recorrect
……。
……。
次に俺が目を覚ましたのは。
見慣れたような、風景。森の原生林が広がり、遠くの景色は紫に染まる。
俺が倒れていたのは、どうやらテプラの花の上のようだ。
……懐かしくて、俺はその花を摘んでみる。
「ふごぉ」
ああ、花弁がきれいだなっと。
そんな風にして雅な心を出している俺の首筋に。
……なんだか、生ぬるい風が。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
緑色に、猪の頭。けれど首から下は毛むくじゃらの人間。
これがモンスターというやつか。こいつは初めて見たし、……そもそもこんな近くにいるとは思わなかったし。ちょっとだけチビりそうになった。
けれど見る限り知能は高くなさそうだし、ここは復活した俺の魔法で――。
「エグスプロージョン!」
……。
……。
「ふごおおおおおおおおおおおおお」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
不発。
「くそっ。エグスプロージョン!エグスプロージョン!」
俺は最も慣れ親しんだ魔法を連呼するが。
魔法が一度も発動しない!
モンスターはじりじりと、俺の距離を近づけて。
……体勢を低くして、俺の喉元にくいつかんとしていた。
……。
おいおい。
なにこれ?
せっかく戻ってきたのに、俺死ぬの?
すんごいかっこつけたのに。
こんなにあっけなく。
あれ? あれあれ? おかしくない?
モンスターがこちらへと素早く身をくりだす――その時間の中、俺の意識をさまざまなことが思い返された――そしてこんな世界、戻ってこなきゃよかったとか俺の軸がぶれたりしていたが――。
「貫け、突き刺せ!」
誰かの声が響いて。
空中に生み出された光の槍が、モンスターの額を貫いた。
「おいおい、久しぶりに会ったと思ったら。
我が弟子ながら情けないぞ」
その声に振り返ると。
「ししょぉおおおおおおおおおおおおお」
懐かしい、ルペルタ師匠がそこに立っていた。相変わらず鉄仮面をかぶっており、ビキニアーマーをつけている。……戦闘中だからだろう。趣味だとは思いたくない。
ま、それはともかくとして、俺は安堵感と懐かしさのあまり、師匠に思わず抱きついてしまう。
「ははは、なんだ怖かったのか。お前もゴミ虫から進化したと思ったが、まだ蛆虫に格下げだなぁ」
「どっちが上なんですか」
「ウジの方が汚いな」
「ひどい!」
「いーんだよ、お前みたいなひょろがりは。もっかい鍛え直すか」
ここで「はい」と答えたら、またあいつらがでてくるのだろう。
おいおい。
「それは、あとで。
とりあえず、話を聞かせてください」
俺は師匠の身体に抱きつくのをやめて、姿勢を正した。
○
「つまり、メアリィは生きていると?」
話を聞き終えて。
俺の質問に、師匠は苦々しい顔で頷いた。
「断定はできない。……が、死んだ可能性は低そうだ、というだけだ。
ディティールはメアリィを攻撃したが、その肉体を氷漬けにして、屋敷の中に隠しているらしい。どうやら「魔石」を作るための生贄にするつもりだとか。
だから、仮に生きているとしても、奪い返すことは難しいかもしれない」
「……いいんです」
「お前、笑ってるのか?」
「嬉しいわけじゃなくて。
それでも、」
まだ、メアリィに会えるなら。
……。
俺は、まだ生きている意味がある。
「さっそく、助けにいきましょう!」
「……若者、血気盛んなのは結構だがな。
お前、自分が魔法を使えなくなってることに気づいてるか?」
「またまたぁー。
そうやって俺のこと、脅かすつもりでしょう」
言って俺は。
両手を体の前に構え。
「エグスプロージョン(弾けろ)」と、いつもの言葉を発した。
しかしそれは。
うんともすんとも、何の影響も及ばさない!
「……嘘でしょ」
「ふむ。大真面目だ。
こりゃ大誤算だったな。
お前の戦力も、少しは当てにしてたばかりに」
「ちょちょちょちょ待ってくださいよ。
思い当たる節があるんですか?」
「おまえの、胸元」
俺は言われて。
胸元にペンダントがないことに気づいた。
「わかったか? もともと、おまえの膨大な魔力はお前が持っていた「黒水晶」が与えていたものだったんだ。お前は確かに黒水晶の適応者、魔力をうまく使える才能はあったかもしれない。けど、根っからの魔道士ではなかった」
「そ、そんなの……」
「おかしい、と思うだろ。
だけどこれが現実だ」
俺は言葉を失って。
地面に膝をついて。
……。
……けれど。
希望は失わない。
「師匠。俺を鍛え直してください」
師匠が、にやりと口を曲げる。
「いいのか? 知ってると思うが、命懸けだぞ」
そんなの、もとより承知の上だ。
「いいんです。俺は、ただここに来たわけじゃない」
今度は。
追い詰められて。
逃げて。
……。
そんなことのために、来たわけじゃない。
俺はメアリィを救けるために。
……不可能だとしても、最期の一瞬まで、そのために力を使うために。
この世界にやってきたのだ。
だから。
「魔法の基本は「思う(願う)」こと。
俺は自分が元通りの力を手にするって、信じてますから」
「……ふ。馬鹿だと思っていたが、輪をかけて大馬鹿になって帰ってきたみたいだな。
いいよ。特別地獄のフルコースで、すぐにお前を鍛えてやる」
ま。
死にたくはないんだけどさ。




