転生
初転生作品です。
プロットとかあまり考えず自由に書いて見たいと思っています。
誤字脱字等ありましたら感想等でのご指摘を宜しくお願い致します。
死ってなんだろうなって子供の頃から思ってた。
生を自覚したのは3歳頃。
今でも記憶の片隅に残るのは北海道の熊牧場での記憶。
実は最も古い記憶はそこであるが、一般的に物心がついたといわれる時期はそこから2年も先だ。
2年間何をしていたのか全く記憶にない。
理解できることは1つ。都内某所で生まれた自分が始めて本当の意味で生を自覚したのは父親が自転車を自分にプレゼントしてくれたあの日のこと。
そこで初めてモノに没頭することを覚え、そこから自分の人生は始まっている。
自分は裕福ではなかったが、父親はカメラマンを目指していた関係でVHS-Cのビデオカメラを所持していた。
そこに映る熊牧場での姿を除く3歳から5歳までの自分は、まるで自分ではない何かが乗り移っていたかのようだった。
死の直前。
一般的に言う走馬灯で思い出したのはそんな記憶。
そして生が尽きるのを自覚した後、すぐさま目の前が真っ白に明るくなった。
まるで夢の中だった。
『――日本社会から受け入れられなかった上に、無様に死んだみたいだね』
声がする。そして開口1番に己の人生を侮辱された。
確かに人に誇れる人生ではなかった。
平成という元号と同時に生まれ、平成と共に歳を重ねる。
この世代のおよそ3割はまさしく敗者という名のレッテルを貼られて生まれ、
そして夢も希望も無い空白の20年間の中で思春期を過ごし――
そして、日本社会に送り込まれている。
足掻いた者は順応できる一方で、やや特異な思想と行動原理の持ち主を受け入れてくれるような優しい世界は無く、
それでも足掻こうとしたものの、魔法使いになったと同時にその生は本当にあっさりと終わりを迎えた。
理由は朝の通勤時に老人が踏み切り内に立ち入って出られなくなったのを救出しようとしてそのまま電車ごと轢かれてしまった……たのだと思う。
『アンタさぁ……なんで避けなかったの?』
先ほどよりも少し声のトーンが落ち着いていた。
まだ目の前は真っ白で何も見えない中で女性の声がこちらの耳に鳴り響いてくる。
そんな彼女にありのままをそのまま言葉に乗せて―
『避けようと思えば、生きようと思えば、老人を救えぬまま生還できていたとは思う。』
『だが、俺はもう、人生3度目の失職で楽になりたかった』
口は動くようだった。
喋ることが出来たのは不思議ではあったが、返答をすることが出来た。
『そう…』
また少し相手のトーンが下がった。
悲しんでいるんだろうか。
『電車がくるその刹那、老人を踏切の外に向かって思いっきり投げ出したんだが、どうなった?』
目は見えないが、相手がそこにいるような気がして真っ直ぐそちらの方を向いたような気分で、記憶に無い部分について尋ねる。
その部分だけはどうしても知っておきたかった。
『生きてるけど死んだのと変わらない』
『アンタとあの冴えないお爺ちゃんは同じだった』
『歳が半世紀ズレているだけで、彼にも夢も希望もなかったから』
彼女は物悲しそうにそう伝える。
どちらの方に対して物悲しいのだろう。
今も生きている老人か。死んだ自分か。
ここで初めて女性の声だと気づく。
そしてもう1つ悲しい事実も伝えられる。
ぶっちゃければ無駄死にしたのは自分であって、無様に死んだとは正しくその通りなのかもしれない。
『でもニュースになったから、若いけど勇敢に働いた青年として3日ぐらいはTVで取り上げられるかもね』
『アンタが心の中で密かに望んでいたせめて最後は人から批判されない死ってやつ?』
クスクスと作ったような渇いた笑い声がする。
嘲笑しているというよりは鼻で笑おうとして失敗したかのような。
『まー中央線なんかでやってくれちゃったからネット上じゃ総スカンみたいねー』
どこか遠くを見つめながら話しているのだろうか。
先程から聞くに、彼女はこちらに向って喋っているというよりもこちらに顔も向けずあさっての方向を見て語りかけているかのようであった。
それは夕日を眺めて思い出を語る友人のような。
もしくは愛しい人のような。
