白薔薇はかく語りき5
うーむ。
俺は頭を悩ませていた。
……。
俺の魔法は、致命傷を与えられない。
けれど、うかうかすると、俺が焼け死んでしまう。
……。
ま、イメージはあまりよくないが。
「水魔法・『御鏡の盾!』」
俺が魔法を唱えると、生み出された水が幾重にも重なり合い、亀の甲羅のように盾を形成する。「アーク」の力によって、自己修復機能もついているスグレモノだ。
……むこうの攻撃力は分からないが、これで互いに致命打を与えることはできなくなった、はずーー。
「竜よ、往け!」
ヴァネッタの合図で、炎竜が俺の生み出した縦にぶつかりあう。
……その衝撃ごとに、水が蒸発してーー、まさかと思うが、せり負けたりなんかしてーー 。
ばりばりばりばり!
と、竜は俺の生み出した盾を「食い破った」。
……。
そうか、こいつは。
魔法で作られた存在だから。
「相手の魔法を食べる」という特性を持っているのか。
魔法の基本は思うこと、とはいえ。
これはあまりにめちゃくちゃすぎるーんじゃありませんかい。
「ふふ、どうだイヅルよ。
うちの愛弟子もなかなかだろう」
エアリアルで浮いている俺のうしろに、いつのまにか師匠が立っていた。
「めちゃめちゃ強いじゃないですか。卑怯ですよ、あんなん」
「そういうな。幼いがゆえの想像力、ゆえの拙さもある。
これがただの魔力比べなら、あいつの勝ちかもしれないが……。
勝負はそう簡単にもいかない」
「俺が天才ってこと?」
「それはーー、まあいい、勝って証明してみせろ」
「水の精霊よ、助けてくれ!」
俺は両手を合わせ、一心に念ずる。
すると現れた。
上半身裸、下半身は魚という人魚のようなグラマラスな美女が。
「……、人の技を盗むなんて!
卑怯者!」
ま、否定はできないが。
「行け!」
俺の合図で人魚は飛び出し、竜と組み合う。
……力は拮抗しているように見える、が。
おそらく、練度不足でこちらが不利。
ただし、こちらは陽動。
俺はエアリアルを何倍にも重複して自分にかけ、移動速度をアップさせる。
これぞ「竜が倒せないなら、その召喚者を倒しちゃえばいいじゃん」作戦である。
俺が風に乗り、かく乱して。
ひと思いにヴァネッタを倒す。
……。
どくん。
できる。
俺は自分に言い聞かせて。
できるはずだ。
イメージトレーニングをして。
できる!
確信をもって、魔法を放つ!
「『エアリアル(連)・多重加速』!」
瞬間。
俺の魔法は、全身から空気抵抗を奪い。
……そして同時に、宙へと体を押し上げて。
摩擦のない空間の中を、加速させていく!
俺の視界から、全ての光が消える。
すべての動きがスローモーションになる。
……。
俺は、知っている。
この世界の生き方を。
この世界の行き方を!
視界で捉えるのではない。
耳から入る聴覚を。
頬にふれる触覚を。
……、目には見えない「第六感」をすべてふるに活用し。
「ディアボロス!」
俺は一瞬にして、ヴァネッタの後ろに舞い降りると、うしろから魔法を放った。
ヴァネッタの目が、驚愕に開かれる。
○
「……、どんだけ丈夫なんだよ」
俺はディアボロスを受けてもなおかつ、地に伏さない少女を見て、ため息をついた。
俺の放った炎のレーザーは確かに直撃したはずなのに。
ダメージは見えるものの、なんとか地面に立っている。
「……召喚のほかに、自動操縦か?
さすがに次に打つ手が思い浮かばない」
という俺の感嘆を、
「私の負けね」
いやにあっさり、否定する。
「もう、魔力は尽きたわ。
それにそっちには隠し玉がまだあるみたいだし」
……。
ばれてたか。
「メアリィさまを泣かせたら、承知しないから」
「任せろ」
と、俺は倒れゆくヴァネッタの体を支えた。
審判が俺の名前をうたいあげた。
○
「ずるいですよ、師匠。召喚獣なんて」
俺は苦笑しながら、師匠に抗議する。
「俺の時には、何も教えてくれなかった」
「うん。怠惰なお前のことだ、楽して戦うようになったらと思ってな。
……それに召喚というよりは、「想像術」だ。発想と実現性はヴァネッタのオリジナルだ。
そこだけは認めてやって欲しい」
ま、確かに。
才能と魔力だけは一流だった。
わずかに経験――、かすかな応用力の差で勝ったに過ぎない。
「むこうの試合も、カタがついたようだぞ。
おそらくお前の相手は、水の魔術師――、ヴェルモットになるだろうが……」
師匠が隣の会場に目をやる。釣られて俺もそちらを向くが……。
……しかし、そこに繰り広げられているのは、予想に反した光景。
水色の魔術師は地面に手をつき、頭を下げてふるえている。たいする紫色の男は、悠然とそれを見下ろしていた。
「勝者、パスツール!」
そして審判は。
……意外にも、紫色の魔術師の名前を叫んだのだった。




