔の彼女を落ち着かせようと頭を撫でた。


『ズルいですよ…そんなことされたら……』


 マヤは顔を少々赤らめながら緊張を解いていった。


 スマホのメール受信音が鳴る。源さんから住所が書かれたメールが転送された。

 メールは写真つきで、コインロッカーの画像が添付されている。

 そのコインロッカーは真新しいタイプの電子錠で、コインロッカーを開くためのパスワードもメールに併記されていた。


『追伸。俺の知り合いはちゃんとした立場の日ノ本の人間であるので安心する事』


 メールの最後には保護者としての立場から精一杯背中を押すメッセージが書かれていた。

 乗るしかない。この話に。

 今は日ノ本の歯車となって、駆け上がるしかない。


 インプレッサのエンジンをかけ、駐車場を後にした。

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