『視界が無いんで困惑しているんだけど、君はいわゆる……神様ってやつ?』
だが、今、最も気になるのは自分の現状把握。
現世と思わしき地球の今の日本の状況じゃない。
共に黄昏に興じている場合ではなかった。
『神様はお留守。お隠れになっちゃったって感じ。私は代行者。神権代行者』
『可能性の芽がある人材を別の世界に転生させてんの』
事を先に進ませようとこちらが焦ってしまったのか、
ややつっかかった言い方での返答であった。
『可能性? 何の。正直もうあの世行きでいいんだけど。』
溜息が聞こえる。
地雷を踏んだ。
間違いない。
『地獄に行きたいならどうぞ』
『特典付きで今どうしてもどうにかしたい別の地球に向かうか、地獄に行くかどっちか選んで』
女性は急にそっけない態度になり、そう吐き捨てた。
気分を害すつもりはなかったが、この状態が長続きしてほしくない。
だから―
『地球は地獄と変わらない気がする』
『それなら地獄でいい…』
面倒なので転生の選択肢は外そうと思った。
どうせまた死ぬなら地獄でいいんじゃないか。
『100億年単位でアンタの想像を斜め上に行く陵辱と屈辱を味わいたいならどうぞ?』
ぶっきらぼうに女性は再び吐き捨てる。
『……プランBについて教えてくれ』
選択肢が半ば無さそうな状況なので、もう片方の選択肢について聞くことにした。
呆れて言葉に感情を乗せることも無く棒読みになっている自分がいた。
『獣人のどれかの形態になれる』
『人を超越した存在に』
『でも、どの形態かはアナタの次の生の生き方と選択肢に限られる』
『選択肢?獣人って……ファンタジー的な?』
『どういう形態になれるかは、そこに行って、そこで生きてアンタが選択すんの』
『私は人を捨てる権利と、記憶だけを与えて』
言葉は荒いが、セールスマン口調で彼女は説明する。
それに何の意味があるのだろう。
ただの神々のサイコロ遊びなのだろうか。
弄ばれるような人生はもう御免だ。
だが、誰からも求められず社会から孤立して死ぬよりも。
獣のように狂ったような生というのは悪くない。
『なぁ。それは攻める側に回れるということか』
『社会から孤立して孤独に苦しまないように生きられるということか?』
今の自分に―いや、20代を過ぎた頃からひたすらに感じる劣等感がそれだった。
孤立、孤独、無縁。即ち社会の負組。
それを払拭できるならば生き返る価値はある。
『そんなの神ですら知らないこと』
何故かその言葉はこちらの方を向いて発しているぐらいハッキリとした口調だった。
『君の目的と俺を送り込む利益は?』
『それは生き返ったら自然とわかるかな』
声の主は再び別の方向を向いていた。
さして重要なことではないらしい。
体内時計で1分ほど迷った末、即断した。
何もわからないことだらけで正直詐欺じゃないかと思わなくもないが――
『チャンスは貰っとけってね。わかった。お前のよくわからないプランに乗ってやる』
相手がどこにいるかわからないが、相手がいそうな方向へ向って吐き出すつもりで―
相手に真正面から言葉をぶつけるがごとく言葉を叩きつける。
『じゃ、地獄行きはキャンセルしとく。フライト先は別の地球ってことで』
『後はアンタ次第』
女性はそんな俺の言葉に特に感嘆する様子もなく。
かなり早口で話を閉めた。
もしかしたら、もう少し会話に興じたかったのかもしれない。
自分としては真っ白な世界は嫌だったので視界があるならば会話に乗ったかもしれないが、
この状況で会話を続けるのは苦しかった。
最後の言葉が聞こえた後は――また真っ暗闇になった。
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そして再び目を覚ますと熊牧場にいた。
転生というよりも3歳時まで時間を撒き戻したような感覚だが、前世の記憶は残っている。
唯一の違いは今がこの世界の西暦で200X年だということと、親が変わっているという事。
同じ時代に生まれ変わったわけではなかったようだ。
――それから15年。
未だに獣人とやらになれない状況に焦り始めていたとある日
その日、自分は真の意味で生まれ変わることなど、朝起きたばかりの自分はまだ知らなかった。――